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1日目

 1日目。12月18日。


 午前十時頃。たまり場。

 朝ご飯を食べている途中、菅が訪れて来た。そして、十時頃にたまり場へ来いと伝え、去った。それだけしか伝えていないので、何があるのかわからないが、行かないという選択肢はないだろう。たとえ、行かなくても、この施設は狭いので、菅が見つける。もし、探さなかった場合は、どうでもいいことなのだろう。僕は一応行くけど。


「何でしょうね、いきなり」


 丁寧な口調で、圭は呟く。この性格の時の圭は、優しく純粋なのだ。よく笑うような人だ。それが、圭のもう一人の姿だ。


「あれじゃないかな? 特別授業みたいな?」


 首を傾げながら一斗が応答する。この時の圭と一斗は気が合う、というか性格が似ているので、僕は少し居辛かったりする。


 特別授業というのは、菅が僕らに勉強を教えてることだ。いつもは適当に勉強して、わからないところがあれば菅に聞く、というかたちだ。でも、一週間だけ菅が教師として、勉強を教えてくれたときがあった。なぜかというと、彼の気まぐれらしい。その一週間のことを、特別授業期間と勝手に呼んでいた。


「ね! 隆」


 そんな会話に入り込んできたのは瑠璃だった。


「麗華のことが気になっているらしき行動を取ったってホント?」

「……貴方が何を言っているかわかりませんが?」

「だって、私の日記に書いてあったんだよ? 隆が怪しい行動を取っていた。だが、詮索途中、浩一に邪魔されたって」

「何のことでしょうかね」


 瑠璃は一日で記憶がリセットされてしまう。だから、昨日の出来事は何一つ覚えていない。対策として、薫や純恋と同様、日記に書き記している。


「これは私の字で、私が昨日書いたの! ちゃんと麗那に確認したら、ここに書いてあった会話通りだった言ってたもん」

「知りませんよ、そんなもの」


 そんなものを正直に言えるわけがない。それに、麗那本人も居ることだし。しかし、幸いなことに、圭がこの性格だ。弄られる心配がない。


「どうやら揃っているようだ」


 その時、たまり場に菅が姿を見せる。菅は二本の試験管を右手で持っていた。その試験管に何かが書かれている。よく見てみると、「002」と「009」がマジックペンで書いてあった。それは、奏音と薫の数字。何の為に書いてある数字かは説明を受けていない。質問されても、濁されるだけだった。


「キミ達に一週間を与える」


 一週間を与える。どういう意味かわからない。その間に何をして欲しいのか、その後に何があるのかわからない。


「その間で、最高の思い出作りをするんだ」


 思い出作りをするということは、ここから立ち去りでもするのか。


「意味不明だ。何がしたい?」

 浩一だ軽く睨みながら菅に質問をする。


「知ってしまえば、思い出が良いものにならなくなる。状況がさっぱりわからなくて、気になって楽しめなかったとしても、知るよりマシだろう」


 それほどまでに残酷な知らせでもあるのだろうか。ここで訊き出すことも出来ない。


「質問はないか?」


 質問したところで、何も答えてはくれない気がした。僕らの一番知りたいことは話してくれないのだろう。それなら僕からの質問はない。


「ここで、思い出作りをするんですか?」

 恐る恐る手を挙げながら質問したのは一斗だった。てっきり、質問をするとしたら、浩一だと思っていた。


「いや、ここは立ち入り禁止とする」

「何でよ!」


 じゃあ、どこで思い出作りをしろと? という疑問が浮かぶ。もしかしたら、ここが何らかの理由で使えなくなり、別の施設へ一週間過ごす。その施設にはもう訪れないかもしれないから、思い出を作れと言っているのかもしれない。


「理由は言えない。どこで思い出作りをするかに関してはついて来い」


 たまり場を出て、向かいの扉を開ける。そこは、菅がいつも居るところで、誰も入ったことのないところだった。みんなは戸惑いながらも菅について行く。部屋の中は白い壁。そして、二つのドア。そのうちの右のドアを開ける。

 そこは先程と同じような白い部屋があった。と言っても、一つだけドアがある。十個の数字だけが記されている電子キー付きだ。その電子キーを誰にも見られないように自分の姿で隠しながらパスワードを入力し、扉が開く。

 今度こそは、と思ったのだが、キーボックスが二つある部屋に着いた。その二つのキーボックスは、宝石店にでも飾られているように、ガラスに覆われている。そしてその横に電子キーがあった。左の箱の電子キーを解除し、ガラスから箱を取り出す。そして、暗唱番号を入力。出て来たのは、鍵だ。向かいにあるドアに鍵を入れ、ドアを開ける。


 そこに広がっていた景色は、テレビやら漫画やらでしか見たことのないものだった。最初に目が入るのは遊具。確かあれは遊園地と言ったか。いろいろな乗り物がある。その奥には水族館やらカラオケやらゲームセンターやら。上を見上げれば、空がある。青い空というもの。少し雲が見える。画面越し、紙越しでしか見たことのないものばかりがある。


「ここで一週間過ごしてもらう。キミ達にとっては夢の国と言ったところか」


 前に、菅に願ったことがあった。遊園地とか水族館とかに行ってみたいという思い、夢を菅に語った。それは実現出来なかったものだ。しかし、それが急に、こんなかたちで実現出来るとは思わなかった。


「キミ達の部屋は、ここにある。寝泊りや食事は自由にしてくれ」


 菅が指で示した先、僕らの居る隣に建物があった。二階建てのものだ。


「それから、浅田奏音と双葉薫。双葉薫に関しては、双葉純恋でも構わないが、これは薬だ。一応、試作品なので、治るかはわからないが、命の保障はある」


「002」と書いてある試験管を奏音に、「009」と書いてある試験管を薫に渡した。


「飲むか飲まぬかは本人の自由だ。最初で最後の最高の思い出にしてくれ」

 では、と菅が去って行った。


 扉が閉まる。一番後ろにいた瑠璃が扉をガチャガチャと開けようとするが、こちらからは開けられないようだ。追いかけることも出来ない。


 最初に思い浮かぶ疑問と言えば、ここがどこなのか、だ。見たところ、僕達以外の人は居ない。つまり、施設の外でない可能性がある。厳重にされていた扉も気になるが、それは誰にも入って欲しくないからか。もしくは、僕らをここから逃がしたくないのか。


「命の保障はついてるけど、どうする?」


 瑠璃が薫と純恋に話しかける。奏音に関しては、今何を手にして、どういう状況なのかがわかっていないだろう。自分の意思関係なしに、薬を飲むか飲まないかが決まる。そう考えると可哀想なものだが、昔から自分の意思なんてわからないし、こちらも勝手に決めているので仕方ない。


「でも、治らない可能性もあるんでしょう?」

「うん。悪化する可能性もある……」

 二人が不安そうに試験管を見る。圭も困った表情で二人を見ていた。


「瑠璃だったら、飲む?」

「私? んー、そうだなあ……」


 こうして、治るかもしれない薬を配られたわけだから、瑠璃の番も来るかもしれない。僕だってそう。しかし、前に菅に僕の病気について訊いてみたことがあったけど、普通の人間だ、と答えられた。障害のある人の中でも、普通の人間は必要だから、僕が居るとか。


「ま、飲むかもね」

「え? 怖くないの?」

「苦しむかもしれないんだよ?」


 瑠璃の答えに二人は驚き訊き返す。


「だって、命の保障はされているんだよ? 治るかもしれないに賭けるでしょう。私、昨日の出来事とか一昨日の出来事とか忘れるの、嫌だもん」


 それはいかにも瑠璃らしい回答だった。


「じゃ、じゃあ、わたしが飲む……!」

 そう勢いよく決意を示したのは薫だった。


「薫、飲むの?」

「頑張ってみる……」

 純恋はが心配そうに薫の顔を覗き込む。薫は暫く試験管の中を覗いていた。


「頑張って、薫!」


 瑠璃が薫へ応援する。それに続いて、純恋、圭、一斗と、薫へ視線と応援をする。それが、プレッシャーになったみたいで、みんなに背を向けて、深呼吸をする。息を吸い、試験管の中の液体を口に入れた。


「「「「「「「「「「…………………」」」」」」」」」」


 誰も何も発しない。


「一応、大丈夫」


 薫はみんなの方に振り返って、笑顔になる。喜びの声があがるが、不定期に記憶が破損するから治ったか治っていないかはわからない。だが、一日一回くらいは破損するので、明日まで何も記憶の破損がなければ治ったと言えるだろう。


「奏音に関してはどうする?」


 その瑠璃の言葉に誰もが口を開かない。これに関しては奏音に決めてもらいたいこと。

 だが、本人は今の状況も、みんなが何を感じているかもわからない。


「私は、飲ませた方がいいと思う」

 真剣な眼差しで、みんなに提案をする。それに同意するように、浩一が発言をする。


「俺も同意だ。命に別状はないわけだし、治る可能性だってあるんだ。それに賭けるべきだと思う」

 瑠璃と同じことを言う。でも、真剣な思いが伝わって来る。

 それぞれ意見を聞いた。こうして、みんなの決断で奏音をどうするかを決めた。意外と短く済む。結局のところ、みんな同じ意見だった。


 浩一が、奏音に薬を飲ませる。基本的な世話は浩一がやっている。流石は、みんなのお兄さんということだ。


「「「「「「「「「「…………………」」」」」」」」」」


 先程と同様。誰に何も発しない。だが、特に奏音の苦しんでいる様子は感じない。


「何も変化なしってこと? これ」

 瑠璃が困ったよように肩を竦める。しかし、変化はあったようだ。


 奏音が瑠璃の方へ向く。

「あ、あれ? これは何? どういうこと?」

「もしかしたら、声が、音が聞こえるようになったんじゃないか?」


 浩一が奏音を見ながら言うと、それに反応するように、奏音も浩一の方に顔を向ける。


 どうやら、浩一の考えはあっているようだ。ただ、目は見えていない様子。だが、聞こえるようになっただけでも、生活はしやすいはずだ。


 それぞれがそれぞれの名前を名乗り、浩一が今までの状況説明をする。その途中、昼の時間となったので、寝泊りするところ、宿へ向かった。宿の中は二階とあまり変わらないものだ。上の階には七つの部屋。下の階には三つの部屋とリビング。上の部屋のドアには奥から順番に「001」「002」と書いてある。下は「008」からだ。「010」の部屋の隣はリビングだ。リビングには長机と椅子が九席。そしてキッチンがあった。食材もちゃんと冷蔵庫にあり、一週間分の食事はあるようだ。因みに、リビングの隣に、お風呂場があった。風呂は、本でしか読んだことのない、施設より大分小さい、所謂、普通の風呂の大きさだった。二人は入れても、三人はちょっと無理があるような大きさだ。


 お昼を食べながらも話を続ける。多少、思い出話をしてしまったものの、重要なところだけはしっかりと説明をした。奏音は赤ん坊同様なので、説明するのにもの凄く時間がかかった。喋ろうとしても、出た言葉が日本語には到底思えないものばかりで大変だったが、楽しい時間となった。


「それで、これからのことなんだが……」


 僕らが向き合わなくてはならないのは、これから一週間のことだ。一週間、ここから出ることも出来ない。楽しそうな遊具ばかりで、遊んでみたいものや、やってみたいものばかりだが、それよりも気になることの方が気持ちが勝っている。


「私は、楽しむべきだと思う」

 またもや、瑠璃が積極的な発言をした。


「あそこで何が起こってるか知らないけどさ、折角のチャンスだよ? 楽しまなくてどうするよ」

 心底楽しむ気分のようで、目をキラキラと輝かせている。


「菅のことは気にしても口を割ってくれる気配とかないし。思い出を作れって言われて、ここに来たんでしょう?楽しいことばかりじゃない」

 気楽にいこう、と瑠璃は言っている。


「そうだな」

 優しく微笑みながら浩一が同意をする。


「確かに、気にしても、仕方ないよね」

 少し小さな声で一斗も同意。


 それぞれが楽しむ気分になったようだ。

 なにせ、ここには、僕らがやりたかったものがあるのだから、楽しまなければ損だ。

 やりたいことを順番に、それぞれがそれぞれで行動をした。

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