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6日目

 6日目。12月23日。


 朝食中に菅が着て純恋に薬を渡した。薫と同じものだというから恐らく治るだろう。

 泰志が麗那を誘って、外へ。僕らはリビングに残っていた。


「隆、行くわよ」

「どこに?」

「わかりきった質問は時間の無駄!」


 瑠璃は僕の手首を取り、引っ張って行く。


「もしかして、尾行する気?」


 瑠璃のやりそうなことを口にする。


「ええ、そうよ。当たり前じゃない」

「…………………」

「何よ、別に珍しくないでしょう?」

「そうかもね」


 前も、尾行したが、何だかんだで楽しく遊んでいた。また、尾行しても途中で脱線する気がする。それにしてもなぜ僕だけなのだろう。僕が一人になるからだろうか。


「それで、泰志たちはどこに居るの?」


 キョロキョロと周りを見渡しながら、僕へ問いかける。


「知らないの?」

「貴方こそ、知らないの?」

「知らないよ」

「あら……」


 僕は昨日、泰志と作戦を練った。だが、ほぼ自分で考えると言ったのだから行き場所がわからない。瑠璃も同様。いくら麗那と仲良くても、先程誘われたばかりでは麗那にすらわからない。


「隆ってさ」

「ん?」

「……やっぱり何でもない」

「……?」


 瑠璃は何が言いたいかわからない。

 疑問に思いながらも瑠璃に言われるがままに行動した。


 まあ結局のところ、瑠璃と遊んだ。ある意味、デートと言えるが瑠璃に振り回されていただけだ。麗那の代わりなのだろう。麗那も大変なものだ。


 だがまあ……、楽しかった。



 再チャレンジ。


 俺の隣には、麗那が居る。

 今居るところは動物園。気に入っている小説の中に出て来たところだ。一度、行ってみたかった場所。俺個人の気持ちだが、麗那に楽しんでもらえると嬉しい。


 俺は水族館に行っていないので、人間以外の生き物を見るのは初めてだ。そして、動物を触れるところがある。触れるのも、初めてだ。人間と違い、ふわふわとしている。触り心地が良い。


 俺と麗那は、ウサギを触っていた。


「ふわふわしてるな」

「……うん」


 少し、口の端が上がっている。笑っているということ。

 やっぱり、麗那は……。



「なあ、もしかしてさぁ……」


 浩一のリハビリの手伝いをしながら、圭が呟く。


 圭と一斗は浩一のリハビリの手伝い、薫と純恋は奏音の手伝いと男女別となっている。

 互いが互いに、一緒に居たい人が違うが、浩一は歩けるくらいになっておきたいという思いがあって、圭と一斗は手伝っている。何せ、奏音一人では、浩一を支えきれないから。

 奏音は軟弱過ぎる。


「隆って、麗那のこと、好きなんじゃないか?」


 眉を顰めながら、問い掛ける。


「え?」

「そうなのか?」


 鈍感である二人は、そのことに驚きを隠せなかった。


「あー、お前ら二人に訊いた俺が馬鹿だったわぁ……」

「あははは……」

「失礼だな」


 一斗は苦笑いをし、浩一はぶっきらぼうに言い返す。


「何で、そう思ったの?」


 女子三人が、会話に加わり、薫が圭に質問する。


「泰志が麗那を誘う時さ、なーんとなーく傷付いていた気がしたんだ」

「そうなの?」


 薫が浩一と一斗に問いかけるが……。


「いや、俺に訊かれても……。声聞いてただけだからなぁ」

「僕はわからない。泰志の方を見ていたし」


 この通り、やはり二人は鈍感だ。


「圭の、気のせい、じゃないかな……」


 純恋は首を傾げる。その言葉に嬉しそうに圭が応答する。


「だよなだよな。俺の気のせいだよな」

「チョロいな」

「チョロいね」

「あははは……」

「…………………」

「チョロい?」

 圭の嬉しそうな顔を見て、浩一と薫は呆れ、一斗は苦笑い、純恋は恥ずかしそうに黙り込み、奏音は「チョロい」という単語の意味がわからず、首を傾げていた。



 動物園。


「んー、やっぱり触り心地いいなぁ……」


 瑠璃はウサギを撫で回している。


「もう、三十分は経ってるぞ」

「いいじゃない」


 そうは言うものの、実を言うと僕自身も楽しんでいるわけで。

 膝の上に乗せたハムスターを撫でながら呆れた口調で瑠璃に問いかける。


「瑠璃って、動物好きなの?」

「ええ。麗那の次に好きよ」

「一番好きなのは麗那か」

「まあ、ある意味、そうかもねぇ」


「ねぇ」と、ウサギに同意を求める。そんなウサギは、可愛らしく首を傾げていた。

 ある意味と言った理由はわからないが、瑠璃が恋しているであろう謎の人物とは違う意味ということだろう。誰かは全くわからないが。


「隆は?」

「何が?」

「好きな人」

「あー……うーん……。みんな、かなぁ?」

「気持ち悪っ!」

「酷いなぁ」


 もし、瑠璃の言う「好きな人」が恋愛だったのなら、気持ち悪いという感想は正しい。

 でも、僕が「みんな」と答えた時点で恋愛感情のことではないと理解しているはず。それなのに、気持ち悪いと言われるのは、悲しいものだ。


「みんな恋してるってのに、何でアンタだけ恋してないのよ」

「僕に訊かれましても……」

「……はあ」


 溜息をつかれてしまった。

 そもそも子供の時から一緒に居たのだから、今更異性という意識に塗り替えられない。

 このことは、前に瑠璃に話したはず。


「その様子だと、瑠璃も好きな人が居るみたいだけど、誰なの?」

「そういうの、セクハラって言うのよ」

「言わないと思います。セクハラは性的行為なので」

「細かいことはいいのよ。さ、次行きましょう、次」


 ウサギを手放し、立ち上がる。


「あ、おい……」


 先に行く瑠璃を追いかけた。



 昼の時間帯。


 隆と瑠璃が戻って来て、数十分後に泰志と麗那が帰って来る。


「なあ、瑠璃」


 昼を食べ終え、瑠璃に声をかける。


「何よ……」


 すこぶる不機嫌そうな顔で答える。最近、関わることのなかった麗那との会話を邪魔してしまったからか。

 瑠璃を俺の傍に招いた。瑠璃は実に不機嫌そうだ。そのことに気付かないふりをして、話をする。


「もしかしてさ」


 瑠璃の思惑を訊く。瑠璃は不服そうに頷いた。

 泰志と麗那が出かけた後、瑠璃がみんなに声をかけた。


「これから動物園に行かない?」


 その提案に隆が驚く。隆から聞いた話だが、瑠璃と隆は午前中、動物園に行っていたらしい。俺としては、まだ訪れていない動物園は興味深い。


 瑠璃の提案に俺は賛成する。


「賛成だ」


 それと同時に、一斗、隆、薫、純恋が賛成。


「浩一と奏音は来なくてもいいよ」

「酷い言い方だが、そうさせてもらう」

「わたしも……」


 浩一と奏音が宿に残ることを決めた。


 他は動物園に向かった。見たことのない生き物が居る。近くにその動物の詳細、説明が書いてあった。俺は本が好きなわけではないので、知らないことが多い。


「瑠璃」


 瑠璃の隣に並び立ち、動物を見ながら声をかける。


「何よ」


 先程と同様。不機嫌な声でそっぽを向きながらも、応答はしてくれる。


「何で俺達を誘った?」

「あら、貴方は来なくても良かったのよ?」


 多分、俺の質問の意図はわかっているはず。それでいて、惚けるのか。

 軽く睨んでいると、彼女の方から折れた。


「浩一と奏音を二人きりにしたいから。それだけ」

「二人きり?」


 また、ふざけたのかと思ったのだが、本当のことらしい。


「まさか!」

「いきなり大声出さないでよ。煩いじゃない!」


 耳を抑えながら俺を睨む。


「わりぃわりぃ」


 ヘラヘラ笑いながら、右手を立てて謝る。


「両想い?」

「かもね。少なくとも、みんなとはちょっと違う。奏音は自分の感情がわからない。浩一は自分の感情を認めているけど、まだ認めたくない。みたいな感じね」

「おー……そうか、そうなのか。全く、何でこんな面白いことを俺は気付かなかったんだよっ……!」


 こんな面白いことを、俺より先に見つけた瑠璃に負けたのは認める。それを理解していたのか、瑠璃が付け足した。


「アンタ、隆にも負けてるわよ」

「はあ?」

「私より先に見つけたもの」

「はああ?」

「うっさい」


 瑠璃の文句を無視する。

 まさか、このことを誰よりも早く気付いたのが、隆だったとは。絶対に可笑しい、明日は大雨か雪が降るだろう。季節的に冬だから、雪が降らないとは言えないか。明日は地震が起こるだろう。事件か。とにかく、何かが起きる。絶対。それほどに意外なこと。隆は浩一と一斗と同様、鈍感であるから。



 夜。


 動物園を出る。そして、少しだけ真っ直ぐ歩く。そこは丘。下には昨日遊んだ湖がある。


「今日は、楽しかった?」


 彼女が無だということを知りながらも訊く。

 その問いに麗那が頷く。

 その返事は驚くと同時に納得する。


 俺が麗那の病を治す目的でデートのお誘いをした。だが、今日のデートの際、少し表情を出していた。普段は出さないのに。珍しい場所、初めての場所で油断したのだろう。無意識なのだろう。


 だから、そう。改めて思った。認めざるを得ない。麗那はもう、治っている。


「ねえ、もしかして、治ってる?」

「…………………」


 黙り込む。口を開きそうにないので、肯定と受け取る。


「薬ってわけじゃないんだよな」

「うん」

「じゃあ、誰?」


 無感情の彼女の病気を治すのはやはり、人の影響。そう考えたから、俺は彼女の病気を治そうと努力した。たったの二日だったけど。


「……みんなの、お陰」


 少し微笑む。だが怪しい。俺は「みんな」ではなく「誰か」によって彼女は変わったと思っている。

 俺はその「誰か」が、なんとなく、わかった。


「そう、か」


 でも、深入りはしない。


「訊いても、いい?」

「……?」

「どうして、感情を俺に見せたの?」

「それは、油断してたから、かな」


 俺の思った通りだったみたいだ。

 そうは思うが、俺は違うことが訊きたかった。


「俺が告白した時も、感情なしのままの返事でも良かったんじゃないか?」

「それは、誠意がない。気持ちを伝えられたら、その気持ちに同じ気持ちで答えなければならない。相手に、失礼だから」

「そっか」


 その答えが訊ければそれでいい。


「それに、私は感情を隠してるつもりはない」

「そうなんだ……」


 隠しているつもりはないのなら、今までの無表情は癖か。


「あのさ」

「……?」

「これで、諦めるから、ちょっといいかな」

「どうぞ」


 最後の最後に勇気を振り絞り、抱きしめる。

 彼女の温もりを、感じてみたかったから。



 そろそろ夕食の時間になったので、動物園から出る。みんな、宿に戻る中、私と隆は残っていた。


「瑠璃は帰らないの?」

「隆こそ帰らないの?」


 隆が質問するので、同じ質問を返す。


「僕はちょっと残るよ」

「何で?」


 何でかは予想はつく。


「何となく」


 まだ、自分の気持ちに気付いていないようだ。

 今日、隆と一緒に麗那と泰志を尾行した理由の一つだ。


 自分の気持ちに気付かせること。


 彼は自分の気持ちに気付いていない。知らぬうちに自分の心を傷付けている。

 だから尾行して、密接度を観察し、ヤキモチをしてほしかった。尾行は失敗したけど。


 ただ不服だったのは、この計画を圭に知られたこと。

 でもまあ、邪魔をしなかったのでいい。

 だけど、どうやらもう直ぐで自分の気持ちに気付くようだ。


「そう」

「ああ……」

「一人になりたいの?」

「……ああ」

「そう」


 じゃあね、と手を振りながら宿に戻った。



 瑠璃が去ってから、少し歩くと、麗那と泰志が居た。泰志が麗那のことを抱きしめている。


 その様子を見て、慌てて隠れる。こういうシーンは誰にも見られたくないだろう。


 嬉しい気持ちと悲しい気持ちがあった。それと同時に、後悔も芽生える。

 なぜだろう。

 とても、複雑だった。


 そんな複雑な感情を抱きながらその場で立ち、ぼーっとしている。


 どのくらいが経ったのだろう。


 雪が降り始めた。雪というのは初めて見る。アニメやドラマ、漫画、小説などで見たことがある、白い粒。それがぽつん、ぽつんと降って来る。


 空を眺める。


 寒いな、と感じながら息を吐くと、その息は白かった。

 この白い息は実物を初めて見た。

 だけど、その白い息の感動よりも先に。


 ふと思った。

 僕は……。

 僕はきっと、あの時から……。


「隆」


 綺麗な声が聞こえた。

 その声に心臓が飛び跳ねる。

 ドキドキが止まらない。

 それは、きっと、認めたから。

 今までの僕の気持ちを。


「え、えっと……。何、か?」


 心臓が高鳴るのを無視するように尋ねる。


「なかなか帰って来ないから」

「あ、あぁ……。ごめん……」

 それほどの時間をここで過ごしていたのか。迷惑をかけてしまった。後でみんなに謝っておこう。


「帰りましょう」


 手を差し伸べる。だが、その手を取ることは出来ない。ただの麗那の手を取る行為が緊張する、というのもあるけど、まだ帰りたくない。

 我儘だけど、それは譲れない。


「ごめん。もう少しだけ、ここに居させて」

「…………………」


 返事を待たず、回れ右をする。

 振り返って思い返すと、麗那の首に何かが巻かれていたような……。

 麗那は帰るわけではなく、こちらに近付いて来る。足音がそのことを伝えてくれた。そして、温もりを感じるほどに距離を詰められた頃。


「……!」


 首に何かが巻かれる。何事かと思えば、麗那の首に巻かれていたものを僕に貸してくれたらしい。これは確か、マフラーと言ったか。首回りが温かくなる。その温もりを感じながら、思い出した。部屋の中に、上着と共に長い布が置かれていた。あれはどうやらマフラーだったらしい。


 麗那が去って行く。


 麗那が完全に去った後、白い息を吐く。

 先程初めて見たので感動は薄いけど、楽しく、面白く、ハマってしまった。


 数分という時が流れ、僕は宿に戻る。

 麗那にマフラーを返し、みんなに迷惑をかけたことを謝り、夕食を食べた。風呂や他愛のない会話をして、夜十時半頃に寝る。

 その間、麗那とは一度も目を合わすことはなかった。



 2日目の12月19日。瑠璃に呼ばれた。瑠璃の部屋に招かれた時、僅かに鼓動が早くなることを感じる。それを無視しながら、瑠璃に向き合った。


「ねえ、貴方は、いつから……」


 どこか、見透かすような瞳で、微笑む。


「病気が治ったの?」


 その質問はいつかされると思っていた。ただ、予想よりも早い。


「六年前」


 隠すことなく話す。するとその答えが意外らしく、目をパチクリさせ「あははは」と苦笑いをする。


「どうして、隠してたの?」

「隠しているつもりはない」

「じゃあ、何で、無表情なの?」

「知らない」

「癖?」

「多分」


 短い会話。この会話は殆ど、意味のないものだろう。瑠璃の訊きたかったことはこのことではないはず。


「誰のお陰?」

「みんな」

「嘘」

「そんなことはない」


 事実を言ったのだが、否定された。自分のことだ。他人に否定される筋合いはない。


「わかった、みんなのお陰だとしよう」


 あくまで仮定らしい。それ程までに信用がないということか。悲しいものだ。


「でも、特定の誰かが、一番の原因じゃない?」

「…………………」


 口を噤む。その質問には答えられなかった。なぜだろう。言いたくない自分が居る。


「富岡泰志」

「?」


 質問の答えとは違う人の名前を出す。仕方ない。これに関しては言いたくない自分が居るのだ。この話題に変えさせてもらう。


「泰志のことが好きで、嫉妬心でここまでするとは……」

「!」


 このことを知っているのは、私ぐらいだろう。顔を真っ赤にして、口をわなわなさせていた。可愛い顔である。


「な、何よ! 私が隆と一緒に居るから、麗那こそ嫉妬してるんじゃない?」

「そんなことは……」


 ない、とは言い切れなかった。だが、今の私には嫉妬心というもの知らない。いくら病気が治っても、知らない感情はたくさんある。

 瑠璃が弄りモードになる。私はいつも見ている側だったのだが、初めて体験する。

 そう身構えていたのだが、私の予想は外れた。


「認めたわね」

「何を」

「隆だということを」

「…………………」


 そんなことを認めた覚えはない。確かに、先程のことを否定しきれなかった。でも、だからと言って、それを「認めた」ということにはならないはず。


「まあ、いいわ。わかった」

「…………………」


 何が良くて、何がわかったというのか。さっぱりだ。


「この会話は、秘密にしましょう」

「わかった」


 瑠璃にとって、恥ずかしい話。弱みを握った甲斐があった。このことに気付いたのは随分と昔。五年前くらい。観察したら、気付いた。それだけだ。


 互いが互いに弱みを握り合っている。私の弱みは弱みと言えるのかがわからないけど、言われるのは恥ずかしいと思う。……………。


「麗那、意外と手強いね」

「…………………」


 まるで、格闘技の人のよう。その言葉を無視した。



 4日目の12月21日。泰志に誘われた。

 泰志が私のことを特別視していることは何となく感じていた。ただ自意識過剰とは思われたくないので、そのことを頭の隅に追いやり、次第に消えていった。


 だが。

 夜、観覧車というドラマチックなところで告白をされた。この場所を選んだのは、彼ではないと思う。彼らしくない場所なわけだし。


「麗那と一緒に居ると落ち着いて……。こんなこと言われても気持ち悪いだけかもしれないけど、俺にとって、麗那は必要不可欠な人間なんだ。だから、その……付き合って、ほしい……」


 まさか、そんな言葉が来るとは思わなかったけど……。

 正直な気持ちには正直な気持ちで返さなければ。

 それが、誠意というもの。


 瑠璃に言った通り、病が治ったことを隠しているわけではない。多分、癖なのだろう。

 でも、少しだけ……。


 だから、私はちゃんとした気持ちで答える。


 その所為で、少し、怪しくさせてしまった。


 別に、いいのだが……。

 少し、悲しい……。


 私の病が治ったのは、あの人のお陰で、一番最初に気付いてほしいのは、あの人で。

 だから、一番最初に瑠璃が気付いたのは、少し悲しい。

 その次に気付いたのが泰志で、少し悲しい。



 6日目の12月23日。泰志に誘われた。


 まさか、二度目があるとは思わなかった。

 私は油断していたようで、表情が零れていたようだ。


 もう一度言う。


 決して、隠しているわけではない。

 それで、その行動が一昨日の「怪しい」が「絶対」になったらしく……。


 瑠璃と同じ質問をされた。

 勿論、同じ回答をした。それが、本当に答えだから。


 でも。

 やはり、気づかれるもので……。


「みんな」と言ったのに、たった一人の「誰か」と認識されて……。

 しかも、その「誰か」を予想されてしまって……。


 彼は確かにそんなことを言ったわけではない。

 でも、彼の態度が私に教えてくれた。


 違う、そうじゃない。

 私の気持ちを一番に知ってほしいのは瑠璃じゃない。泰志でもない。

 彼なのだ。


 伝えればいいのだけど……。

 そういうのとは少し違う。

 そこは……。その……。

 ………………。


 夜、帰って来ると彼が居なかった。彼は瑠璃と一緒に居たはず。まさか、同じところに居るとは思わなかったけど。それで一度も擦れ違わないのだからそれほどの広さなのか、奇跡なのか。


「あー、ちょっと待って」


 彼が帰って来ないので探すことに決めたが、瑠璃に止められる。


「私と麗那で探してくるから」


 私に微笑む。何やら裏があるようだ。


 瑠璃の後に続く。


「多分、動物園付近に居るから、いってらっしゃい」


 そうは言うが……寒い。

 一度、部屋に戻り、上着とマフラーを身に着ける。


「行って来る」


 その一言だけ言い残し、動物園付近に向かう。

 そこから少し歩き回って……。

 彼の後ろ姿を見つけた。


 名前を呼ぶ。

 驚いた様子で彼は振り返る。気のせいか、顔が赤い。


 帰ろうと誘ってみた。断られたけど。

 断られたから、一人で帰ろうとしたのだが、寒そうな姿が視界に映る。自分のマフラーを外した。彼の首に巻かせると、ビクッと体を動かす。


 緊張が増す。

 そんな感情を無視する。

 いつも通りに。


 彼が帰って来た後、彼とは一度も目を合わすことはなかった。


 …………………。


 出来なかった、というのが正しいか。

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