果し合い……6
美爪屍女は九慟審造の造った刃物の中で、最も奇怪である。
それを使用するには、両腕を肘から先で切り落とさなくてはいけない。感染症や、筋繊維を美爪屍女の稼動部と接合するさいの拒絶反応。それら高いリスクを払って得るものは、カラクリ仕掛けの鋼で出来ている最強の義手。断ち切るのは同等の鋼をもってしても困難。
龍治朗は強靭な義手で薙刀を掴み、一気に鋼に突進するように近寄る。風切り声よりも、爪のほうが圧倒的に速い。
鋼は咄嗟に後ろに避けようとして、身を引こうとした。しかし強く薙刀が引かれて動きが鈍った。避けきれない。
「あらやだわ」
咄嗟に鋼は上体を仰け反らせて何とか避けた。少し長かった前髪の左半分が眉の位置で綺麗さっぱり切り取られている。
「ごめんなさいねえ、髪は女の命。勝手に切っちゃったわぁ」
言いつつ龍治朗は、切断した鋼の前髪の束に口付ける。
「寒気がします!」
恥辱に頬を染めて龍治朗を思いっきり睨み付けると、彼は頬を染めて身をくねらせた。
「やだわぁ。いくらアタシが綺麗だからって、そんな穴が開きそうなほど見つめないでん」
照れるじゃない。
台詞と共にもう一度風が鳴る。
だが今度は鋼も黙ってはいない。
刺糸を飛ばし、龍治朗の右腕に絡めつけた。
「あら、お上手」
一瞬彼の動きが止まる。しかし、それは一瞬。龍治朗の右腕の筋肉が隆起して、腕が力強く振るわれる。
「オラァアアアァッ!!」
龍治朗の咆哮と共に、またしても鋼の体があっけなく宙を舞った。
「ほんと、まるで羽みたいに軽いわん、アナタ」
今度は右腕を手前に引く。鋼の体が唐突に向きを変えて龍治朗に向って落下する。
「串刺しか、それとも切断か、選ばせてアゲル!」
墜落の刹那、鋼は薙刀を振るって空中で舞った。
鋼は落下の向きを変えて、龍治朗から離れたところに降り立ち対峙する。
「そうだわ。ここで殺しちゃだめじゃない」
逃げられた事でそもそもの目的を思い出した龍治朗は、一安心とぼやくほどの余裕を見せた。
鋼は軽く着地して、巨躯の男を見据える。
「なるほど。その持ち主は最適なようですね。認めましょう」
淡々と呟き、薙刀と刺糸を外套の中にしまう。
「なに言ってるの?」
龍治朗が一歩近寄ると、鋼は業賢を抜いて構えた。
「美爪屍女は貴方に差し上げるといいました」
「ナに言ってンの? これはもともとアタシのよ。ア、タ、シ、のッ!」
その言葉は、龍治朗の逆鱗だったらしい。彼は顔を変に歪めて、跳び出す。急速に間合いを詰めた。
「ええ。そうかもしれませんね」
業賢が閃いた。しかしその閃きが、果たして見えただろうか。
龍治朗の左肩の蜘蛛の首を切り落とすように深く裂いた。骨にまで達した一撃は、致命傷といっていい。
「あら! 痛いじゃないのよォッ!」
噴出す血を何とか鋼の義手で押えようとしたが、なかなか難しいようだ。指の隙間から血があふれ出ている。
膝を突いた龍治朗に近寄り、業賢を首筋に当てた。
スキンヘッドの頭に玉の汗を浮かべている。顔は伺えない。
「代わりに、その命を貰い受けます」
「嫌なこった、ってもんだわ!」




