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【10月末削除予定】僧侶はダメですか?

作者: satomi

短編詐欺です。

ごめんなさい。

よろしくお願いします!

僧侶の規範


『僧侶たるもの、女人との接触を避け、生涯独身であるべし』

それが俺、好野健タケルのモットーだ。

今朝も精進料理を食べる。


のが理想なのに何で…

「今日は精のつくように朝からニンニク入りのカレーよ!」

と母、美子ヨシコは言う。

「精進料理といつも言ってるでしょう?」

と俺が言うと、横から父、康二コウジ

「お前は自分のモットーを他人に押し付け過ぎだ。そしてなぜ自分が存在するのかを考えなさい」

うーむ、これでも俺の師匠だし、考えてみよう。宇宙規模の命題だな。


父が突然言い出した。

「Q1.何故お前は母親がいるんだ?」

はぁ?命題のヒントなら要らない。

「Q2.何故お前には姉妹が3人もいるんだ?」

…なんか読めてきた。


「親父…俺は僧侶は絶対だと思っていた。モットーとしていることを守っているもんだと思っていた。違うと言いたいんだな?」

「正解だ。少しは世界が広がったみたいだな。タケル」

「なんか、気が抜けた感じだ。ご馳走様」


うちは代々寺。稼ぎは檀家さんの思いやりでできている。

代々ってどのくらいだろう?うーん、江戸末期に建て直したって聞いたな。

だからか、所々モダンな感じもする。敷地内に自宅もあるし。門からは見えないけど。


それにしても、今朝のやり取りはちょっと腹の虫が~‼

空腹ではないが、腹が立つ‼



タケルの変化


もーなんか、どうでもいい感じだ。家を継ぐからと言っても剃髪済みではないが、茶髪にでもしたい感じ?

俺はかなり遅くにやってきた反抗期というような様相で自分の見た目を変えようとした。

茶髪は無理だな。という結論にすぐに至り、結果ピアスで終わった。


翌日の親父は怒髪天。髪ないけど。

「檀家さんを迎えたりするのに、ピアスなど!」とかなりのお怒りだった。

開けてしまったものは仕様がない。そこは諦めてもらおう。

ピアスに袈裟という風体で僧侶の務めを果たすことにした。


「ここは、萩野寺ですか?」

寺の門の前の女性に尋ねれた。

(そうだよな。門の文字はもう読めないくらい古びてるしな…)

「えーと、ここではなんですから、中へ案内します」

「お前の案内はなんかいかがわしい‼申し訳ありません、愚息が。渡辺様ですね?こちらへどうぞ」

俺は真面目なのに…。見た目で人を判断するとは。

ん?渡辺?

「渡辺飛鳥か?」

「呼び捨てとは何事か⁈タケル!」

「俺が中学の時の同級生」

向こうの方がビックリだろう。同級生が僧侶やってて、ピアス…。

「中学の同窓会にも来なかったからわかんなかったけど、僧侶さんなんだね」

この頭で同窓会はナイワー。



衝撃の告白


渡辺家…この辺の土地をぜーんぶ取り仕切っている財閥?みたいな。超金持。うちのお得意さん。一番大きい檀家。

とはいえ、渡辺飛鳥は同級生だしなぁ。あ、元か。


中学時代ねぇ、俺はモットーの元にろくに女と会話してなかったからな。名前覚えてたのは名前にインパクトがあったからだな。丁度‘飛鳥時代’とか歴史でやってた。なついなー。


親父との話も終わったようで、衝撃の言葉が親父から発表された。

「あー、そこの愚息。タケル。お前だ。ここの飛鳥さんと婚約するように」

はぁ?寝ぼけてる。いや、ボケたのか?

「おい、渡辺飛鳥。お前はそれでいいのか?」

「家の達示よ」と軽く言う。

「いきなり、10は年上のおっさんと婚約よりはいいわ。そんなこともあり得るから」

「金持ちも大変なんだな」

「で、タケル。お前はどうなんだよ?」

「これも寺のためなんだろ?それなら了承だ」

「そういうことでタケルと飛鳥さんは今後婚約者同士ということでお願いします」


寺の経営のためねぇ。これって政略結婚ってやつか?

渡辺飛鳥かぁ。中学の時は男子に人気があったような気がする。

女に興味がなかったから、美人とかわかんないんだよな。少なくとも俺の姉妹よりは女らしいな。


うわー!好野君と婚約‼まさか僧侶になってると思わなかったけど、なんでピアス?

目鼻立ちがハッキリしてるのは中学の時から変わらないけど、体格ががっちりしてたなぁ。

僧侶って体力使うのかな?大学の授業が休講だったりした時に寺にお邪魔してもいいかな?



婚約者同士とは?

翌日、いきなり大学の授業が休講だったりする。

寺の方に行ってみよう。


なんだか、声が低くて落ち着くなぁ。これは好野君の声?

「飛鳥さん?」

「あ、こんにちは。大学が休講だったので来てみました」

「タケルもこれでも4年は僧侶やってるので、簡単な仕事は任せてるんですよ」

私にはどれが簡単なのかわからない…。むしろ全部難しい。

「タケル、客人だ。きちんともてなすように」

「いらっしゃいませ。渡辺飛鳥。用件は?」

「来てみたんだけど、迷惑だったかしら?」

「昨日の今日でよく来たなーと思ったんだよ。粗茶でよろしければ出しますよ、お嬢様」

「よろしくお願いします」


うわー!私は何をよろしくされたんだ‼お茶を頂くだけだから!


ん?俺は何をよろしくなんだ?とにかくお茶で接待だな。


「俺らって婚約者同士でいいのか?」

「いいんじゃない?」

「婚約者ってどうすればいいんだ?いや、俺は最近まで『僧侶たるもの、女人との接触を避け、生涯独身であるべし』って生活してきたからわかんないんだ、なんか悪いな」

「あなたのお父さんに相談した方がいいんじゃない?僧侶としてっていうのあるかもだし」

「そうだな。とりあえず、『お茶を飲んで会話をする』は大丈夫そうだな」


「なー、親父。婚約者同士ってどうすればいいんだ?」

「好きにすればいいんじゃないのか?」

「具体的には?」

「そんなこと。うーん。気持ちが通じればイロイロな。その時にわかる」



僧侶の恋愛


うむ。わからん。親父に聞いてもわからんかった。


「こんにちはー」と元気に渡辺飛鳥が来た。

「どうも、愚息に会いに?」

親父…愚息っていちいちひどくねー?

「タケルさんは愚息ではないですよ。いつも仕事熱心じゃないですか」

「飛鳥さんが言うのならそうなんでしょうな」

と二人で談笑している。

「おっといけない。私が飛鳥さんを独占してはなぁ。どうぞ、あがってください」


「昨日の今日でどうも」と俺は言った。

「で、婚約者で制約あった?」

「うーん、特にないな。気持ちが通じればイロイロとか言ってたけど」

渡辺飛鳥が頬を紅潮した。

(今更か…)

「悪いなー。俺、お前に欲情しないんだ、これが」

「え、嘘?…だって高校の時だって私そうとうモテたんだから!今だってモテるし、ミスキャンパスにも選ばれたのよ?」

「そんなこと言ったってなぁ」

「もしかして、ED?それなら治すのに協力する‼」

参ったなぁ。マジなんだけど、EDじゃないし。


「俺は気持ちの問題かと思う」

「私はどうすれば?」

「そのままでいいんじゃね?俺の感情に問題があるんだろ。生涯独身ってずっと思ってたからじゃね?」



僧侶の苦悩


さて、どうしたもんか。欲情しないんじゃなぁ。朝勃ちする以上EDじゃないだろう。

婚約者だから、『うおー、こいつをずっと幸せにしたい。俺が』とか独占欲みたいのがわけばOKか?

難しいぞ。

現段階で渡辺飛鳥は金持ちで美人で幸せそうだもんな。

俺が与えられる幸せなどあるのだろうか?


「こんにちはー」

(今日も元気だな)

「いらっしゃい。渡辺飛鳥」

「珍しい。今日はタケルさんが出迎えてくれるのね」

「親父は法要中。どうぞ、上がってください」


「すごい考えた。はげるかと思った」

「はげてもいいんじゃない?」と渡辺飛鳥はクスクス笑っている。

「お前は笑うと可愛いんだな」渡辺飛鳥は赤面した。

「それはそうと、タケルさんっていつ剃髪するの?剃髪したらピアスが目立ちそうね」

「あー、なんだかんだ伸び伸びだなぁ。うーん、脱DTしたらにするかなぁ?」

「DT?」

「どーてー」渡辺飛鳥は赤面した。

「あのなぁ、ミスキャンパスが泣くぞ?このくらいで赤面するな。ところで、俺がお前に与えられる幸せってあるか?」

しばらくの沈黙のうちに渡辺飛鳥は沈黙を破った。

「タケルさんと一緒の時間が私は幸せ」

「そんなもんなのか?」



僧侶の決断


はー、まさかの展開だなぁ。俺との時間ねぇ。家族とうまくいってないのか?

うまくいってないからうちみたいのと政略結婚なのか…。

大学もミスキャンパスじゃ女子から目の敵にされて女友達少ないかいないだろうしなぁ。

そうなりゃ、うちに来れば安心もするわな。

今度会ったら、いろいろ聞いてみよう。


「こんにちはー」渡辺飛鳥が今日も来た。

声は元気で明るいな。

「飛鳥さん、いらっしゃい!息子なら、一人母屋で勉強中かなぁ?気にせず上がってください」

気にしろよ、親父。まぁ、今日は渡辺飛鳥に聞きたいことあるからいいけど。


「どうも、いらっしゃい。お茶でも淹れますね」

「…」

「どうした?元気ないな」

「両親がケンカをしていて…」

やはりそこに落ち着くのか。

「私の事を妾の子って…」

金持ちってのはなぁ。

「家出してきちゃった」

はぁ⁈それはビックリ。

「で、お前はどうしたいんだ?家出なんかしたらますます‘妾の子’ってのがついて回ることになるんじゃね?」

渡辺飛鳥は黙ってしまった。

「お前の両親のケンカの原因は知らないけど、いつもなのか?いつもお前は‘妾の子’って言われてるのか?扱いも。そこんとこをよく考えろ」

「原因はただの夫婦喧嘩。普段はお母さまにも執事達やメイド達にも妾の子なんて扱いされてない。大事にされてる」

「なら、‘妾の子’ってのは勢いで口にしてしまった言葉だな。家の人たちが心配するから家出はやめておけ」

「家に連絡したら1泊ならOKって」

クソっ、この女。俺に諭されるのわかってて…。計画的犯行だな。

「渡辺飛鳥‼泊まるんだから覚悟あるんだろうな?親父の事だから、俺とお前は同じ部屋で一夜を共にすることになるだろうけど?赤面どころじゃねーぞ?」

「あら、私には欲情しないんでしょ?安心じゃない」



僧侶の誤算


予想通り俺と渡辺飛鳥は同じ部屋で一夜を共にすることとなった。


「姉妹多いのね」夕食の時の女性率の高さからの発言だろう。

「女ばっかりな、俺は肩身が狭くてな」

「ここのお風呂は温泉?」

「そうだが?」

「うちでも温泉湧くかなぁ?」豪邸の庭でダウジング?ちょっと面白そうだ。

「お気に召したようで何より」

「じゃあ、おやすみなさい!」


クソ。計画的犯行でうちに泊まり簡単に寝付きやがって、俺は眠れねー‼目を閉じるとこの女の色んな仕草が映写機のように俺の瞼の裏に映り出す。


もー!タケルさんてば本当に私に欲情しないのね。ふて寝しよー。そうだ!

「タケルさん!抱き枕になってくれませんか?」

「断る。俺は有機物だ。無機物にはなれない」

ちぇっ。つまんないのー。ふて寝しよー!


抱き枕だとー‼そんなのになったら、俺はノンストップだ。多分。頭の中が煩悩だらけになっている自分を諫めるためにも経を心で唱えながら寝つこう。


翌朝が地獄

「きゃー‼」渡辺飛鳥の悲鳴が部屋中に響いた。俺の耳も痛かった。

俺が渡辺飛鳥に抱きついてた。というか、俺の片手が渡辺飛鳥の胸をもんでいた。

「悪い。そこにあるから抱き枕になってもらってたんだな」

「胸…」

「そこにあったからだ。寝てるうちにだから許せ。決して意図的に襲ったのではない。襲うのであればもっと派手に襲っているであろう」

「それはそうだけど…」

「それと、悲鳴で俺の耳が痛い」

「自業自得よ」



タケルの考え


俺は渡辺飛鳥の家に挨拶に行かなくていいのだろうか?と思うようになりつつある。

そうだなー、婚約者っぽい感じになってきたし。気持ちが。

そこらへんも今度会ったら…


「こんにちはー」今日も元気だなぁ。

「親父は法要中だから俺が出迎え。不満か?っ俺は何もしてないぞ」

渡辺飛鳥が赤面したので、俺は動揺した。1泊した時に俺が渡辺飛鳥の胸をもんだのを気にしているようだ。

「どうぞ、お上がりください」


「なぁ、気になってるんだけど。俺はお前の家に挨拶に行かなくてもいいのか?行くべきだろう?」

「うちに来なくても大丈夫なのよ。ほら‘妾の子’だから。本妻の子もいるし」

「でも変わらずに愛情受けてるんだろ?だったら…」

「それよりも!既成事実と孫の顔よ‼」

「それを僧侶の俺の前で言うか?オカタクて結構。俺は順序だってコトを進めたいの」

「今どきの若者が…」

「そこで、挨拶はいいのか?って話。あ、式は神前でな」

「えー、私はドレス着たいー‼」

「写真だけドレスにしよう。本番は神前だから、白無垢」

「写真だけか…」

「とこういう話も挨拶の時にしようと思ってた」


俺は真面目に考えてたのになぁ。と結構凹んだ。



僧侶の緊張


俺が持ってる正装…スーツなんて成人式の時のやつか?袈裟じゃマズいか。やっぱりスーツか。


「親父ー、今日は渡辺飛鳥の家に行ってくる。挨拶ってやつだ」

「お疲れー」

「それは帰ってきてから言ってくれ、じゃあな行ってきます」


でかいな渡辺飛鳥の家。門くぐってから玄関まで長っ。ちょっとしたかけっこができる。

庭の手入れも行き届いて、池まである。

「タケルさん、いらっしゃい」

「おじゃまします」

渡辺飛鳥がなにやら笑っている。

「何がおかしい?」

「いや、スーツだと誰も僧侶さんだと思わないでしょうね」

「そうだなー、脱DTがまだだから」

渡辺飛鳥が赤面した。

「はぁ、どれだけ大事に育てられたんだか」

「緊張する?」

「一応、でもすでに婚約者ってのが頭にあるんだよな」


応接室にて

「飛鳥さんと結婚します」と俺は宣言した。

「どうぞ」と返事が淡泊だった。

「すでに婚約者同士ですが、式までは清い関係でいます」

「今どき頑張るね。で、式はどうするの?」

「うちは寺ですので、神前式を私は望みます。彼女はドレスを望んでいます」

「二人の好きにして構わないよ。予定とかわかったら連絡くれればいいから。それにしても、君は今どき実直だな」

「恐れ入ります」

そして渡辺飛鳥の親は応接室から出て行った。

「ね?うちの親はこんなもんよ」



僧侶の望み


もっとこう、『娘はやらん』的なものを想定していたのに淡泊過ぎて気が抜ける。

『娘はやらん』感じなら婚約者なんぞつけないだろうが。

俺の髪とかピアスにも触れなかったな。


あー、なんか面倒になってきた。

式ナシで写真のみ。白無垢バージョンとドレスバージョンでよくね?

で入籍後は初夜でよくねーか?


「こんにちはー」今日も元気だな、よしよし。

面倒ごとは避けたい。特に、今‼

また‘両親の喧嘩’とか悩み相談はまっぴらだ。


で、物は相談なんだけど…

「式ナシで写真のみ。白無垢バージョンとドレスバージョンでよくねー?で入籍後は初夜でどう?」

「味気なーい。ドレスでブーケトスしたいの!招待客とか考えるよりずっと楽だけどさぁ。タケルさんが剃髪する前にタケルさんのタキシード姿も見たかったし」

「俺の紋付袴姿は?」

「別腹です!」

「招待客ってどうなりそうなんだ?うちは親戚かなぁ?渡辺飛鳥は招待できるほどたくさん女友達いるのか?」

「…いないけど」

「オッサンの群れにブーケトスするのか?」

「わかったわよ!ドレスは写真で我慢する‼」渡辺飛鳥の目にうっすらと涙が浮かんだいた。

「悪かったな。意地悪が過ぎた」俺は渡辺飛鳥の頭を撫でた。渡辺飛鳥が俺にしがみついて泣き始めた。

「袈裟に鼻水はつけるなよ。そして、行動が過ぎると俺の脱DTが早まる」さすがに渡辺飛鳥は体を離した。



飛鳥の考え


タケルさんは前から憧れてたから、この縁談はどんどん進めたいんだけど。

タケルさんが私に欲情しない宣言したのはショックだったなぁ。そんなに魅力ないかなぁ?


あーあ、ウエディングドレスだってオフショルダーの着たかったんだけどな。

着れるかもだけど、写真…。

白無垢は全身布で覆ってるしなぁ。

もちろん、タケルさんのタキシードも紋付袴姿も見たい。タケルさんも同じように想ってくれてるのかなぁ?


「こんにちはー!お邪魔してもいいですか?」

「邪魔なんてないですよ!飛鳥さんはうちの大事な嫁ですから、どうぞ上がってください」


「今日も来たな。元気そうじゃん」

「私もいろいろ考えるのよ!タケルさんの提案でOK。早いところ写真撮りましょう?タケルさんが剃髪しちゃう前の姿で写真に写って欲しいし」

「僧侶はダメなのか?」

「そういうわけじゃないけど…。あーもう!タケルさんが初恋なのよ。その思い出的な感じ」

「女心はわからん。あとな、写真でドレスってのはわけがあるんだけど」

「何?」

「きちんと入籍したら教えてやるよ。今は内緒。さて、今度ゆっくりできそうなときにドレスとか写真館探しに行きますか?早い方がいいんだろ?」

「うん!」

飛鳥の声は高らかに元気が良かった。



僧侶の煩悩


あー、飛鳥は絶対ドレス似合うよなぁ。

脱DT…。いつになるんだろ?写真撮ったらすぐ入籍していいもんだろうか?

飛鳥のドレス姿を他の男の目にさらしたくない理由で神前式を推してたっていうのはなぁ、我ながら恥ずかしい。

写真を撮るカメラマンが男だったらアウトなんだけど。

こういうの飛鳥が調べててくれると楽なんだけどなぁ。雑誌とか。


うぉー‼俺は何を考えてるんだ?これでは煩悩まみれではないか?

僧侶としてしっかりせねばなぁ。

今日も心で経を唱えるか?否、写経をしてからにしよう。

全くなんてことだよ…。


「こんにちはー、お邪魔します」

部屋をノックする音が聞こえた。飛鳥が来たのはわかったし、飛鳥だろう。


「タケル!」んな⁈おふくろ⁈

「飛鳥さんが来たんだから、出迎えるとかしなさいな。あと、これ飲み物ね」とお盆を手渡された。

「タケルさん、こんにちは」

「ああ、元気そうだな」

「何よー!私が能天気みたいに!」飛鳥が顔をフイっと背けた。

「連日うちに来てるけど、大学は大丈夫なのか?」

「単位は取れるだけ低学年のうちに取ってるから平気」ドヤ顔で言われたが、大学に行ってない俺には飛鳥が言っていることがいいことなのかわからない。

「まぁ、お前の大学生活に支障がないならいいさ」



二人の都合


「ドレスのフィッテングとか時間かかるんじゃね?いつもお前が来る時間よりも早い時間に考えないといけないのかなぁ?」

「ドレスを選ぶ日と写真を撮る日は別!」

「そうなのか?俺は疎くてなー。お前に任せるよ。あ、俺は白無垢着てるとこも見たいからな」


今日は天気良いなぁ。

「よし、今日ドレスを選びに行こう!平日だから人少ないだろ?」

「決めても写真撮るまでドレス姿見せないよ」

「そいつは楽しみだな」

飛鳥がじーっと車を見ている。

「どうした?」

「いや、ミニカーがおっきくなったみたいだなぁと思って」

俺は察した。飛鳥は小さいころから高級外車しか見たことがないからミニカーのようで不思議なんだろう。

俺の運転で写真館をいくつか廻るようだ。

「運転手って普通はいないからな」と先に言っておいた。


写真館は飛鳥が予めピックアップしておいてくれたので助かった。



新婦の姿


「馬子にも衣―」

と俺が言い終わる前に、飛鳥から右腹、親父から左腹を殴られた。

「痛てーよ。なんだよ、褒め言葉だろう?」

「飛鳥さんに失礼だろう。神々しいじゃないか?」

「それにしたって、俺の姿も褒めろよ!」

「おまえこそ馬子にも衣裳だな。普段の袈裟姿が嘘のようだ」

と嘲笑した。

俺は飛鳥に「そのドレス姿は夜が楽しみだな」と耳元で囁いた。


写真館ではドレス&タキシード姿も撮ったが、白無垢&紋付袴姿も撮った。

正直、マジで正直その時初めて自分の家の家紋を知った。

父曰く、由来は不明。紋付袴は代々受け継がれているらしい。

ちゃらんぽらんな家だなぁ。


その日が髪の毛とおさらばするのかと思うと、なんだか感無量。

おさらばできるのか?



僧侶の緊張


さて、今日から飛鳥はうちで暮らすのか?ん?入籍してないから違うのか?うーん?


「何を唸っているのだ。少年!」

「俺は少年って年齢じゃねーだろ?で、何の用だ?」

「今日から飛鳥さんがうちで暮らすんだ」

(マジかよ?入籍してないけどいいのか?向こうの家は関心薄かったな)

「そこで、この部屋は倉庫になります!お前と飛鳥さんの部屋は別に作るからな」

(作るって増築ですか?)

「いやいやいや。俺の趣味だってここにはあるし。倉庫はねーだろ?俺の書斎とかさぁ」

「新婚さんが何を言うか!エロ本の1冊も持たないお前の趣味なんて、仏教関係だろ?それなら父の書斎に移動すればよいことだ」

「何で親父は自分の部屋持ってて、俺はないんだよ?」

「新婚さんが文句をいうな!」


新婚さんは立場が弱いのか…

ん?飛鳥が来たか。



飛鳥の気持ち


いよいよタケルさんと同居!

きっと私の気持ちを考えて、タケルさんとは別の部屋を私に用意してくれるわよね!


「いらっしゃーい!飛鳥さん‼今日からここで暮らすんだよ。この部屋、いいでしょ。タケルと二人の部屋♡」

(えー?寝室はわかるけど、普段もってこと?)

「よう、さっきぶり。俺もさっき聞いた。二人の部屋だとさ。私室は増築中」

「着替えとかもこの部屋の中?」

「まぁ夫婦だからなぁ。なんか趣味のもん持ってきたとか?2次元アイドルとか?」

「そんなのはありません!」

本日2度目のボディーにストレート…。

「お前は…その拳が財産だよ…」

「ゴメン、同じトコに二度はきついよね?」

「いや、他のトコにその拳は痛い…。封印したほうがよくね?」


と、談笑しているとつながったもう一つの部屋への襖の隙間から2組の布団が見えて、飛鳥の鼓動は高鳴った。


飛鳥の様子がおかしいとタケルも思い、飛鳥の視線を追いかけようとすると…

「ダメ―――‼」と大声でタケルの頭を全力で自分の方に向けた。

「ちらっと見えた。あー、まぁ、なぁ?ところで!お前が全力で俺の頭を動かしたから首の筋が痛い。どうしてくれよう?今はまだ夕飯前だしこれで我慢してやるよ」

と、タケルは飛鳥のつむじに唇を落とした。

「俺…剃髪できるか心配になってきた。首痛いし、脇腹痛いし…」

「ごめんなさい…」さすがに飛鳥を謝らせることになった。



二人の夜


「なぁ、こういう時って奥さんになる方が三つ指立てて『不束者ですが、よろしくお願いします』って言うもんじゃねーの?」

「いつの時代よ?今は肉食系とか草食系とかじゃないの?」

「俺、草食系」

「になりたかった人でしょ(笑)」

「そうなんだよなぁ。そういうわけで、初夜だし。首痛いし」

「それ関係ないでしょ!」

「大アリ!とっとと寝ますか‼」

(えー?私にはやっぱり欲情しないのかなぁ?でも結構色々初夜で覚悟しておけみたいなこと言われた…)

「飛鳥…うちの家族がのぞきしてる。寝たふりするぞ。お楽しみはいなくなってからだ」

「了解」

「俺は脱DTがかかってるからな」


その夜はのぞきがいなくなった後に無事に初夜を迎えることが出来た。

夜というか、朝方まで二人でイチャこいてたけど。



僧侶の剃髪


「親父ー、俺剃髪するよ」

「タケルも結婚してついに僧侶らしく剃髪をするようになったか!」

「ピアスはやめねーぞ」

「何?」

「飛鳥の薬指の指輪の石とペアの石で作ったピアスだからな。結婚ピアス」

「うーん」

「ま、剃髪は頼む。自分じゃできないからな」

「理容室に行け」

「すっごい丸投げ感。それでいいのか?」

「いいから行ってこい」

「オッケー」


こうして俺は理容室に行った。

「剃髪…丸坊主にして下さい」と言うと、店員さんは一様に「いいんですか?」と聞き返してくる。

「お願いします」と頼み込むような形で俺の剃髪が完了した。


頭の形がいいのは親に感謝だな。考えてみれば、坊主頭でピアスってガラ悪いな。



飛鳥の感想


「いいじゃん。ちょっと頭触らせて」

「新婚だってのを忘れないようにな」と俺は釘を刺した。これは自分にも刺した。

「頭の形もいいし、もともと顔のパーツも悪くないし似合ってるよ」

褒められた…。

「坊主頭でピアスってガラ悪くないか?」

「そういえばそうね。でもなんだかそんなオーラ?みたいの出てないからぜーんぜん怖くない」

「ふーん、怖くないんだ…」

「え?何?」

俺は飛鳥を所謂お姫様抱っこで布団に置いた。

「怖いです」

「よろしい」

本日も俺の家族はのぞきを続けている。

「では、大人しく寝るように!」と俺は言った。

飛鳥には、「のぞきの連中がいなくなった後でな~♪」と小声で告げた。

それにしても、のぞきは勘弁してくれ…。いつになったらのぞきをやめてくれるんだか。



家族の意見


「タケル…いつになったら飛鳥さんと身も心も結ばれるんだ?父は心配だ」

そんな心配よりものぞきをやめてくれ

「家族のみんなが心配していることだぞ?」

「親父…心配はありがたいっちゃーありがたいけど、こう毎日二人の寝室をのぞかれてはできるもんもできねーよ。のぞきはやめてくれ」

「いーや!やめない!」

(マジかよ。のぞきの連中がいなくなるまで俺がどんなに我慢で苦しんでいることか)


「あの…」

夕食の食卓で飛鳥は恥じらいの顔で訴えた。

「タケルさんと私の部屋を夜にのぞくのをやめていただけませんか?」

(ナイス!飛鳥‼その顔は演技だな?)

「飛鳥さん、私たち家族はあなたとタケルが身も心も結ばれて真の家族になるのを見届けたい」

「でも…あの…恥ずかしい…」

「飛鳥さん、気持ちはわかるのよ。私もそうだったもの」

(おふくろー‼見られてたのか?おふくろの初夜with親父)



僧侶の驚愕


「増築中の所ができたらそこに二人で住まおうぜ?それにしてもラストのおふくろの発言には驚かされた」

「そうね。のぞかれながらでしょ?私はムリ。やめてね?」

「俺も絶対無理。萎える。ところでさぁ、飛鳥は危険日とか手帳につける方?」

「そういうのよくわかんない。婦人体温計の説明書に書いてそうだなぁ」

俺は小声で「現時点で飛鳥が妊娠したら解決じゃねー?」と小声で言った。

「んなっ。大学ちゃんと卒業したいし。私だってまだまだ二人っきりを満喫したい」

ラストにしたがって小声になっていったが。

「そうだ!新婚旅行ってのはどうだ?ここだからのぞかれるんだよな。俺絶対萎えるわー」

俺は‘萎える’をわざと大声で言った。

「大学があるから長期の旅行はムリよ?」

「俺は2泊くらいしたい!」

「うーん、時間作れるかな?そのくらいなら。国内ね。その間の仕事は?」

「新婚旅行を邪魔する?わけないから、親父に丸投げー」

「大学の単位があと卒論だけでよかった!」

「そんじゃ、今日も遅くなったな。寝るか」

飛鳥には「後でな」と言った返しに「ゴメン!生理始まっちゃった」と言われた。

「おやすみなさーい」

実に健全に夜は更けた。



僧侶の哀愁


「おはよう、タケルさん」

「あぁ、飛鳥おはよう」

「タケルさん、髭もそうだけど、頭も髪が生えてきてますよ?」

「髭剃りでいけるのか?飛鳥ー、あとでチェックしてくれ」

「ラジャー」


「おはようございます。うわぁ、今朝は和食ですか?私も早く料理とか出来るようにならなきゃな」

「そうねぇ、うちの味ってあるし。私のアシスタントとしてがんばってもらおうかしら?その分私が楽になるわ」

「おはよう、飛鳥さん。朝弱いんですね?」

俺の妹達、参上。

「おはよう、飛鳥さん。こら、小姑って感じだぞ」

「いいんですよ。甘やかされてたってのが一番の理由でしょうね。もっと厳しくしないとなと思っていますから」


「飛鳥ー、頭はどうだ?」

「うーん?」

(飛鳥の胸がすぐそこにー!)

「義父様?タケルさんの頭、今朝髪が伸びてきたのでカミソリで処理したんですけど、問題ありますか?」

「うむ。問題か…こいつの頭の中が大問題なんですよ‼」

(俺の心を読んだのか?)



僧侶の煩悩


人間手に入らないものほど欲しくなるものだと強く思う。

今、飛鳥を抱くわけにはいかない。というか仕事中に煩悩まみれ。

同じ部屋で寝ているから、拷問のようだ。たまにスヤスヤと寝息を立てやがってと思うときがある。

ああ、せめて違う部屋ならなぁ。…きっと夜這いに行くだろう。

少し前まで欲情しなかったのになぁ。

そんなこと考えながら仕事中でいいのだろうか?

そんなこと考えながら木魚を叩いているが?

そんなこと考えながら読経しているが?


「2泊できそうだよ!」と飛鳥は元気に俺に言う。

「大学、無理してないか?変な男に引っかからないか?」

「心配性だなぁ。私にはコレがついてるもん!」

と、左手の薬指の指輪を見せようとしたんだろう。はまってない…。

「嘘…。ヤダ…。大学のどっかに落としたのかな?大学の事務局に落とし物で届いてないかな?」

「おい、顔色悪いぞ。わかったから、それは明日考えよう。今日はゆっくり休め。やっぱり無理かけてるんだろ?俺は大丈夫だから」

(本当は大丈夫じゃない。かなり溜まっている)

こんな時でもしっかりのぞいている。飛鳥が具合悪いんだから出てきて、助けてくれてもいいものを!



飛鳥の困惑


どうしよう。指輪…。大学で落とし物のとこにあるかなぁ?拾った人がいい人ならいいんだけど。最悪質屋とかに行ってしまったら…。

明日バッグの中とかよく調べるけど。

タケルさんみたいに私もピアスにすれば絶対なくさなかった。指輪にこだわったばっかりに…。


「飛鳥ー、大丈夫か?まだ指輪の事考えて悶々として眠れないのか?仕方ないなぁ」

と、タケルさんは掛け布団ごと私を抱きしめて一緒に眠ってくれた。

「これならのぞかれても恥ずかしくないだろ?」

「ありがとう。ぐっすり眠れる。私は抱き枕状態だね(笑)さっきまでタケルさんの言う通り悶々としてた」

「この状況は俺が悶々とするんだからな、大人しく寝ろ!」

小声で会話していたが、なんだか穏やかな気分になってよく眠れた。


翌日から家族によるのぞきはなくなった。



僧侶の判断


翌日の夜の二人の会話。


のぞきがないなら、新婚旅行を無理しなくてもいいよなー。1泊でいい。

飛鳥にその旨を伝えてみよう。


「のぞきがないなら新婚旅行1泊でも俺は構わない。飛鳥が無理して時間作って顔色悪くしてる方が心配だ」

「それなんだけど…カメラとかない?ものすごい羞恥プレイなんですけど」

「部屋にはないよな?盗聴とか盗撮とかそういうのか?」

「です」

「一度業者に来てもらおう。親父の息のかかってない業者」

「それとね、指輪あったよ♪事務局に届いてた。よかった~。大学卒業したら私もピアスにしようかな?」

「指輪は飛鳥に変な虫がつかないようにしてるんだから、指輪のまんま!俺は断固反対‼」

「自分はピアスなのにー」

「俺に女は寄ってこない」

「そうかなぁ?業者、私が探そうか?私ならココとのつながりわかりにくいし」

「大学もあるんだから!きっちり卒業したいんだろう?」

「はーい」


盗聴も頭の端に置いた当たり障りのない会話を俺たちはした。


「あ、そうだ。こないだのお礼」

そう言って、飛鳥は俺に抱きつき、鎖骨の下にキスマークをつけた。

「盗撮されてたらどうすんだよ?」と問うと、「このくらい平気」と返ってきた。



僧侶の疑惑


俺は知り合いの電気屋に『部屋が盗聴もしくは盗撮されてるかもしれないから、だれか紹介してくれ』と頼むと、その日のうちに専門家を紹介してもらった。


「佐藤と言います。お世話になります。お寺ですか?」

「聞いてませんか?診てもらいたい部屋は母屋なので、こちらへどうぞ」

「この部屋を診てください」

と俺は佐藤さんに言った。なにやら、いろいろと専門的な機械が出てきて診査が始まった。

(お寺ですか?っていう言葉が怪しいが、まだ確信じゃないからなぁ)

「あ、盗聴器ですよ。この意味もなくついている延長コード」

(マジかよ、今までのも聞いて知ってんじゃん。何故見る?)

「あ、この襖の取っ手。盗撮器ですね。レンズのところにガムテープでも貼っておきましょう」

そうこうしながら、結構な数を回収した。


「ありがとうございました。自分の私生活をのぞかれるのは嫌なので。ところで、ここへは何度目ですか?初めてきたわけではなさそうでしたので」

「あなたは賢い。3度目ですよ。初めてきた時はお寺の方だったので。2度目はここへ盗撮器・盗聴器を仕掛けに来た時、依頼主はあなたの御父上ですよ。そして今日です。安心してください。私が仕掛けたものはすべて回収しました」

「他にもあるということですか?何故それを除いてくれなかったのか?あなたの仕事は盗聴器・盗撮器の除去のはずだ」

「私には見抜けなかった。というのが理由ですね。御父上の性格ならばあと2・3人はあたった方が賢明かと思います」



二人の新居


やっとこさ、増築された。

親父の趣味なのか?盗聴・盗撮には気をつけよう。

「おお、出来たのか。どれ、わしも中を確認しよう」

「お義父様!それはいけません。まるで工務店の方を信頼していないようですわ」

「お、おお。わかった」

ナイス、飛鳥。そんじゃ、俺らで昨日確認したように動こう。

俺は2階。飛鳥は1階だな。


昨日の晩のこと。俺らは盗聴や盗撮を避けるように筆談をした。

もちろん、会話をしながら。

「やっと私たちの部屋ができるのね!」『どんな作戦でいくの?』

「そうだな。こことは違ってまさに二人っきりって感じだよな」『俺は2階を見て回る、飛鳥は1階でいいか?』

「やだー、なんか緊張しちゃう」『了解』

「俺が全部解してやるよ!」『じゃあ、明日はよろしく』

「明日、移動かな?なんか楽しみになってきたー」

「俺も」

「おやすみなさい」

「おう、おやすみ」



二人の審査


昨日の夜の筆談通りの作戦で俺らは動き始めた。

「ご苦労様です。お疲れ様です。ありがとうございます!あらっ?もうなんだかコンセントに刺さってる?なんかの検査ですか?」

「あ、ミスってるよ。親方にはオフレコで」と数カ所の盗聴器を取り除いた。

(うーん、私が聞いて楽しいのはお風呂かなぁ?…冷やかせるって意味よっ!)

「お風呂はっと。うーん、鏡が実はマジックミラーとか?あ、あのタイルの隙間!なんかレンズみたいのが見える。すいませーん」

「はいはーい、あのタイルの隙間だけ広くありませんか?そして隙間からなんかガラスみたいなものが見えるんですけど、何ですか?」

「あ、こちらの施工ミスですね。直しましょう。もちろんこちらのミスですから、工事料は要求しません」


「タケルさん、お風呂の鏡がマジックミラーの可能性も考えられるけど、証拠がないの。どうしよう?」

「事故を装って鏡を割るか、俺が」

こんなこともあろうかと、二人でスマホで連絡を取り合っていた。


「飛鳥!1階でなんだか大変なんだって?」

「うん、まぁ。お風呂のタイルがずれてて施工し直し…」

「風呂だけ本邸に行けばいいさ。どれ、見せて。あ…」

タケルは鏡に突っ込んだ。鏡は割れたが、タケルにもダメージが…。

「イヤ、タケルさん!起きてよー‼」

「何だよ。痛いなぁ。ん?血?頭打ったのか?仕方ない病院行くかな」

「飛鳥、ここは頼んだぞ!」

「ついて行く!」

「お前が来たら親父の思うつぼだ。俺はちゃんと戻るから、な?」

「わかった。2階の様子は?」

「俺が見てたから、余計な真似はしなかった。今はどうかな?鏡はただの鏡だったな」

「それじゃ、あとは頼んだぜ」

そう言い残し救急車で搬送された。



僧侶の心労


「特に問題はないですよ。普段の行いがいいんですね。やはり僧侶の方は徳が高い」

「もう、帰っていいですか?」

「うーん、頭打ってるでしょ?あとからってのがあるので一日入院です」

やってしまった…。飛鳥に戻るって約束したのにな。

俺だって今晩楽しみにしてたのに、残念だ…。

飛鳥はうまくできてるかなぁ?

「タケルさん!大丈夫?」

「飛鳥‼悪い!戻るって約束したのにこのザマだ」

「無事でよかった。1泊入院したら戻れることになってる。2階はうまくいったか?大丈夫よ。タケルさんにケガをさせたってのもあるみたいで大きな動きも小さな動きもなかったわ」

「お前は男に口説かれなかったのか?」

「それはホラ、私にはコレがあるでしょ?」

と飛鳥は得意げに左手薬指の指輪を見せた。

「おぉ、兄ちゃん。若いのにこんなきれいな嫁さんがいるのかい?うちのと交換してもらいたいなぁ」

「こいつは俺のです。お断りします。交換しませんよ」

「おい、きっぱり断った。いいねぇ。若いねぇ」

「タケルさん、私はもう帰るね。帰って明日の大学の用意もしなきゃ」

足早に飛鳥は帰っていった。遠くで飛鳥が転倒するような音が聞こえて、ちょっと笑えた。

それにしても…。入院が続くとここのオヤジ達に俺と飛鳥の事をいじられっぱなしだ。やれやれ。



僧侶の退院


「おかえりなさい、タケルさん。見て、一日でお風呂場の施工が終わったの。ちゃんと見てたわよ。なんにも妙なことはしてなかった。鏡もほら、新しいものになったでしょ?」

俺はなんだか忌々しい感じがした。

「鏡は飛鳥が選んだのか?」

「え?工務店任せ。ダメだった?」

「そんなことはないが…なんだかなケガのせいか」


「おかえり、タケル」と親父。

「ああ。今度は盗聴器とか盗撮器とかつけるなよ?そしてのぞくな!」

「そう邪険にするな」

「犯罪だからな。今度やったら親だろうと警察沙汰だからな」


はぁ、やっとこさゆっくりと飛鳥と過ごせる。

ん?飛鳥は?

「飛鳥はどこに行った?」

「今日は朝早くに出かけていったけど?」

確か昨日大学の用意とか言ってたから、大学か?電話をかけてみるか?

いやいや、邪魔をしてしまってはイカン。

そう思いながらも飛鳥に電話していた。

「飛鳥?今どこだ?」

「え?大学…」

「帰ってきて飛鳥に会いたかったのにいなかったから驚いて電話かけた。大学ならバレないよな。帽子かぶればいいし。会いたい。大学に行っていいか?迷惑ならガマンする」

「迷惑じゃないよ。研究室の番号は306。今日は帰るの遅くなりそうだったから、丁度いいかな?研究室でエッチなことしないでね」

「チューくらいはいいだろ?」

「人目を憚りましょうね!」

「じゃあ、あとでな」



飛鳥の大学


うわー、大学ってこんな感じなのか。俺には別世界だな。

俺は帽子でピアスだし、校則もないしこれだけ学生がいれば紛れても問題ないだろう。

どっちかというと俺は飛鳥に変な男が言い寄ってないかの方が気になる。


えーっと、飛鳥の研究室は306号室って言ってたけど、どの建物だ?

飛鳥に電話しようか?

「飛鳥?今大丈夫か?」ん?俺の声が背後からも聞こえる。

「飛鳥ー!俺、どの建物かわかんなくて電話かけてた」

「それはわかるんだけどね、目立つのわかってる?タケルさん、結構イケメンなのよ?それで見たことないのにーって女の子が騒いでた」

「マジかよ。完全紛れ込めると思ってたのにバレるじゃんか」

「で、今私と話してるでしょ?周りの様子わかる?とにかくはやく研究室に行きましょ」


俺は飛鳥にひっぱられて研究室に行った。どの建物なのかわからないから、次来るときは建物確認もしないとダメだなぁ。



飛鳥の嫉妬


まさかタケルさんがこんなに女子大生人気があるとは思わなかった。剃髪前にここに来てたら…イヤー!実際来なかったからいいの‼

剃髪後でもこれだもんなぁ…。

「で、タケルさんがソロで女子大生に人気ってのはわかった?それで私と会話するのよ?そうすると『どういう関係なの?』とかそういう話が囁かれ始めるの!」

「どういう関係も、…夫婦だけど?」

タケルさんは私の腰を引き寄せた。

「そのために飛鳥には指輪してもらってるわけだし。変なのに言い寄られてないだろうな?」

「私は大丈夫よ!」


その時、研究室の奥の方から咳払いが聞こえた。

「教授?!」

「あ、いつもうちの飛鳥がお世話になっています。私は飛鳥さんの夫で萩野寺で僧侶をしています好野健と申します」そう言い、脱帽した。

「僧侶さんか、剃髪済みなんだね。それで今日は帽子を?」

「はい。ここに来るにあたって悪目立ちをすることは本意ではないので」

「夫ということだけど、飛鳥さんは苗字も変わっていないし、事実婚というやつかな?」

「教授には黙っていて申し訳ありませんでした!」

「構わないよ。手続き面倒だもんねー。籍いれてからがまた手続き三昧で大変だろうけど頑張って。卒論も」

「卒論は頑張りますよ、それは。卒論のために卒業必要単位はきっちり3年には取ってます」

「それは頼もしい。タケル君も好青年で安心だ」


「飛鳥、とりあえず会えてよかった。親父も俺が死にそうな時に盗聴器仕掛けるとかしないだろうし。一応業者当たろうかな?」

「教授、あの…私事なんですが、私とタケルさんの別棟を新築したんですけど業者さんが盗聴器やら盗撮器やらを仕掛けていったんですよ。そういうの除去してくださる業者さんに知り合いいらっしゃいませんか?」

「盗聴器とかの依頼をするのは私の父です。二人の寝室をのぞいたりもしています」



僧侶の憂慮


「業者というか、工学部の学生に研修という名目でやらせるの楽しそうだね。早速工学部の知り合いの教授に連絡してみるよ。あ、それ犯罪だからあんまり他言しない方がいいよ」

「ありがとうございます!」俺と飛鳥は2人で顔を見合わせた。

「OKでた。早速今から作業をお願いしようか?場所は萩野寺の別棟だね?今日の午後の研修まるまる使ってやってくれるってさ」

「私は家にいた方がいいですね。では、これで失礼します。飛鳥はあとでなー。教授、飛鳥の事よろしくお願いします」

「おいおい、それはこっちのセリフだよ。若いからって飛鳥くんが妊娠するようなことがないように頼むよ」

「心得てます、失礼します」


「おい飛鳥くん、顔が真っ赤じゃないか?大丈夫かい?君の夫は今どき好青年だね」


俺が家に帰ってしばらくすると、なんだか若い集団とそれを率いるダンディな紳士がやってきた。

「ここは萩野寺で間違えないかい?」

「はい、お待ちしておりました。別棟に案内します」大学の時とは違い、脱帽に袈裟姿で出迎えた。

「聞いてない」という親父の声を聞かなかったことにして案内した。


「ここです。どうぞ、自由に検査をして下さい」

学生からは、「すっげー広ーい」「新しい匂いがする」等の声が聞かれた。

「ここ1週間以内に完成したばかりです。どうぞ、お好きな方法で検査をしていってください」とだけ俺は告げた。



親父の沽券


どうしたものか?私が手配した業者とは明らかに違う集団が別棟を検査している。

それをタケルが仕切った。

集団をまとめているのは、別の紳士だが。

検査をしているのはタケルと同年代か?人海戦術?しかし使っている機材は専門的な物ばかりだ。


「どうした?親父?」

「いや、あの集団はなんだ?」

「親父にも内緒ー」


内緒?タケルに秘密事を作られた。いや、自業自得と言えばそれまでだが。

今日、別の業者も手配してあるのだが…。


「タケル、今日は別の業者も手配済みだったんだが?」

「あー、それキャンセルで」


自分でこれだけの人数と機材などを揃えたというのか?

「親父が手配した業者じゃ信用できないからな。おちおち風呂も入れない」

言われたもんだな。しかし、まさか息子にここまで言われるとは‼

「僧侶としては尊敬に当たっても、のぞきとか盗聴に盗撮はなぁ…。僧侶としてもどうなんだろう?」


親父は思う。俺の威厳はどこに行ったのか?威厳?沽券?



僧侶の結論


『そういえば、最近のタケルさんって前みたいに凝り固まった感じじゃなくなったね。いい傾向』

と学生集団を見てると、飛鳥からメールが届いた。

そう言えばそうだなぁ。俺のモットーからは遠ざかってるな。

少なくとも、恥ずかしながらも飛鳥を求めて必死になってる。

やっぱカラダの関係になりたいという欲望、煩悩が俺を支配しているなぁ。

そこんとこは僧侶としてどうなんだろう?いいのか?

親父的にはOKだろうな。なにしろうちは子沢山だ。今のところ4人きょうだい。今後増える可能性も考え得る。


学生には紳士な教授が『盗聴器・及び盗撮器を見つけたら単位を倍出す』と言った。

学生は目の色を変えて取り組んでいる。

今日大学に行って、今日いきなり訪問だから学生が逆に仕掛けていくということはないと考えられる。

工学部の教授は「タイムリミットは5時半だ。その後は撤収。頑張れよー」との言葉だ。

「俺、盗聴器発見しました‼教授、調べてください‼」という学生の声。

「うーん、これはダミーだね。よくできてるけど違うよ。近くに本物あるんじゃない?頑張って」

(見て分かるんかい!教授も参加してほしい‼)

「俺も見つけた」「俺も」「俺も」

「忙しいなぁ。一応チェックするけどさぁ。あ、これもダミー」

(ダミーが多くないか?)

素人が発見したつもりになるように仕向けてる?

教授曰く「ダミー持ってきたら、試験の点数マイナス10点ね」

そして学生は静かに探し出した。

(集中してる。本気だ)



飛鳥の値打ち


「ただいま戻りました。教授、盗聴器とかは発見できていますか?」

「ダミーが多かったなぁ。その近くには本物があるはずなんだけど?」

「そっかぁ」


「おい、飛鳥さんが『ただいま戻りました』って言ったぞ。ここ飛鳥さんの家か?そこを盗聴・盗撮とは…」

学生に力が入った。


「あ、タケルさんもお疲れ様。進捗具合聞いたよ」

「うまく教授が学生心理を動かして学生の士気を上げているよ。ところで、俺は飛鳥の夫とは言ってないから『誰だよ?』って士気が下がるかもだ。調査が終わるまで離れていよう」


「教授、進捗具合はどうですか?」

「一つ盗聴器が見つかった。本当に盗聴したいなら、盗聴器は一つで十分ですよね?残るは盗撮器ですか?」

「そうなんだよー」

「以前、お風呂に仕掛けられてましたけど?」

「なんだと?飛鳥さんの入浴を覗く不届き者が‼」学生が数人風呂場の方へ行った。

「大人数で風呂場に入れるのかね?」

「わりと広いから、今行った人数くらいなら大丈夫かな?あと覗くなら、ベッドが見えるところですかね?」

「なにぃ?飛鳥さんのあられもない姿を覗くのか?」と学生の集団がベッドが見えるようなところをくまなく探し出した。

「最初から、見る目的・聞く目的を考えて探せばよいのに…まだまだ青二才だなぁ」

(紳士なわりに毒舌だなぁ、この教授)

「私は寝相がいいです‼あられもない姿って…」



教授の早業


「盗聴器はこの辺かな?…あった。盗撮器は…うーん。手が届かない。脚立とかある?貸して」

そして、換気口のど真ん中から何かを取り除いた。

「埃もたまってたよ。レンズもあるし。お風呂も同じ感じじゃないかなぁ?おーい、風呂場にいるの!換気扇のど真ん中見たか?」

「あ、今確認中です。レンズがついたものを見つけました」

「取り除いて持ってこい。さて、ベッドの上のライトだが…実は内側からはスケスケとかになっていないかな?」

「外してライトの中を確認します!…あ、マジックミラーみたいだ」

教授はやれやれというように肩をすくめた。

「他の場所のライトも確認します!」


「教授、すげーな」という感嘆と賞賛の声がそこかしこであがっている。

実際凄いと思うけど、これは親父の仕業か?それにしては手が込んでるな。


「換気口、たまには掃除した方がいいよー」

そうします。

(留守中に親父が何をするもんだかわかんないからな)


結果:盗聴器1個、盗撮器2個出てきた。

教授の手柄なので誰一人単位はもらえないし、ペナルティもない。



飛鳥の告白


「教授、ありがとうございました!学生の皆さんもありがとうございました‼」

「実地訓練的にOKだよ。ありがとうはこっちの言葉。旦那さんと睦まじくね」

飛鳥は赤面した。

(そうよね。盗聴器も盗撮器もないってことはそういうことよね)

「そうさせてもらいます。誠にありがとうございました」

(…タケルさん~‼)

「申し遅れました。私は渡辺飛鳥の夫の好野健と申します」

「マジかよ…俺らは飛鳥さんのためだと思ってたのに…」

咳払いが聞こえる。

「授業だ。クライアントに惑わされていたら、就職難100%だぞ?」

「教授~。そこは教授推薦で…」


(タケルさんも私みたいにドキドキしてくれてるのかな?)

「今日は私の家のためにありがとうございました」

「飛鳥、俺の家でもあるんだぞ」

(うわー!意識しちゃうよー‼)

「やっぱり飛鳥さんは既婚者なんすね…」と学生から。

「そうだ。俺のだから勝手に手は出さないように‼」とタケルさんは言う。

でも…カラダの関係はないんだよね…。それが今夜?うわー‼




僧侶の戸惑い


うーん、飛鳥に突然今までと違う振る舞いってのはなんか照れるな。はてさて、どうしたらいいもんか?

「タケルさん」飛鳥の声が違って聞こえる。多分気のせいだろう。

「タケルさんは私みたいにドキドキしてるのかな?と思って」

あ、そうか。今までのぞきやら何やらで初夜ってやつか。

「そうだなぁ。今までとは違うよな。今夜が初夜になるのか?」

突然飛鳥が正座で挨拶をしてきた。

「不束者ですが、今後ともよろしくお願いします」

(おぉ、三つ指立ってる。初めて見た)

「そんなに固くなんなくても大丈夫だよ。俺が不満?」

飛鳥は首を横に振る。

「今日はのぞきもないし、思う存分…。俺ちょっと前まで女人禁制みたいな生活してたのに変な感じ」

二人で顔を見合わせて笑った。

「二人のペースで、ね?だってこれからずっと一緒なんだから、ペースが乱れたらバラバラになっちゃうよ。それは嫌だよ」

「そうですね。私はタケルさんのペースに合わせていきます。頑張ってついていきます」

「今夜はついてこれるかな?」と俺は小声でつぶやき、飛鳥を俺のものにした。


翌日、飛鳥からさっそく「腰が痛い」と苦情を受けた。俺も腰が痛いんだけどなぁ。自業自得です。快楽に溺れた僧侶。いいのか?



その後の二人


何故でしょう?遺伝でしょうか?俺は子沢…いえ、子供に恵まれた。2男3女。多数決でいつも男が負ける。

幸い、飛鳥の実家から援助を受けているので生活は苦しくはないが、檀家さんからの寄付金だけじゃアウトでした。これも、自業自得。

飛鳥は実家に疎まれていたけれども、孫可愛らしさに飛鳥の実家からの援助は潤沢。

これも『孫にみじめな生活はさせたくない』という想いからのものだろう。


一応息子が寺を継ぐ気でいるようだ。2人もいればどちらかが…と思ってしまう。

どちらかにいい縁談があればいいのだが。

そして、いくら僧籍ぶってもその実態は絶倫だ。縁談が決まったら教えよう。

『家系的に決まっている』と。

俺も親父がそうだったもんな。俺が5人の子持ちだし。説得力が半端ない。


飛鳥はというと、実はまた妊娠中です。

妊娠しやすい体質なんじゃないか?とも思ってしまう。

ちょっと年の離れた末っ子かな?

いや、俺もきちんと避妊しないといけないな。

まだ若いから産めるんだもん。飛鳥は子供産むことどう思ってるんだろ?

いいかげんにしろ!とか思ってるのかな?

男がいいな。多数決でとりあえずイーブンに持ち込める。

乳飲み子のうちは母にべったりだから、女票が増えるな。



私、飛鳥は妊娠中です。これまで男の子二人、女の子三人産んだけどまだ足りないのかなぁ?

今、お腹にいる子の性別は産婦人科の先生が教えない主義らしくてわかりません。

タケルさんに愛されてるーっていうのはわかるけど、子供は必要なんだろうか?寺の跡継ぎは必要かもだけど。

私の実家、なんだか『孫LOVE』って感じで私とも関係がよくなっていい感じです。

まだ子供産める年齢だけど、タケルさんはどう思ってるのかな?



僧侶Jr.の決意


「親父、話がある」

おぉ、ついに来たか。家を継ぐって話か?

「俺はこの寺を継ごうと思う」

「俺は2人の息子のうちのどっちかがって思っていたから、いーよ。住職って結構食っていけるのな」

「それが…2人とも住職希望なんだけど?」

おぅ。それは想定外。

「それもアリじゃない?前例がないってのは理由にならないし。うちが史上初になればいいだけのことだから」

「親父はノリが軽いな」

「人生イロイロ場数を踏むとこうなる。うすうすわかってると思うけど。精進料理とか無理。うちの家系の男子は絶倫だ。これだけは言っておこう。弟にも伝えておいて」

なにやら衝撃を受けている様子。

「俺だって衝撃だったんだけど、子供は生まれまくるし、今もほら母さん妊娠中だろ?マジな話な」

「母さんとの出逢いは?」

「いわゆる政略結婚だな。でも元同級生だったし。これでも一時は荒れててな、ピアス開けてたりしたんだ。ほら、穴の痕がわかるだろ?」

俺はピアスの痕を見せた。結構これも衝撃だったようだ。

「俺はどんな出会いするんだろう?」

「いい縁談の話があれば持って行こうか?自分で結婚相手くらい決めたいだろう?だから放任ーという名のほったらかし。母さんもいい話があったら持ってくるだろうさ。あと、俺はまだまだ引退しないからな!」



僧侶の相談


「…とさ、息子2人とも寺を継ぐ気でいるみたいなんだよなー」

「ダメなの?」

「ダメってことはないけど、俺もまだまだ引退する気ないし、住職みたいのが3人も寺にいるのってなんか変じゃないか?」

「それは変かも」

普通はピロートークの甘々な時間だが、飛鳥は妊娠中だし、こんな話をしている。

「そうだ!修行がてらに他のお寺に出向くっていうのはどうかな?っていうか、どこのお寺も今は後継者がいないって時に贅沢な悩みね」

「そうなんだよな。贅沢なこと言ってるよな。他のお寺で出会いとかあったりしないのかな?あいつらも出逢いを気にしてたぞ。俺と飛鳥の出会いを聞かれた」

飛鳥、久々の赤面。

「なー、飛鳥?寺に知り合いいないか?」

「うーん、実家ならあるかもだけど?聞いてみた方がいいかな?」

「他の寺には出逢いだけじゃなくて、修行って目的もあるからな」

「それなら、教えてくれるかも。大事な可愛い孫に悪い虫を付けるようなことはしたくないだろうし」

「はい、すいません。うちの家系の遺伝子のせいです。悪い虫を呼び寄せるのかな?悪い虫?」

「向こうのお嬢さんの方が危ないのにね」

と二人で笑った。と、その時!飛鳥の顔が曇った。

「ゴメーン。破水したっぽい。入院に必要な物まとめてあるから、そのバッグを持ってきてくれる?あと、保険証と診察券と…」

「冷静だな。俺はとりあえずタクシー呼ぶぞ」

「あとは…タクシー汚さないように大量のバスタオルを…ってうちの娘たちは何やってるの?」

「多分、寝てるかな?」

「付き添いに起こしちゃって!タケルさんは通常業務でいいわ」

慣れって怖い…



僧侶の提案


「昨日の夜に母さんが破水したのは知ってるな?」

俺は息子2人に伝えた。長男・マサル。次男・カケル。

「まぁ、夜中にあれだけ騒いでればなぁ」

俺は咳払いして続けた。

「母さんには娘たちがついてる。俺は通常業務をしてくれって母さんから言われてる」

「娘…心配だよなぁ。頼りない」

息子2人の意見が一致した。

「母さんが破水した時、話していたんだがお前たち2人の今後だ。なぁ、うち以外の寺で武者修行してくるってのはどうだ?うちしか知らないだろ?」

(俺も知らないけど)

「母さんの実家のツテで他の寺を紹介してもらえる。どうする?お前らのレベルアップにもつながるいい機会だと俺は思う」

「ところで…親父っていつ剃髪したんだ?」

ツッコムとこそこかー‼

「二人ともまだ剃髪してないもんな。脱DTの後だ」

「それはなんかのルール?」二人は問う。

「俺ルール」

「やべー、そのルールだと俺は一刻も早く剃髪しねーと」by次男

何だと?お前は女にだらしない男なのか?


僧侶の説教


「カケル…お前、女にだらしないのか?マサルはどうなんだ?」

「フツーじゃないのかと思うけど?来るもの拒まずって感じかな?」

俺は黙り込んでしまった。俺と飛鳥の子ならルックスはそれは申し分ないだろう。しかし、いずれ僧籍と思っているならば、せめて一途であれ。

「二人とも即刻剃髪して身を清めろ‼そして、煩悩退散を心で思え‼」


確かに俺の考えは古い。しかし、いずれ僧籍と思っている人とは思えない。その来るもの拒まず根性はちょっと許さん‼すべての元凶がうちの家系の遺伝子だとしても。性病とか大丈夫だろうか?妊娠させてないよな?


二人が戻った。

クソガキがっ!坊主頭でもイケメンってのが腹立つー。

「とりあえず確認だ、性病も持ってないだろうな?相手に妊娠させてないだろうな?」

「そんな初心者みたいなヘマしない」

「ヘラヘラ笑うなー‼」

この息子2人は上級者とでもいうのか?

「今後は女性との体の関係は婚約するまでNOだ!わかったな?」

「うわっ、マジでか?俺の性欲はどこにいけばいいんだー‼」

「職業をよく考えなさい。僧侶です。生涯の伴侶以外と体の関係を持つなんてご法度。煩悩退散」


僧侶の希望

あの息子が真面目に僧侶として生きることを願い、飛鳥の実家にお願いに行こう。


「お久しぶりです。本日は愚息のためにすみません、お義父さん」

「愚息とはなんだね?私の大事な孫に向かって」

はぁ、頭が上がらないなぁ。

「その孫なのですが…人払いを構いませんか?」

「あぁ、皆の者下がっているように」と執事やメイドさんを部屋から出した。

「私は飛鳥さんと一緒になるまで誰とも付き合ったりはしなかったのですが、二人とも来るもの拒まずで色んな女性と付き合っていたようで…。お恥ずかしい限りです。修行という名目で萩野寺以外の寺で修業をさせようと思いましたが、私は寺付き合いが悪いもので」

「タケル君の言いたいことを要約すると、『息子の女性関係が荒かった。修行という名目で自分の寺から出すから寺を紹介してほしい。』だね?」

「はい、その通りです。修行先で生涯の伴侶を見つけてくれるのもいいし、その寺に婿入りでも構わない。ただ、二人のうちどちらかが…あ、すいません。電話です。あ、飛鳥さんのそばにいる誰かだ。出ても構いませんか?」

「あぁ」

「あ、父さん?母さん子供産むの得意なんじゃない?あ、男の子だよ。じゃ、またねー」



祖父の動揺


「二人のうちどちらかがと思っていたのですが、男の子誕生で変わりました。どちらかにはうちの寺を継いでもらいたかったんですけど、三男に継いでもらえばいいかな?」

「飛鳥、妊娠していたのか?」

「はい。恥ずかしながら。まだ若いですし、飛鳥さんが美しく」

「ててててて寺は紹介しよう。ああああああああ、飛鳥はど、どこの病院にいるんだ?大至急駆け付けよう」

「いつもお世話になっている病院ですよ」

「タケル君、君も一緒に行くんだよ?」

「はい、承知しました」

動揺し過ぎだろう。初孫じゃないのに。久しぶりだからかなぁ?10年は間あるかも。


「飛鳥!…とその娘たち。お疲れ様ー」

「飛鳥ー!お前妊娠してたのか!あぁ、そこらに女神のような、天使のように可愛かった孫が今や女神!この部屋は天国のようだ」

「寺で葬式してもらえるわよ?あと、娘たちにウザい。とか思われるわよ?」

「そうか…。で、今回生まれた子は?」

「あぁ、この子。タケルさん、この子の名前はどうしよっか?」

「せっかく居合わせたから、お義父さんに名付け親になってもらおうかな?」

「そうねー」

「承知した。『コウタ』でどうだ?」

「うふふ、いいわよ。あなたは今日から好野コウタよー。私がお母さん、この人がお父さんよ。よろしくね」

とコウタの手と俺の手を握らせた。

飛鳥には、飛鳥の実家でお義父さんがものすごく動揺していたことを告げた。



僧侶のその後


マサルもカケルも修行先で生涯の伴侶を見つけたようだ。このまま一途に過ごしてほしい。

コウタの後、飛鳥と協議してこれからは避妊をするということで一致した。まぁ、年甲斐もなく恥ずかしいってのもあるかなぁ?

コウタは長男・次男とは違い硬派なイケメンに育っている。

飛鳥の実家に頼んでいい縁談を頼まないとかなぁ?と内心思っている。


「親父、話がある」

これは寺を継ぎたいってやつか?

「ずっと前から思ってたんだ。親父も知ってるだろ?俺はアヤメと結婚してこの寺を継ぎたい」

「知ってるぞ。近所のアヤメちゃんだろ?可愛いもんな?」

コウタはちょっと頬を染めた。

(こいつマジかよ?剃髪してないけど俺ルール?)

「寺継いでくれるの有難いからOK。母さんにも言っとけよ。あと、アヤメちゃんにプロポーズ‼」



「アヤメ、俺と結婚してください。絶対に幸せにする。むしろ不幸にしない」

「私を選んでくれてありがとう。私もコウタが好き。これからずっと一緒ね」

「アヤメは俺が剃髪しても変わらないか?」

「ていはつ?」

「坊主頭になること。俺はアヤメと結婚して、うちの寺を継ぐ。しばらくは親父も引退しないけど」

「変わらないよ。髪型くらいで変わってたら変だよ」



「そういうわけで親父、アヤメにプロポーズOKもらった。母さんにも伝えたら『やっぱりねー』って言ってた」

「アヤメちゃん、うちに引っ越してくるのかぁ。懐かしいなぁ。あ、あの離れを使うといいよ。昔の父さんと母さんの新婚時代の新居。今は東屋だな」

(こいつ、フットワーク軽いな)

俺らは母屋に住んでるし、新婚さんを覗く趣味ないし。

「あ、そうだ!言い忘れてた。うちの家系は男子は絶倫だ。頑張れよ!新婚さん♡」

コウタは顔を真っ赤にした。男の赤面はなんだか見ているこっちが恥ずかしい。赤面は飛鳥の遺伝かな?


俺は60まで現役で働くと言った。65までにすればよかった…。

今更ながら自分の無趣味を嘆く。飛鳥に社交ダンスに誘われた。

(カラダが元気だからなぁ)

「飛鳥、どうする?もう一人産めそうじゃない?」って言うと、封印したはずの飛鳥の拳が俺の腹に入ります。

仕方あるまい。社交ダンスでペアだと刺激的だ。



うちはコウタが住職をしている。

たまーに俺も住職をするけど。ほぼ大量の孫と遊んでるな。

マサルもカケルも別の寺で生涯の伴侶と共に幸せに暮らしていると聞いた。子供に恵まれてるから?

コウタも3人は子供生まれるんだろうなぁ?

俺が爺なのはいいとして、飛鳥は婆さんって似合わないんだよなぁ。

寺の跡継ぎさえ生まれればよいのだ。でも、コウタは頑として結婚までアヤメちゃんに手出さなかったもんな。

うーむ。子供に恵まれそうだ…。そして、俺ルールなんだろうか?


それにしても、うちは何で絶倫家系なんだろう?

死に直結しているような職業じゃないし。葬式をしたりするけど、自分がどうこうなるわけじゃないし。

不思議だよなぁ?親父は疑問にも思わなかったのか?EDよりはいい~♪くらいに思ってたんだろ。


このように、うちは家族がネズミ算式に増えるようになっているようで家族一杯の大家族になりました。

俺の悩みは、名前が覚えられないこと。増える速度と記憶の速度が追い付かないのか?年齢か?

最近は凝った名前が多いし。飛鳥は覚えてるなぁ。俺だけか…。そんな毎日です。











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『僧侶たるもの、女人との接触を避け、生涯独身であるべし』をモットーに掲げるお寺の息子、好野健君と元同級生で大地主and大檀家の娘、渡辺飛鳥さんの物語だね。渡辺家の意向で婚約すし同居するも、建君が掲げて…
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