果し合い……27
忘れようとした総史郎の胸の過去の傷から、激しく出血していた。
「おい! 血が!」
恐怖に震えて歯が鳴る。血が着物から染み出して目視できる。
「鋼! 逃げるぞ!」
「え?」
「総史郎が」
「行け」
一言だけ呟き伊蔵は刀を納め、総史郎たちに背を向けて立ち去った。
「速く。速く咲せんせ呼べ!」
総史郎の背後から抱き締めるようにして胸の傷口を押えていた座漸が、突っ立て固まっていた鋼に声をかける。
「っど、どうやって?!」
総史郎の出血を確認した鋼の顔から、さっと血の気が引いて今度こそ動けなくなった。
「あーもー! 確かここにあったよな?!」
座漸は覚悟を決めて総史郎の着物の前合わせに手を突っ込み、べっとりと濡れた携帯電話を取り出した。
前に笹木家使用人の佐川愛に聞いた手順を思い出しながら、アドレス帳を開いて女性の名前しかない中から、彌藤咲の名前を見つけ出し、真ん中のボタンを連打して耳に当てた。
半コールで繋がった電話から、どうしたの? と倦怠感漂う声が聞こえた。
「あ、せんせーか?! おれだ、座漸だよ! はやく、速く来てくれ!」
座漸は今にも泣き出しそうな顔で何とか現在地を言い終えた頃には、総史郎は意識を手放してぐったりと力が抜けた。
総史郎の意識が無いことに気付いた座漸は、何とか今やるべきことを思いつき行動に移す。
「おい、しっかりしろ!」
呼びかけながら、ハンカチと自分の腰に巻いていた布で止血を試みるも、片手ではどうしても上手くいかない。顔を上げて固まっている鋼を睨む。
「手を貸せ! 速く!」
固まっていた鋼がやっと我に返り、急いで傷口の上を押える。三つの手を使っても傷口は押えきれずに有り余るほど大きく深い。
いったいどれくらい待った。鋼と座漸には気が遠くなるほど長い時間に思えた。
咲が乗った救急車が駆けつけた時には、もう総史郎は恐怖でなく失血によるショックで痙攣を起こすほど危険な状態だった。止血のおかげで、何とか死んでいない程度だ。
降りてきた咲はその状態を見て、即座に指示を出した。
「速く帝國病院へ!」
「しかし、ドクター」
救命士の一人は事情を知っているのか、怪訝に声をかけた。
「何か問題があるなら、後で言ってちょうだい!」
それだけ言って総史郎を担架に乗せるのを手伝う。
その最中に咲は総史郎の状態を確認する。
咲にすがりついた二人は、人殺しでもある。今の総史郎がどれほど危険な状態か分かる。
「先生、総史郎殿が……」
「おい、大丈夫なのか?」
咲は言い寄ってきた二人のどちらともなく、総史郎の富重を渡した。改めてこの刀の重さに咲は内心で驚く。
救命士が担架を担ぎ上げるのを横目で確認しながら、とりあえず半分パニックになっている様子の二人に事実を突きつける。
「大丈夫に決ってるでしょう。この程度で騒がない。それより、あんた達は家で待ってなさい。邪魔だから」
咲の腕ならコレといった問題ではない。問題は病院側に輸血液があるかだ。
急いで総史郎を乗せた救急車に乗り込んで、ドアを閉める。同時に、車は急発進する。安全速度の二倍ほどの速さでぶっ飛ばしていた。




