表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

うたう花

作者: 遥々岬


ある少女が豊かな町で暮らしていました。

綺麗に手入れされた花や青々と葉が茂る木々、家で飼っている老猫の肉球のおひさまの香り。

少女はその全てが大好きでした。


少女はある日町から少し離れた森へ出かけます。


聴こえるのは葉が震える音と小鳥のさえずり、そして森を進む自分の足音だけ。

森の香りが心地よく少女を奥へと誘います。



辿り着いた森の奥にうす桃色の丸ぼったい花がいちりん、スポットライトのような陽を浴びて咲いていました。


「なんて可愛らしいのかしら」


少女は花の傍に膝をつき、花びらを優しくなでました。

すると少女は不思議な音を聴きます。


甘く優しいうた声が辺りに澄み渡りました。

その声は花がうたっているようでした。


その花は少女のひみつの宝物になりました。

摘まれてしまうかもしれないので誰にも言いません。

少女は毎日、朝から森へやってきて空が赤くなるまで花をなでました。



そして季節はすぎて息が白くなったころ、

森の木の葉は色を変えました。


それは、花も。


愛らしかったうす桃色の花びらも赤錆のように固く脆くなり砕けました。

花は大きな丸いタネを作っていたので、少女は枯れた花の近くにそのタネを埋めることにしました。


春に咲き、美しいうたを森に運ぶと信じて。


しかし何故でしょう、涙が出るのです。

きっと少女はうたを聴きにココへはもう来ることはありません。

新たに咲いた花がうたうであろうその歌が愛したうたではないのだと少女は分かっていたのです。



タネを植え終わったころ、やわらかく雪が降ってきたので少女は冷たさに赤くなった手を擦りながら暖かい家に帰りました。


少女は暖炉で暖まっている老猫のそばに座り、なぐさめを期待して優しく撫でました。

しかし猫は少女を出迎えることもなく眠り続けています。その周りには老猫の子供が寄り添っていました。


町の綺麗に手入れされた花も枯れ、木々も葉を落としていました。

少女の愛した花は枯れ、老猫は眠り続けます。

少女はかなしくなって頭まで布団をかぶり潜りました。


すっかり町は色を変え、静かな冬が訪れたのです。





童話とは、子供に向けた教訓である と聞いたことがあります。

直接的な言葉では表現せず、話の流れで物悲しさが出せたら良いなと思い書きました。


大切なものは直ぐ身近にあったのだと、季節の終わりと共に感じていただけたらと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 同じ種類の同じ見た目の花が翌年咲いたとしても、それは、少女の愛した花ではありませんものね。 もう枯れてしまった花だけへの愛を固持するのか、代の繋がれた花にも愛を向けるのか。 少し難しい問題で…
[良い点] 切なくて何度も読んでしまいました。 肉球のおひさまの香りのところがすごく好きです(o^-^o) 猫ちゃんも少女のことが本当に大好きで、悲しませたくなくてわざと少女の不在の時だったのかも…
[一言] 永遠に変わらないものなどはないですし、すべての事柄が自分の望むような形になるとは限らない。 それは当たり前のことですが、大人であっても受け入れることが困難な時もありますし、万能感の強い幼少…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ