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真夏のバッティング 前編 

カクヨムに投稿していた作品のサイドストーリーです。


小説を書くこと自体初めてだった本編の方が、あまりにも読む気がそそらないと友人にも言われてしまったので、side storyのみ投稿です。


僕も正直、評価を受けたいものは(どんなものであれ)このあたりのお話なので、是非、今後のお話づくりの参考にしたいと思っています。

 


「ギィくんギィくん!ねぇねぇ聞いて!聞いてってばぁ!」

 彼女が要求してくる。


「ほらみて!あいつ、なんか弄ってるヨ!いけないんだー」

 見ればわかる。そんなの勝手じゃん。


「あー!あのこ手紙書いてるよ!覗いてよ!」

 できるか。

 ああいった密かな文通の邪魔をしたらクラスでどんな目に合うか。恐ろしい。



 今ぼくは、四時限目のEnglishの授業を教室で受けているところだ。

 黒板に書き写された英文をそのまま、書き写す機械と化していた。

 教壇に立つ先生の解説なんか碌に耳に入ってこないので、そうする他にやれることはないのだった。


 えーっと、『Which is your favorite, baseball or soccer?』っと。



 右目にのみ映る彼女は、授業中でもお構いなしにあちこち動き回って、クラス中のあれこれを嗅ぎまわっては報告してくる(手紙の内容は視界に映っていないため彼女にも見えない)。


 それにいちいち反応なんかしてられないし、目立った行動も避けるべきだ。口出しなんかしていたらクラスメイトに頭がおかしいものと思われてしまう。



 その代り、ノートの端に彼女の似顔絵らしきものを描いてそれを指さす。すると、彼女がこちらに戻ってきた。


 その絵を一瞬みてすぐ黒板へ戻すと、右側に書かれた英文をやっと書き写しきったと思ったら、先生はもう左半分を消して、つぎの英文を書き始めてしまう。ついていけない...。すぐにノートから黒板へ視線を忙しく行き来させ、書き写す。

 似顔絵なんかみていられない。



「ちょっと、よくみえなーいー!あと1秒、いや、3秒間だけでいいからぁー」

 増えてるじゃん。交渉なのこれ。そんな暇はないよ。

 けど、こいつがしばらく黙っていてくれるのなら、数秒くらいくれてやってもいいか。SIBUSIBU交渉は成立した(なにひとつ保証はないけど)。



 似顔絵も即興で描いたので、ほんの少し注意を引く程度のものだろうけど。ほんとうに数秒だけ視線をノートの似顔絵にとどめた。



 1、2、3、――――――――。






「んふぅううううううううううううううっ」


 百点の笑顔が満開花した。


 不覚にもその笑顔に、ほんのすこしのあいだ見惚れてしまった。



 よほどうれしいようで、しばらくの間彼女は視界に現れなくなり、いつもの授業風景が戻ってきた。


 いつまでもそのイラストばかり見ていられない。再び黒板に目をやると、いつの間にか左側が消され、別の英文で埋め尽くされてしまっていた。代償のほうがデカくないか。



 まあどちらにせよ、ぼくについていけるレベルを超えてしまっている。

 いつかこんな書き写す方法なんかなくなって、効率よくinputされる技術が発達するだろう。そうなったときに一気に脳みそへ覚えこませればいいや。

 未来へと夢を託しつつ、再び書き写しに専念するのだった。




 黙々と書き写していると、後ろから机と机の間の通路を通ってくる人物がいる。あれ、何か出題されたのか?


 そんなことはないようで、先生はさっさと右側の英文を葬り去って新たに書き連ねてゆく。右目は後ろの方でまだにへにへいっていた。




 つまり、この子はぼくにだけ見えているもう一人の存在ということだ。




 制服姿の『彼女』は、あまりその服装が似つかわしくない。というのも、彼女の見た目は小学生低学年のソレだからだ。すこし背伸びしすぎている。

 前の席でノートをとっている鈴木さんの机の上に立ち、すごくsexyでglamorous、というつもりのポーズをとった。



「Draw me.」



 挑発的な視線でに向け指をさし、自分の顔へと交互に行き来させappealしている。左目の彼女は自分の分をplease pleaseとのことらしい。


 きゃんのっと。英文を書き写すのは諦め、目の前の優秀なmodelをDrawingすることに決めたのだった。






 昼休み、教室に居場所がないのでさっさと抜け出す。

 ぼくの所属しているのは美術部で、昼休みは鍵さえ借りれば開放していいことになっていた。顧問の先生にそれを伝え、美術室へと向かう。


 ほんとうは図書室でもいいのだけど、右目の彼女がうるさくて集中することが困難である。それに、ぼくはあまり文章を読むのが得意ではない。左目の彼女には申し訳ないが、先ほど描いた絵で満足してもらうことにした。


 部室につくと、ぼくは内側から鍵を閉め、閉じこもった。普段、人が来ることは滅多にないので、そうしても構いやしないと思ってのことだ。なにより安心したかった。彼女たちと会話している場面を誰かに見られでもしたら、非難の対象になるからだ。



 授業中に書いたノートを開いて、じっくりと眺める。いい出来だなと思う。少なくとも、そこに描かれている彼女たちはとてもいい表情をしている(ポーズもなかなかえっち)。それ以外の背景は、描かれない。描く理由がとくにないからだ。そのせいで、いつもぼくの描く絵はど真ん中に彼女たちがいるだけのシンプルなものになる。


 そんなぼくがどうして美術部に所属しているのかというと、年上の先輩に勧誘されたからというただそれだけの理由だった。

 たまたま描いていた絵が先輩の視界に入り、それを甚く気に入ってくれた。ただそれだけの理由であり、ぼくの意志で入部したわけではなかった。


 先輩はいわゆるオタクといわれる部族で、ぼくの描いた絵を妄想の産物、二次元の萌えキャラとしてとらえているらしい。まぁ、ずれていないのかもしれない。もーそーかもしれないし、二次元といえるのかもしれない。



 部活といっても、精力的に活動するような雰囲気はない。実際、ぼくは彼女たち以外描かないし、先輩はたぶれっと?(というらしい)を持ち込んでそれに向かって熱心になにか描いている。他の部員の絵も、とくに何か特別な感情を抱くこともない。

 ただ、静かな空間の確保のためだと割り切ってここにいる。




「ギィくん、ギィくん、また描いて!描いて!ほらこのポーズ」

 右目の彼女はテーブルの上にしゃがみこんで、野球のキャッチャーの構えをとった。外で野球をしている面子の真似をしているのかもしれない。


 ぼくは運動の類はそこそこで、やればできなくはないよ、といった程度の実力である。

 そして数値だけ見れば左側の機能だけずば抜けていた。それはほとんど左目の彼女のおかげなのだが。

 左目の彼女の反応速度はけた違いで、ぼくの意識が追いつく前に次の行動がすでに終わっていることがある(なぜか左半身が乗っ取られている)。 バスケやサッカーなどの球技でぼくの左に出るものはいないのだった。



 しかし、それをよく思わない連中もいた。彼らは試合において敗北することを恥だととらえていて、体育の授業や体育祭などの行事でぼくがボールを奪うだとか、まぁとにかく邪魔をすると、ぼくを睨み付け悪態をつくのだった。

 そこまではなんでもないのだが、彼女はその喧嘩を買ってしまい、どんどん動きが派手に、乱暴にエスカレートしていく。そこから先は、僕の体力が尽きるか、終了のホイッスルが鳴るかでラフプレイ地獄の行く末が決まるのだった。



 目の前でキャッチャーの構えをしている右目の彼女を見る。こいつは特に、問題を(現実に)起こしてはこない。ただ視界に映り、無茶苦茶で、うるさいだけなのだが。二人がこうも違うと、どうして違いが生じるのだろうかと疑問に思ったりする。


 ぼくは彼女の自由で奔放な性格に翻弄されるばかりだった。だけど、たまに救われることもある。なんというか、ほかのすべてを吹き飛ばしてくれるようななにかがあるのだ。

 それに比べて左目は先ほど述べたよう、現実的に、外側を破壊しつくし根絶やしにする、といった感じだ。

 なんであれ、ぼくは彼女たちに助けられてここにいるのだと、改めて実感するのだった。



 その恩返しといっていいかもしれない。こうして彼女たちを描く行為は、現実に存在していない彼女たちがいてくれていることの証になる。

 これはぼくたちでここにいるということの証明だった。これだけでいい。

 何を手にしようなんて、思わない。わかってほしいなんて思わない。



 そろそろ考えを巡らせるのはやめにして、鉛筆を手に取る。外からの光が彼女を照らしている。すこし逆光気味だけど、それもいいか。


「さあピッチャーボールを手に取り構えます!」

 ぼくはそういう立場なのね。

「第一球~~~~~~っ投げたーーー」


 ぼくはだまって鉛筆を走らせた。たのしそうにする彼女の顔が、絵を描く原動力だ。



 すると、急にパァ―ンッと何かの破壊される音が響く。鉛筆が床にカラカラとなって転がる。

 目の前のキャッチャーミットを模している掌から、球が、飛んできた。


「なっ」


 僕はなにもできずその情景を見張っていた。キャッチャーの彼女に遮られて反応が遅れた。窓ガラスを破壊し、本物の硬球が僕めがけて飛んできたのだ。




 だけどぼくは、傷ひとつつくことが無かった。いつのまにか左腕がその硬球を受け止めていた。


「イぎッいってええええええええええええええ!!!!!」


 さすがに飛んできた硬球を素手で、なんの痛みも無くとるなんてこと、できっこない。思わず叫んでしまう。

 しかし左側での彼女は力の受け流し方、そして掌の位置を完璧な位置でとらえていた。しっかりと掌で受け取り、指が折れるということは免れていた。けど、痛い。ひびが入ったかもしれない。



「ストライぃいいいいいいクいやーまさかあの構えからの剛速球、だれも予想だにしなかったでしょうねぇ。」

 もう役割がぐちゃぐちゃだった。右目の彼女はそう解説すると、立ち上がり、割れた窓から外へ走って出て行った。




「ヒーローインタビューのお時間です!見事抑えて見せましたね」

 向こうからやってくる学生にマイクを向けるふりをする。




「よォ、錯乱クン。」




 こいつは、ヒーローなんかじゃない。




「それ、俺のなんだワ。さっさと返せボケ。」




 サイアクアクトウのお出ましだった。


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