あるボロアパートに住む、社会人女性の場合
私の名前は『南筑洋子』
このボロアパート『避狐荘』に越してきた二十歳の社会人女性。
日曜日、布団の上で大の字で目覚めた私。夢うつつの中、握りしめた右手を眉間に乗せると、何か硬いものを感じた。
どうやら、眼鏡をかけたまま眠ってしまったよう。
私は上体を起こし眼鏡をかけ直すと、肩の辺りまでがさつに伸ばしまくった黒い髪を、右手でしち面倒臭そうにかきむしりながら、部屋の中を見渡す。
すると、扉の入口の上に設置してある平たい蛍光灯が、見ていたかの様に点滅を始める。
……それは、来客の合図。私は下着姿だった為、再び布団に横になると、タオルケットをかぶり、いないふりをする。
……だけど、居留守は効かなかった。その女性は、合鍵で玄関の扉を開けると、無遠慮に家の中に入り、私の部屋の扉を笑顔いっぱいに開け放つ。
部屋に入って来たのは、隣に住む幼馴染み『赤留井子』
井子は、私の部屋が真っ暗なのに気づくと、未だ居留守を決め込んでいる私のそばを足早に通り抜け、何の断りもなく遮光カーテンを開け放つ。
井子の強引さに負けた私は、しぶしぶ布団から出ると、その場であぐらをかく。
その姿を目にした井子は、頬を赤くしながら、布団のそばに脱ぎっぱなしにしてた衣服を私に差し出す。
私は、井子から衣服を受けとると、少々面倒臭そうに着替えを始める。
その間、井子は私に背を向けたまま。
私は、着替え終わると井子の肩をつつき、もう振り向いても良いことを伝える。恐る恐る振り向く井子。
井子は、私がちゃんと服を着ている事を確認すると、敷き布団に乗っている私を両手で押し出し、半ば強引に布団をたたみ始める。
布団を上げ終わり、私の前に戻って来た井子は、お礼を伝える隙もあたえずに自分の胸元で両手を合わせる。
このあとの井子の口元は、何時も同じ動きをする。
朝ご飯、作ってあげる……って……
本当……おせっかいだな……
私は、井子の綺麗な黒髪を撫でながら、今度はちゃんとお礼を表す。顔を赤らめながら身をくねらせる井子。
あ……でも、食材が無いや……
その事を井子に伝えると、井子はふたりで買い出しに行く事を提案する。
私は、素直に首を縦に降ると、外出の準備を済ませ、井子と一緒に玄関向かう。
先に靴を履き、外に出る井子。私も後を追う様に扉を開け、外に出る。
そして、玄関に鍵をかけると、井子と手を繋ぎながら、近所のスーパーに買い出しに行った。
私の名前は『南筑洋子』
……耳が聞こえない……