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刀狩り  作者: 夜桜月霞
果し合い
36/48

果し合い……24

 背筋を凍てつかせるような、冷たい声でささやく鋼。その刹那、五人の男がぶるりと震え上がったのが分かった。武者震えでない証拠に、一瞬勢いをなくして身を引いた。


 それでも彼らは血気威勢を奮いあがらせる。


「デアアアアアアア!!!!」


 騎士団員はばらばらの掛け声を張り上げて切りかかる。


 しかしそれは一瞬で終わった。鋼の業賢の一振りで、騎士団員ABCDEが吹っ飛んだのだ。


「お、おのれ。流石名立たる剣豪」


「もう一度問おう。我らの仲間にはならぬか?」


「今改正すれば、諸君らの汚名も返上されよう」


 ABCの誘いに、座漸が舌打ちして前に出た。


「うるせえ奴らだなあ。それに、まだ、何もしてねえじゃねえかよ」


 禍々しいデザインをした異形の太刀、厄神を肩に担ぐ狂犬座漸は、さぞ肝が冷えるだろう。ましてや彼らは、その少女が百人殺しの狂犬と呼ばれているのを知っているのだ。知っていて、喧嘩をふっかけてしまった。


「もういい。せいぜいおれを楽しませてくれよ」


 座漸が狂犬の笑みをこぼすと、騎士Bが憐れな悲鳴を上げた。座漸が厄神でBの頭巾を切り飛ばしたのだ。


「おら、立て」


「おのれ小娘がぁ!」


「調子に乗るなよ!」


 今まで黙っていたDとEが、立ち上がって切りかかる。が、あっさりと厄神の嘴に弾かれた。


「ぐお」


「うお」


 重たい両手剣を弾かれ、大きく仰け反り隙を作るのだが、それを座漸は切らない。


「なあ、こいつら本当に喧嘩屋かよ? めちゃめちゃ弱いぞ?」


 座漸がつまんねえよとボヤキながら、騎士たちに背中を向けた。見逃したのではない。お前らなぞ背中を見せても、微塵も脅威を感じないという意味の挑発だ。


「小娘がぁあッ!」


 やっと立ち上がった隊長の騎士Aが両手剣を構える。総史郎は見た事のない構えに少し興味がわいたが、二人はそれには全く興味がないらしい。座漸は背中を向けたままだし、鋼は業賢を鞘に戻している。


「調子に乗りおってぇ!」


 全身が高く、さらに剣を頂点に構えたそれは必殺の奥義らしく、騎士団員がわーわーと声を上げて騒いでいる。


「御首頂こうぞ小娘ぇッ!」


 最初の一撃を繰り出したのは、騎士A。上段より落雷のように打ち落とされたその一撃は、確かに素早く切れる。落雷のように叩きつけて、相手を頭から真っ二つに切り裂く寸法か。


 だがその程度で、”狂犬”を殺せるものか。


「遅い、遅いぜ。遅すぎてあくびが出ちまう!」


 飛燕は尾を翻し、落雷に立ち向かう。


 燕は世界で最も硬く、何モノも拒む事も出来ない切れ味を持った、強鋭な嘴を携えている。


 轟音を響かせ、落雷は根元より断ち切られ、遠雷を轟かせていた雷神は燕によって蹴り飛ばされた。


「ぐおぉッ!」


 後ろに吹っ飛んでいく騎士Aには、いったい何が起きたのか分からなかっただろう。


 しかし二人はしっかり見ていた。だが総史郎は騎士Aの腹に見舞われた座漸の膝蹴りよりも、その白い太ももを食い入るように見つめていた。鋼は溜息を吐いて額に手を当ている。


 何が起きたかと云えば、座漸は厄神で騎士Aの両手剣を叩き折り、彼の腹に思いっきり膝蹴りを入れたのだ。


「なんでえ。よわっちいな。おれの首が欲しいんなら、全員でかかって来いよ」


 隻眼隻腕の狂犬、血や炎よりも赤い赤髪に、手負の獣のように鋭くぎらつく右目。普段総史郎や鋼などの異常な人間に囲まれて色あせている彼女だが、その実力は百人殺しの通り名が証明している。彼女こそこの三人の中で、最も純粋に果たし合いを喜び戦っている。


 騎士Aは鍔より断ち切られてしまった両手剣を捨て、小剣を抜いた。小剣といっても総史郎の富重よりも長さがあるのだが。


「お、おのれ。我は、屈せぬぞ!」


 健気にも立ち上がる騎士に、座漸は狂犬の笑みを洩らした。


 厄神を肩に担ぎ、人差し指を立ててくいくいと招く。


 騎士Aは頭巾をかなぐり捨て、屈辱で赤面した顔で座漸を睨みつける。


「であぁあああ!」


 小剣を水平に構えて座漸に向って一直線に突っ込む。


 その突撃の動きをしっかりと目で確認して、座漸は体を大きくひねり、刃の付いていない厄神の切っ先で騎士Aの胴を突いた。大型トラックと小学生が正面衝突した時のような、派手な音を立てて、騎士Aが吹き飛んでいく。


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