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刀狩り  作者: 夜桜月霞
果し合い
17/48

果し合い……5

 鋼は咄嗟に左手で虎雅を抜いて、見えなかった敵の奇襲を防いだ。目にも鮮やかな火花が宙空に散る。


「みーっけ。貴女、刀狩の娘ねぇ」


 腹腔に重たく響くバリトンの声は、不自然な女言葉。声は遠くから響いているのか、まだ姿は見えない。


 しかし鋼には見えているのか、一点を凝視するように睨んでいる。ちなみに総史郎の視力はメガネをかけて普通より少し下だ。


「奇形、美爪屍女みそうしじょ……」


 西洋甲冑のガントレッドのような形をした肘先義手は、黒い爪が十指に生えている刃物。それが左右一対の兵器、九慟審造美爪屍女。


 鋼の見つめる先にやっと姿を捉えた総史郎は、そのあまりの異質さに顔を引き攣らせて固まった。


「いやねえ。美しいなんて。でも、まだ死んでないわっよと」


 そして消えた。それと同時に耳鳴り。


 否、耳鳴りではない。審造の鋼が打ち合った音だ。


 鋼と対峙した美爪屍女の使い手は十本の指が艶かしく動かして、鋼の虎雅を払い落とす。その不意を突くように、横合いから千の節が付いた長い針が襲う。これが鋼の持つ最も奇怪な兵器、奇形、刺糸と同じ物だ。極細の鎖の先に針が付いた形状をしているそれは、持った腕の動きをトレースして蛇のように振る舞う。


「いやぁね。かわいい顔して、むかつくことするわ!」


 美爪屍女の使い手、身の丈が二メートルもあろうかという大男は、外見とは裏腹の俊敏性で、刺糸をあっさり避けて間合いを開ける。


「ふふ。はじめまして。アタシ、明智龍治朗あけちりゅうじろう。よろしくねん」


 体をくねらせてながら男が自己紹介をする。いかにもオカマらしい仕草で片手で自らの頬を撫でながら。


 巨躯にスキンヘッドの頭には巨大な蛾のタトゥー。よく剃刀を当て整えた、直角を描く口髭。紫と赤と黒を多用した化粧は顔どころか、頭頂部にまで施されている。大量のシルバーがちりばめられた、ぴったりと体に張り付く革のボンテージは、その逞しい両肩を惜しげもなく晒している。左の肩には蜘蛛のタトゥーがでかでかと自己主張していたりと、まさに阿鼻叫喚としている。それで身動きには隙がなく、全身くまなく柔軟性、瞬発力、持久力すべてを掛け持った強靭な筋肉と、骨格が張り巡らされている。


 極めつけは両肘から先の美爪屍女だ。それ自体は人間の腕と同じ性能を有した義手なのだが、二寸程もある爪を備えたそれは、一切の不純なく九慟審造の鋼で出来ているのだ。


 その凶暴な美爪屍女の使い手は、磨き上げられた爪に反射して映る自分の顔をうっとりと見つめていたのだが、何を思い出したのか、突然その鍛えられた巨躯から途方もない瞬発力を生み出して、刹那で鋼に肉薄する。


 それでも鋼は龍治朗の動きを捉え、黒外套から取り出した二本の棒を連結させ魔手を防ぐが、その棒を龍治朗にしっかりと掴まれてしまい、鋼は動けなくなってしまう。


 二人はそこで硬直して、睨み合いを始める。力勝負では明らかに鋼の方が劣勢だ。


「アタシね、貴女みたいな女の子が大好きなの」


 腹の底に響くバリトンで囁きながら、ゆっくりと力を込めてじわじわとすでに全力で立ち向かっている鋼を押し込む。あたかも小動物をなぶって遊ぶ肉食獣のように、いやらしい笑みを浮かべながら舌なめずりをした。


「くッ!」


 力の差は圧倒的。単純な体重差ですら三倍以上の差があってもおかしくない所で、龍治朗は嬲るようにじわりと力を強めていく。


 もう鋼が限界まで押し込まれた時、龍治朗は顔を上気させ、荒い吐息を漏らして口を開いた。


「貴女みたいなちっちゃくてかわいい子を、アタシの爪でたっぷり愛撫して、その喘ぎ声を聞くのがいいのよ。もう、考えただけで、イッちゃいそうじゃない!」


 龍治朗は咆哮すると、棒をつかんだ腕に力を込めて、力任せに鋼を投げた。鋼の体が木の葉のように吹き飛んで、三回ほど地面にバウンドしてやっと止まる。


「もう我慢出来ないわ! 絶対犯しちゃうんだから! アタシを中に突っ込んで、いっぱい愛撫してあげるッ! たっぷりお腹の中に入れてあげるわよッ!!」


 龍治朗が声で地面を振動させながら、地を蹴って跳んだ。狙う先はやっと起き上がった鋼。宙に浮いた巨躯を強く睨みつける。


「死んでも、御免こうむります!」


 薙刀を刹那で組みあげ、渾身の力を込めて振るう。


「やん。そんな拒まないで。後悔はさせないわよん!」


 しかしそれすら龍治朗は平然と受け止めた。

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