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偽装婚約で好きになるなというのが無理

掲載日:2020/07/19

王子とシスター見習いの偽装婚約。

@短編その50

「は」


彼女、ハートリーは呆然とした。

目の前の紳士が、変なことを言った。提案とか言う。

偽装婚約をしてほしい、と。

なんでもとある国お姫様にそっくりだそうだ。顔も姿形も髪色も瞳も。

ドッペルゲンガー?

そう言えば、どこかの国のことわざで、『世の中には自分に三人似た人がいる』とかあるらしい。

そのひとりなのか。じゃあ、あと一人に命じろ、王子。彼女はじろりと紳士を睨んだ。

目の前の紳士は、この国の王子様で、変装しているらしい。


「そんなに似てるんですか?」

「ああ・・その巨乳も」


どこ見てるんだ、と言うか、凝視ですね。

大きいことはいい事だと、どこかの国の製菓会社が言っていました。

でもこれ、結構邪魔なんです。

欲しいと言う奴がいたらくれてやりたいです。

でも王子と婚約とか。

彼女は孤児で、この教会のシスターですが、見習いでした。だから結婚は出来るのですが・・

王家?無理無理無理!!もう必死で拒んでいます。


「でもよく私を見つけましたね」

「去年ここに慰労訪問できた時に、似ているなと思っていたのだ」


そういえば、王女様と王子様が去年いらしたわ・・・下っ端見習いだから、後ろにいて。

そうだ!

つまづいて、王子様の前に倒れたわ・・・

そして親切な王子様が起こしてくれて。


「大丈夫かい?」


って、声をかけてくれたんだっけ。

お顔がすごく近くてドキドキした・・・その時か!


「い、いかなくちゃいけないですか?」

「問答無用。私は王子だからね。不敬罪になりたくないだろう?」



と言う事で、お城に連れて来られました。

うわーーー・・・お城だぁ・・・広い、でかい、綺麗!!

この壺高いんでしょうねぇ。彫刻とかもさりげなく置いてありますよ。

あたしの服の布より綺麗なカーテンに、ちょっとへこむ。

まあ、日頃シスターの服着てるし。お出掛け着なんですけどねぇ・・・と、思う事暫し。


「なにをしている、ついてこい」

「へい」

「・・・作法と一緒に、話し方も習わせなければいけないな」


何か言ってますよ・・

あたしは何させられるんでしょうね・・

ちょっと心配なハートリーさんです。




お城に来て、詳しい事情を聞きました。


我が国の王子、レオニード殿下の婚約者イヤハート様は大国のお姫様。

末娘で、甘やかされて育ったので我儘娘で、婚約者との顔見せの道中に脱走、行方不明になっている。国境近くでいなくなったので、まだ彼女の国に知らせを送っていないのだ。

半年の留学をして交遊を深め、結婚という流れだったのだが・・

まさか、姫を見失ったなんて知られたら・・・かの国は異世界転移者が3人いて、女性一人目は王の妃に、もう一人の女性は侯爵家の奥方に、あと一人は男性で聖者様で世界を癒して回っている。去年、この国にも来られ、魔障漂う山脈を浄化してもらった。恩ある国に対してこの事態を知られてはならない。

とにかく捜索は引き続き行い、もしもの時のために、彼女に影武者を演じてもらう、と言う事だった。

成功報酬は、教会の建物を改築、資金援助、そして人員補充だ。

彼女・・ハートリーはやるしか選択肢がないのでした。


「一言言っておく。私を好きにならないで欲しい」

「あ、はい」


偽装ですし。まあ、身分差もある事だし。本気になんてなりませんから。ご安心を・・

でも・・・ちょっと夢見てもいいですよね?





毎日3カ国語の勉強、ダンス、マナー、貴族の言葉をみっちり学習。

本来なら学園に留学でしたが、適当な理由をつけて家庭教師学習に変更しました。

そしてスキンケア、ヘアケア、ボディメンテと寝る以外はこのスケジュールだ。

最近乗馬も加わって、体は筋肉痛だ。




ハートリーがお城に来て1ヶ月が過ぎました。

レオニード王子も忙しい中、ハートリーの様子を見に来ました。


「出来てるかい?」

「出来ません。死にそうです」

「頑張ったら」

「・・頑張ったら?」


王子はつい、と近寄って耳元へ囁きました。


「キスしてあげる」


なんだそんなもんーーー!と、今までの彼女だったら、叫んで王子の首を絞めてグラグラ揺らしたでしょう。

でもハートリーさん、王子様に恋をしてしまいました。

出来ないと言ったら、キスのチャンスが潰えます。

毎日苦しい思いをしているのです。ちょっとくらいご褒美があってもいいじゃない?

こんな機会だから出会えた王子様です。ほっぺでも、おでこでもいいです。

貴族の令嬢や淑女にするみたく、手の甲に接吻も素敵!おまけにダンスも踊ってもらえれば最高ね!

ああ、返事。まえのあたしみたいに『頑張るっ!!』じゃなくて、貴族のお嬢様のように言うのよ・・


「頑張ります」


そしてカーテシー。

とても綺麗な礼に、王子は目を見張ります。が、一瞬です。


「大変だけど、宜しく頼む。では」




レオニード王子は週に一度は必ずハートリーのところを訪れ、お喋りをしつつお茶を頂いたり、ダンスのパートナーになって踊ったり・・・婚約者よりも交遊していたのでした。もちろん約束の・・・


「今週もよく頑張りました」


最初はおでこにキス。3回目はほっぺに。5回目は片膝付いて手の甲へ。

最近は(かんばせ)のどこかしこに2、3回。






それから2ヶ月。

ハートリーのど根性で、基本的な会話程度の3カ国語は喋れるし、聞き取れるようになりました。

ダンスもマナーもいい線いっています。貴族言葉がまだまだですが、喋らない奥ゆかしい性格をアピール、『扇子で口を隠しにっこり作戦』で、凌げるところは凌ぐ所存です。


ハートリーはどんどん綺麗になっていきます。

レオニード王子の気持ちが、彼女に寄り添うのは当然です。



お城に来て4ヶ月目。

なんとか誤魔化していたのですが・・・

遂に王女の代わりに、公式のパーティーに出なければならなくなりました。


「大丈夫だよ、ハート(()()()リーとイヤ()()()、同じ部分をあだ名にした)。君はもう一人前の淑女だ。さあ、手を」

「はい、レオニード殿下」


王子のエスコートされ、会場に入場。大勢の貴族たちの拍手、歓声の中ホール中央に進み、ファーストダンス。

レオニード王子の微笑み、輝く室内の装飾、大勢の着飾った貴族達。

何もかもが眩い世界だった。

クルクルとターン、王子にリードされて踊る。


ああ、凄い!私、頑張った!レオニード様と踊っているのよ!

でも・・・もうこの時間は長くない。

だって私は平民だもの。私の恋は、まもなく終わる。分かっている。

そこまで図々しくはないし。身の丈は分かっているの。

でも、今だけ。

私の王子様でいてね?レオニード様。



・・・実は3日前、やっと本物の姫、イヤハート嬢が見つかったのです。

この事実は、王子には知らされていませんでした。


宰相がハートリーのもとに訪れ、パーティーが終わったら人混みに紛れて去れと告知したのです。

レオニード王子がハートリーを好いている事に危惧して、一刻も早く離そうと考えたのでした。

教会への援助など、約束は守る。だが、ハートリーはこの国にいては困る。

彼女を遠い外国へ行かせる手筈を整えたのです。

ハートリーは文句を言わず、了解しました。

ダンスが終わったら入れ替わって、影武者役は終了。舞台を降りるのだ。



王子は彼女の瞳が潤み、涙が伝うのを見て・・

ハートリーが自分の前から去ってしまうのに気付きました。

王子の手に力が籠り、抱き寄せようとしたのを、ハートリーは繋ぐ手に少し力を入れて、小さく左右に首を振りました。

そして、口が『さ・よ・う・な・ら』と動きます。

大粒の涙が、ぽたぽたと滴りますが、くるりとターン、粒がキラキラと散っていきます。

あまりにも綺麗で、愛おしくて、目が離せないまま二人は躍り続けました。


レオニード殿下、さようなら。忘れません。今日までの日々は、私の宝物です。

騎士服に王族のマントが、金モールのタッセルが揺らめいて、とても凛々しくて素敵。




そしてダンスが終わり、わっと歓声が上がり、次のダンスのために準備したカップルがホールに押し寄せて。


レオニード王子とハートリーは逸れ、そっと彼女は連れて行かれて、彼は慌てて追いますが、人並みが妨害して見失って・・


「・・・レオニード()


先ほどハートリーが着ていたドレス姿の、同じ顔の娘が現れました。

一見笑ってはいますが、目は反抗的で、無理やり連れ戻されて膨れているようです。


ああ・・私のハートは・・・ハートリーは・・・いない。私の元からいなくなってしまった・・・

目の前にいるのは、頑張り屋で、優しくて、柔らかで、私を思ってくれた娘ではないのだ。

・・・私は次期王だ。これは政略結婚だ。愛情なんか無いのだ。納得していたはずだ。

胸を掻き毟られるような強い痛みと喪失感に、大声で慟哭してしまいそうなのを、必死で堪えた。


宰相は、彼女と本物が入れ替わった事に、王子が気付こうが気付くまいがどうでも良かった。

この婚姻のために奔走した宰相は、とにかく成功させたかったのだ。


王子は笑顔で、目の前にいる姫君を見る。だが目は暗く沈んで、姫君を()()()()()()

機械のように手を差し出し、


「どうぞ、手を」


姫君も、糸で操ったような動きで手を取り、会場のホールに歩んでいく。


もうどうだっていい。

子供を生む為の、種馬に成り下がろうでは無いか。

ハートリーでなければ、誰だっていいのだ。誰でも充てがうがいい。

そういう役目を、私にしろと言うのだろう?


冷たい笑みを浮かべ、王子の心は死んでいく。

側にいる姫君が愛しい娘にうりふたつなので、さらに怒りが増した。





1週間後・・・

突然、姫の国から使節団がやって来た。


その使節団には弟王子がいて、父である国王陛下の名代だという。

今回の『脱走』の事を、全て知っていると告げたのだ。


「この度、三女イヤハートがしでかした事態、誠に申し訳ない。そちらはこの件を我が国に報告しなかったが、捜索をしてくれていた事に感謝する。まあ、逃げたなんて話が広まったのでは、我が姉の心証も世間的によろしく無い。秘密裏にして頂いて正解だ、陛下は申していました。さて・・・この婚姻、そのまま続行でよろしいか?私個人としては、姉を即刻国に戻し、破棄した方が宜しいと思う」


レオニード王子は冷たい笑みで返事をした。


「そうですか。では、即刻連れて行ってください。あの顔は、あの姫の顔は、見たく無いのです」


宰相はぎょっとして静止しようとしましたが、王子はじろりと睨んで、


「そこにいろ、宰相」


凍りそうな口調に、宰相の動きが止まりました。


「そうでしょうそうでしょう。さあ、姉の代わりに彼女はどうです?」


弟王子は、黒いフードを被った人間を連れて来ました。

フードがすとんと落ち、顔が現れて・・・


「ハート!!な、どうしたんだ!!」


王子が驚いても当然です。

綺麗な髪はざくざく切られ、ぼさぼさになっていて、頬には大きな絆創膏が貼られていました。


「聖者である義兄が予見してくれまして。殺される寸前で助ける事が出来ました。ねえ、この企み、あなたでしょう?宰相殿」


レオニード王子が怒りのあまり、宰相を拳で血みどろにする大騒動となったが、それはいいとして。




改めて場所を変え、使節団にお茶や軽食を振る舞いながら、顛末を話し合った。


始まりは三女の脱走だった。


我儘姫は結婚がイヤで、従者ひとり連れて脱走した。

従者であり騎士、姫の幼馴染だ。

彼はこっそりと本国に連絡をとっていたのだが、何せ遠いからタイムラグが出る。

業を煮やした父親である国王陛下は、長女の夫で聖者の婿殿に頼んで、聖獣を従者に付ける。

これで何をしているのかが筒抜けになったわけだ。

何故レオニード王子の国は、姫がいなくなった事を連絡してこないのか。


「この辺は予想がつきました。先ほど言ったような理由でしょう?姉の醜聞を気にしてくださった、()()()()()()()()()()()


背の高い弟王子は鷹揚に笑う。なかなかどうして、食えない男である。


「さあて、このお嬢さんのことが気になるでしょう?わが姉をそちらに送り、姉の従者を連れて帰る途中で、義兄の予見通り、暴漢に襲われている馬車を見つけましてね。そしたら驚き、姉にそっくりなお嬢さんがいたではないですか!事情を聞きましたよ。彼女を影武者にしていたと。正直姉と交換していただきたいくらいだ。彼女が姉だったら」

「ダメです!!ハートはご容赦ください!!」


レオニード王子は思わず立ち上がります。


「ははは!貴方のハートリー嬢です、安心してください。さて、ハートリー嬢はどうして殺されそうなったのか、気になりますよね?」


弟王子は指を一本左右に振りながら続けます。


「宰相殿の行動は、国の為だと思うんですよ。ハートリー嬢を貴方の国に残せば、貴方が迎えにいくかもしれない。だから、外国へ連れて行く事にしました。でも外国に探しにいくかもしれない、なら殺してしまえと」

「ああ・・・ハート・・・ハート」


王子はハートリーの傍によろめくように近寄り、抱き締めました。


「私はハートを・・国の為に諦めたのに・・殺すなど・・・赦し難い」

「もっと早く助けられたら、髪も無事でしたが・・申し訳ない」

「いいえ!王子はすべき事以上をして下さいました。ありがとうございます」

「さて。父である王帝陛下からの、提案なんですが・・・」


背の高い弟王子が、鋭い視線でにやりと笑いました。





両国の王子と姫君の婚約は、結局破棄されませんでした。

イヤハート姫はレオニード王子の傍にいます。

仲睦まじい二人の挙式は、間も無く取り行われます。


()()()

「はい、レオニード殿()()


でも王子は彼女の名前をあだ名で呼び、決して『イヤハート』の名では呼びません。





それと、ハートリーという名の修道女見習いが、ふたつの国より遥か遠くにあるど田舎の教会で働いているそうですが、文句ばかり言っているそうです。


「わたしは大国の姫なのよ!!」

「はいはい」

「また妄想癖かい?」


誰も信じないようです。



二つの国は良好な関係を維持しています・・・

タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。

4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。

ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。連載もあるよ

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