果し合い……13
「分かりました」
鋼が甘いものが好きだった事を、今更ながら思い出して、胸に何かがつかえた。いちいち気に留めやしないが。
昨日ここのキッチンにある僅かな食料と、飲み物の配置を教わった。ちなみに輸血用血液と食料が、一緒に冷蔵庫に入っていたのは本気で驚いた。最初に言っていた飲み物リストに、血液が含まれていたのも納得がいく。
配置を思い出しながらココアの粉を見つけだすのは、この何もない家ではさほど難しいことではない。
ココアの粉と熱湯を適量カップに入れて、根気よくねる。
頃合を見計らい、砂糖を入れて混ぜ合わせ暖めておいたミルクで伸ばす。
それからもう引いてある豆とろ紙をサイフォンの上部フラスコに入れて、下部フラスコに二人前の水を入れる。それ以外の物資も少し集めてから、ワゴンに乗せて客室に向かった。
ノックを二回。
「入りなさい」
今は問診でもしているのか、咲が答えた。
中に入るとやはり問診中だったようだが、カルテはすぐにしまってペンを白衣の胸に挿した。
「じゃ、これ飲んだら寝なさいね」
「はい」
総史郎の押してきたワゴンから、ココアを取って一度混ぜてから鋼に渡す。ちいさく熱いわよと言っておく所など、実は”いい医者”であるのかと思わせる。否、実際”いい医者”なのだろう。
総史郎は入り口の横に背中を預けて、咲の後姿を見つめる。
「私に何か付いているのかしら?」
まるで後頭部に目でもあるかのようだ。見られていないのに、”見られている”気がした。
「いいえ。ただいいお医者さんを見つけたな、と思っただけですよ」
総史郎は軽く首を振って、ワゴンから自分の分のコーヒーを取り、よく冷ましてからブラックのまますすった。
「胃に穴が開くわよ。せめてミルクくらい入れた方がいいわね」
総史郎を振り返らずに、いかにも医者らしい忠告をひとつ入れる。やはり後頭部に目が付いているのかもしれない。
しかし前回もこうして飲んだのに、その時は注意されなかった。不思議である。
「背後に立たれていると苛々するわ。隣か前に来てちょうだい」
言われるがまま移動して、鋼を挟んだ正面に椅子を出して腰掛けた。
沈黙である。
一言も発せずに、全員がただもくもくと茶をすすっている。
沈黙打破のため、ワゴンに入っていたモノの脳内リストを開く。
「口に入れるものも持ってきましたよ」
「あら。気が利くわね」
そう言って動かないということは、総史郎に取れということか。少し手を伸ばせば届きそうなものを。
総史郎は席を立ち上がって、ワゴンから大皿に盛り付けた甘いものを取って咲に渡した。
「あんまり硬いものはよくないわね。これと、これと」
鋼が食べても大丈夫そうなものを数個選び、小皿に移す。それをサイドテーブルに置いた。
「食べきらなくてもいいわよ。痛くなったら、すぐ吐き出しなさい。無理したら、退院するまで食事じゃなくて点滴よ。わかった?」
よく鋼の事を理解している。彼女は強情で、食料を無駄にすることを嫌うのだ。特に出された食事を残すという行為を最も嫌うらしく、以前それで座漸と揉めていた事がある。
「さ、もういいわ。あなたは帰りなさい」
「分かりました」
丁度コーヒーも飲み終えたし、
「カップは洗って行ってね。あなたのだけでいいから」
ワゴンにカップを置こうとした途端にコレである。




