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刀狩り  作者: 夜桜月霞
果し合い
37/48

果し合い……25

 白目を向いて泡を吹いて倒れた男が、その壮絶な威力を語る。


「ちぇ、よわっちいの」


 厄神を肩に担いで溜息をつくと、座漸が消えた。


「売った喧嘩は責任持てよ」


 厄病神のような笑い声は、逃げ腰だった騎士Bの陥没する左肩付近より聞こえた。断ち切れていないということは、峰を使って打ったのか。


「ぐ、ぐおおおォォッ!」


 両手剣を取り落として、右手で左肩を押さえようとしたので、座漸は右腕を切り落とした。


「ぎゃあああ! あああああッ!」


 さぞかしショックだろう、そのまま騎士Bも気を失った。


「う、うあ。あああ!」


 もはや恐慌状態だった。残りの騎士団員も血相を変えて逃げ始める。


「あ、まてよ!」


 しかしすばらしいことに、逃げ足の騎士団員は、怪我を負い気を失っている仲間を肩に担いでいた。座漸は興が冷めたのか追いはしない。


 しかし、彼らの逃亡は叶わなかった。


 五人の男の体は連結部から分解された。


 がしゃがしゃと賑やかな音を立てて、断末魔を上げる間もなく男たちは逝き、血糊の池を造った。


「どけ」


 その声は涼やかで、腹腔に響く心地よい低音。だが、致命的なまでに感情をなくしてしまった、人形の声。枯れ果てた荒野にも似た荒涼としたその声の持ち主は、血の湖を突っ切って現れた。


 人々は馴れたもので、すでに人っ子一人見当たらない。


 今ここにいるのは総史郎たち三人と、五人分の人体を形成できる肉片と、その男だけである。


 羽織と袴は草染めの質素なもので、頭には笠が乗っていてる。笠は深く顔を半分ほど隠しているのだが、一箇所割れ目がありそこの奥に目があった。


「阜雫、さん……」


 総史郎が呻くように呟き、その場にへたり込んだ。


「貴方が」


 わずかに緊張の色が見える鋼が尋ねると、その男、阜雫は頷く。


「然り」


 抜き身の長刀をゆっくりと両手で構えてもたげた。


「九慟鋼、九慟審衣紋くどうしんえもんの依頼で、お前を殺しにきた」


 阜雫の口にした名前は、鋼にはよく聞き覚えがある。彼は鋼が幼少の時期から面倒を見てくれていた叔父だ。


 その名前の威力は、まるで落雷に打たれるほどあった。


「審衣紋叔父様から?」


 寝言のように不明瞭に洩らす顔は、まるで生みの親に殺された子供のように、疑いながらも事実を確信してしまっているような顔を作った。


「その首、貰い受ける」


 夜空の色をした阜雫の長刀、苛迦羅忌かからきがゆっくりと構えられ刀身が波を打った。


 今だ放心状態の鋼に、阜雫は躊躇い無く切りかかる。


 伝説の秘剣”縮地しゅくち”。十歩以上の間合いを一瞬で一歩で歩むその技を惜しげもなく使った阜雫の一撃と、脊髄反射で業賢を抜いて動いた鋼。


 その鍔競合いは、途方もない質量体がぶつかり合ったような、身を打つ衝撃音として世界に広がった。


 刹那で目の前に現れた、阜雫の一撃を受け止められたのは、幾千回にもおよぶ戦闘を経験した彼女の反射神経だから成しえた業だ。


 しかし精神は集中どころか、違うところにある。コレでは数万回もの戦いを経験した阜雫に首を刎ねられるのは時間をかける間もないだろう。


「なぜ、叔父様が……?」


 体は反射的に間合いを開けて、業賢を構えているに過ぎず、阜雫の腕ならば何処からでも切りかかる事ができるだろう。心を入れていない剣を折るなど、彼には造作も無いことだろう。


 合法的暗殺が行われようとしているその時、ふたりの間合いに、赤い雀が飛び込む。


「てめぇ、てめぇだ。そうだよなぁ?」


 座漸だ。

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