果し合い……4
「んだと、アマ?」
男の額の血管が音を立てて切れた。
男が地を蹴って跳ぶ。その動きは意外なほどに速く、切れる。
初撃は小手調べか、軽く振った男の一撃を鋼は業賢の腹で受け止るも、男は厭らしく業賢の刀身を舐めるように逆衛を走らせ、鍔に当てた。
まるで噛み付くように鋼の顔に顔を寄せて舌なめずりしながら笑い、ヤニくさい息を鋼の顔に吐きかけた。
「どうした? 俺が弱いとでも思ったか?」
そして男はニヤニヤと笑いながら、逆衛で業賢の鍔を押す。
じりじりと押し込まれていく鋼には、しかし微塵もあせりは見られずむしろ余裕である。
「いえ。予想以上に弱くて、驚いていました」
業賢を一瞬引き、逆衛を流す。
「ち」
男が舌打ちして、間合いを開けるべく跳んだ。ちゃらついた見た目とは裏腹、身軽ですばしっこい。
一気に開いた男との間合いは三歩ほど。しかしその間合いは鋼の前では無意味。彼女の間合いは最大八尺。人間が跳んで開けた程度の間合いでは、射程圏内なのだ。
そして鋼は総史郎の期待通り業賢を横に薙ぎ払い、七尺の間合い全てのものを薙ぎ払った。
「くそッ!」
だが男もそれを予想していたのかすぐにしゃがみこみ、地を這うように走って間合いを開け続ける。
横薙ぎが唐突に向きを変えて追撃に出た一撃によって、交通標識が一本切断されて男に倒れ掛かってる。それを避けきれず何とか空きの左手で防いだ男は、歯軋りして彼女を睨みつけた。
「アマがぁッ!!」
怒りで顔を朱に染めながら、男は電柱やビルの外壁と次々に飛び移り宙を走った。
「どうだい? これでも俺が弱いか?」
男は自信を持っていたらしい軽業を見せ付けて余裕だったが、それ以上に余裕を持って追撃してくる鋼。男は徐々に心身共に追い込まれていき、ついに逃げの一手になった。
それでも何とか鋼に攻撃を加えようと、無謀にも彼女の間合いに飛び込んだ。巨大な大太刀だ、懐は弱いとでも思ったのか。
「ただ、すばしっこいだけです」
大太刀が宙を裂く。風鳴りと男の絶叫。はたしてどちらが先に総史郎の耳に入ったか。
憐れなナンパ男の体が枯葉のように舞い落ち、腰から切断された死体が地面に転がった。左肘はどこかに吹っ飛んでいった。
「これは、貴方には相応しくない代物です。貰い受けます」
男の残った右腕から逆衛を奪い取り、突鉄を抜いてとどめを刺しておく。
鋼はうつむき冥福を祈っているのか、それとも何か他に思うことがあるのか数秒動かなかった。
少し離れた所から大人しく見ていた総史郎が、近寄り今後の行動を聞く。
「これで終わりですか?」
総史郎の声を聞き、はっと鋼は顔を上げた。しかし、目線は遠くを向いていた。
遠くを見ていた鋼の目が急に険しくなり、
「もう一人、いますッ!」