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⑾『或る一つの、部屋』
⑾『或る一つの、部屋』
㈠
或る一つの、部屋には、芥川龍之介の全集も、眠っている。これは非常に重要で、俺は、確かに自殺している芥川龍之介からは、現在距離を取っているが、しかしそれでも、必要に応じて、全集を読んだ記憶が、この部屋には眠っているのである。
㈡
少し、旧字体の全集であるが、訳も分からず読んでいた頃より、よっぽど、現在のほうが、芥川龍之介のことを、分かっているつもりだ。それでも、この部屋に、眠り、云わば、埋葬された全集は、生き生きと、俺の脳内に言語化されているのだ。
㈢
詰まらないことだ、と人はいうかもしれない。全集を読め、と言うかもしれない。しかし、埋葬されたぶんだけ、俺にはその内容を思い出す契機になり、云わば、自殺せずにすんだ、小説の内容のみを、思い出して、執筆の契機としているのである。