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刀狩り  作者: 夜桜月霞
果し合い
47/48

果し合い……35

 漣は鋼の剣撃を全て弾いてしまう。代わりに次々と彼女に浅い切り傷を作っていく。


 目が霞む。


 出血が多い。ひとつひとつは浅い傷なのに、全てが血管を狙っている。大量に装備した鋼がかつて感じた事が無いほど重たく感じる。


 大きな音を立てて、重たい業賢が手から滑り落ちる。


 慌てて二本の短刀を抜いたが、反応が遅かった。阜雫の漣を描く二本の怪刀は鋼の両の二の腕に浅い傷を負わせていた。


「頃合いだ……」


 阜雫は長短の姉妹剣を上下段に構えて、腰を落とす。


 次はかわせない。


 馴れない短剣二振りでは、明らかに次の必殺を防げない。


 ゆっくりと伊蔵が動く。否、それは恐ろしく速く目に追えない。だが、見えている。見えているのに、体は動かない。阜雫の長刀が、鋼の首に迫る。


「そこまで、です。阜雫さん!」


「なに……ッ!?」


 横合いから飛び出してきた一振りの白刃が、二つの黒い漣を打ち消した。


 まだ耳に残る審造の鋼同士が打ち付けられた音が、一瞬全てを諦めかけた鋼の耳朶を打つ。


 目は開いていた。迫り漣を打つ阜雫の姉妹剣の動きがスローモーションに見えていたのに、その短い白刃は突然現れた。瞬間移動のように現れて、長短の刃を払った。


 そんな芸当が出来る人間は、鋼の知る中でただ一人。


「総史郎殿!?」


「はい」


 飄々とその少女は阜雫と鋼の間に割り込んで、阜雫の首を狙って一度富重を払う。当然当らないが、彼は後ろに跳んで間合いを開けた。


「お久しぶり、ですかね?」


 微笑を浮かべて堂々と阜雫を見据える様は、さっきまで童女のように脅えていた小娘だとは、想像も付かないだろう。


「ここからは、私がお相手しますよ。私が死んでしまえば、彼女の首を守る者はいなくなります」


 いったいどのような剣技が、阜雫をもってしてわからなかった。


 ただ一言、人斬りと呼ばれ、その代名詞となった剣の男は、生まれて初めて目の前の少女を、切る対象ではなく、敵として捕らえた。


 黒刃をもった阜雫が、わずかに腰を沈め構えを取る。


「俺を、殺してみろ!」


「すぐに、終わらせますよ。時間がありませんので」


 黒い漣が、一直線に津波となって総史郎に向う。


 左手に持った富重が消えた。


 左手に持った黒い小太刀と、右の黒い太刀が消える。


「そうだ、それでいい」


 三つの火花が飛び散り、両者は彼我の間を開ける。


 まさか止められるとは思っていなかった総史郎は、一瞬瞠目し、そして笑う。


「さすがですね。受け止められるなんて、初めてです」


 そして、もう一度。


 火花は、五つ。


 総史郎の刃が、同時に五回防がれる。


 彼我の間を開け、さらにもう一度。


 飛び散る火花七つ。


 離れて、もう一度。


 九つ。


 十一。


 十三。


 打合せる度、互いに互いの癖を見つけ、隙を突くが。それを更に防ぐ。


 また阜雫の攻撃を超えようと、総史郎は何時しか秘剣、縮地を超える速さで、五歩の間合いを半歩で埋めていた。


 切れてしまいそうな、絹糸のような意識の中で眺めていた鋼は、自分の状態も忘れて、ただ瞠目して見つめていた。


 コマ飛ばしの映像を、複数の映写機で一カ所に投影している。そうとしか表現できない。


 彼我の間を開け構える両者。


 中央で斬り合う、幾つもの両者。


 何重にも重なって見えるその光景に、我が目を疑うほかないが、それは真なのだ。


 九十九回の刃鋼の斬撃の音が、鳴り続ける。


 瞬く間の瞬間。


 数回の呼吸の間。


 ついに時が来た。


 鮮血が飛び散り、阜雫は膝をつく。


「首を、切れ」


「お別れです」


 肩口から無くなった腕を押さえて、阜雫は小さな少女がやりやすいように膝を付いた。

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