5分で終わる話
5分くらいで読める話を書こうと思ったら、全然足りなかった。
難しいね。
5分だけ待ってやる。
部屋に置かれたタイマーはそう言っているような気がした。
この真っ白な部屋で赤く光るタイマーはよく目立つ。赤いボタンと青いボタンはもっと目立つ。だからぼくは赤と青のどちらのボタンを押すか考えることでタイマーのことは一旦無視することにした。
目立たない白い紙に書かれたことを要約すると「間違った色のボタンを押すとガラスの向こうの未亡人は死ぬ。」ということだった。
ぼくは考える。どっちが正しいボタンなのか。この状況は何だ。
ぼくは記憶をたどる。
ぼくはどこにでもいるサラリーマンだった。毎日仕事に追われ、趣味は特になく、家に帰ればストレスで眠れない。くだらない上司のくだらない話を聞くという業務は特に辛い仕事で、何の話をしていたのか思い出すことは出来ない。唯一面白かったのは遺言くらいのもので、葬式で上司の妻が遺書を読み上げるときは口元が緩むのを堪えるのに必死だった。
僕は思い出す。あの未亡人は上司の妻だということを。
僕は残り時間が3分半だというのを確認してもう一度考える。どちらのボタンが正しいのか。そのつもりだったが左耳に鈍い音が入ってくる。見ると女がタイマーを向けてぼくを急かしているようだった。その青い光を見ながらぼくは気づく。正しいボタンは赤い色のボタンだ。押すべきボタンはわかったので残った問題について考える。この状況は何だ。ぼくは思い出す。このゲームは自分が始めたんだ。
ぼくの中にはもう一人「ぼく」がいて、そいつは上司のくそみたいな話に我慢がならなかった。もう一人の「ぼく」は上司を殺し、その葬式にもでることが出来て満足していた。ぼくは警察にいこうとしたが、「ぼく」にとめられた。ぼくは「ぼく」とゲームでこの体の進退を決めることにした。正しいボタンを押せば、ぼくは死に、間違えば妻も殺すことになる。簡単でわかりやすいゲーム。ゲームに負ければ、ぼくは人殺しとして生きていくことになる。
人殺しとしての人生なんてごめんだ。ここで死ねば、罪滅ぼしになるだろう。ぼくは勝ったんだ。
ぼくは赤いボタンを押す。隣の女が苦しむ声が聞こえる。なぜ?正しいボタンを押したのに。そこでぼくは自分の甘さに気づく。
ぼくはこのゲームをぼくと一緒に準備した。公平な勝負のために。そのうえで僕が少しゲームに細工をすることは簡単だった。例えばボタンの色を入れ替えたり、少し記憶を曖昧にしたりなんてことはすぐに出来た。なぜならこの体は僕たちのものだから。僕が勝つにはこんな勝負に乗るべきじゃなかった。さっさと死んでおけばよかった。もうおそいけど。
この体は僕たちのもの。この体に危害を加えるものは排除しなきゃいけない。次は誰を排除しようか。
僕は考える。