果し合い……11
「だから、家政婦になってくれて働けといってるのです。もしかして、そっちの仕事と勘違いしてました?」
にっこりと笑顔で言うと、ぽかんとしていた座漸は、べそをかきながら総史郎の脛を思いっきり蹴り上げた。顔がリンゴよりも赤い。
「てめえッ!」
厄神を抜いて切りかかる。顔が真っ赤でべそかいたままだと、大して怖くないが。それでも厄神の禍々しいシルエットは肝に悪い。
「なんですか。勘違いしたのはそっちですよ?」
「うるせえ。死ね!」
座漸の盛大な大降りが直撃したら、おそらく頭どころか腰まで真っ二つになりかねないだろう。否、百パーセント左右で体が泣き別れる。
これは困った。
厄神の動きはよく覚えている。これを避けても燕のように動きが変形して、切り込みにかかるだろう。
ならばしかたない。
大降りの降下を避け、足を絡めて押し込む。
「きゃあ!?」
間抜けな声を上げて座漸は盛大にひっくり返り、総史郎の下敷きになる。むしろ組み伏せる。
「落ち着いてくださいね。また借金増えますよ?」
にっこりと人好きのする笑顔を見せ付けてやると、頬を染めながらも喉を鳴らして睨みつけてきた。幸いにも厄神は凌ぎを下にして落ちたので、床は無傷だ。
「うるせえ! ここでお前をぶっ殺したら借金はチャラだ!」
「なるほど。たしかに、そうですね」
納得といって首肯すると、もう一度にっこりと笑む。
「じゃあ私はここで、貴女をたっぷりいじめますね。冥土の土産です」
刹那座漸の顔が青ざめて固まった。
「なに、これでも私、”女の子”をいじめるのが得意なんですよ。どんな悪い子でもイチコロです」
金魚のように口を開閉させ、それでやっと逃げようと暴れだした座漸は、反転してうつ伏せになり、総史郎と床からの隙間から抜け出ようと暴れている。
「やめろ! 離せ! 離さないとぶっ殺す! きゃあ!」
べそをかいて手足をバタつかせているので、羽交い絞めにして腰を抱く。いちいち悲鳴を漏らすのが面白い。
「そんなに暴れると、脱げちゃいますよ。ほら」
指摘しつつ浴衣をはがしているのは総史郎の性分だ、しかたがないことだ。
「やめろ! 脱がすなバカぁ!」
「さすが毎晩お風呂でマッサージしてるだけありますね。さわり心地がいいです」
はだけた合わせから手を入れたり、首筋にほお擦りしたりと好き放題だ。
「はなせ! ってなんで知ってんだよ!」
「毎晩覗いているからですよ」
総史郎の書斎から、母屋の大露天風呂は覗き込めるのだ。そうなるように部屋替えしたのだ。
「やめろ! 警察呼ぶぞ!」
「大丈夫です。この家に電話はありません」
「どんな家だよバカ! 緊急の時はどうするんだ!」
「その時はその時です。佐川さんが携帯持ってるので」
「ならそいつに」
「今日はいませんよ」
使用人を毎日呼んでいたら、労働基準で処罰されかねない。そもそも毎日呼ぶ必要はない。
「意味ねえじゃねえか!」
叫ぶ座漸は無視して、浴衣を少しずつ剥いていくと狙った訳でもなく、大きな胸に浴衣の襟が引っかかり際どい色気をかもし出した。
脱がそうとした衣服が引っかかるとは、ただ事ではない。グラビアアイドル並みだ。
「貴女、いくつですか?」
「聞くな!」
間髪入れずに答えたが、もう逃げるのはあきらめたのか、座漸は片腕でその大きな胸を隠そうともがくだけだ。
「こんなもん邪魔なだけだ」
俯き呟き加減だが、それでも結構必死になるのは、胸がコンプレックスなのか。
「いいじゃないですか。大きいほうが楽しさ百倍です」
「うるせえ黙れ変態メガネ!」
「メガネは関係ありません」
すこし憮然とすると、その隙に座漸が一気に脱出を謀り抜け出した。
あっさり逃がしてしまった獲物を見つめ、総史郎は舌打ちを漏らす。
「ちぇ」
「舌打ちすんなバカ!」