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刀狩り  作者: 夜桜月霞
果し合い
30/48

果し合い……18

 食事の後、茶の間で机を囲んだ。


「で、皆さんに心配をかけた分以上の収穫は、何かあったのですか?」


 少し薬の意味を込めて云ってやると、鋼は済まなそうに視線を下げた。


「何か収穫はありましたか?」


「はい」


 頷いて、まっすぐ総史郎の目を見つめる。


 この目は、甘いものを要求する目だ。


「座漸さん。たまには働いてください。茶箪笥にチョコレートが入ってます。持ってきてください」


「あー? おー」


 離れた所に立っていた座漸が、寄りかかっていた茶箪笥を少しあさる。くだんのチョコレートの袋を見つけ出した。袋を開けて大皿に盛る。一口に小分けされたものだ。


「ほらよ」


 ぶっきらぼうに突き出された大皿を、総史郎が受けとる。しかし彼女は手を放さない。


「ありがとうございます」


「半分貰っていいか」


「一粒の半分ならいいですよ。最近運動してませんし、太りますよ?」


「ケチくせえし、うるせえよ!」


 舌打ちして大皿を離すと、総史郎は座漸の気が変わらない内に、皿を机の上に置き鋼に差し出す。


「さ、鋼さんは好きなだけどうぞ」


 わざと強調して言うと。


「差別だ!」


 やはりワンこが横できゃんきゃん吼えるが、総史郎はそれを無視した。


 鋼はチョコレートを一口含むと、溶けてなくなるまで何も喋らない。座漸の不平と愚痴だけがうるさかった。


 後味も引いて、鋼がゆっくりと口を開いて話し始めた。


「時間をかけてみましたが、あまり詳しくは分かりませんでした」


「でも、なんとか足がかりを掴むことぐらいはできたのでは?」


 総史郎の問いに、鋼はまっすぐ総史郎の目を見て肯く。


「はい。次の相手は、最後の大業物、双子の苛迦羅忌かからき迦烙忌からくいです」


 その二振りの刀の名を、総史郎は聞き覚えがある。


 その持ち主も、よく知っている。


 総史郎の顔が一瞬で真っ青になり、歯がかちかちと音を立てて震え始めた。


阜雫おかだ……伊蔵いぞう、さん」


 総史郎はその名前を無意識の内にこぼした。


 鋼は肯いて総史郎にとっての最悪の事態を思い出させる一言を口にする。


「そうです。その者が、この街に来ているようです」


 意識が恐怖に支配されていく。


 恐怖。


 五年前のあの日が、脳裏によぎる。


「どうかしましたか?」


「おい。顔、やばい色してるぞ?」


 意識が遠のく。声が遠い。鋼と座漸が、総史郎の顔を覗きこんでいる。視界が歪んで見えない。


 堕ちていく。暗いところに沈み込んでいく。


 意識は、心は、五年前に縛り付けられていく。縛り付けられていた。


 体が震える。傷口からの出血が止まらない。


 父の首が、母の胴が落ちている。


 泣き喚く。立ち向かい、切り伏せられる。


 なんで、あんなに優しくしてくれたのに。


 双子の刀が、漣のような軌跡を描く。


 飛び散る。


 紅い血。


 悲鳴。


 断末魔。


 父のか母のかは分からない。


 生きたまま分解されていく、剣豪、笹木虎滋郎ささきこじろう


 泣き叫ぶ子供。


 親切な剣客は躊躇いなく、数日前に助けた少女を切った。


「…を……して…ろ」


 剣客の声は、聞きづらい。


 でも昨日は優しかったのに。困っている私を助けてくれた。


 なのに、今日は家族を、父の門下生を、家に勤めていた使用人まで皆殺しにしていった。


 現実味のない、容赦ない現実。


 暗い影が、まだ小さかった総史朗を飲み込み、未だにその影はねっとりと、絡みついている。


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