果し合い……3
「もう。二度とこんなものには乗りません!」
顔を真っ赤にさせ頬を膨らませた鋼は、ヘルメットを脱いで総史郎に突きつける。
公営駐車場に停めるなり、鋼はご覧の有様だ。
散々危険運転をして鋼を怖がらせて遊んでしまった。目の前の悦楽には逆らえないものだ。
後ろ手にヘルメットを受け取る、総史郎は少し反省しながらも、帰りも乗せてやろうと決心した。
「あはは。でも帰りも乗りますよ?」
「乗りません!」
きっぱりと拒絶すると鋼は降りると、そのまま腰に力が入らずにぺたんと地面に座り込んだ。
「え?」
鋼の赤い顔が見る間もなく耳まで真っ赤になってしまった。
総史郎がくすくすと笑いながら手を差し出すと、それを掴んで即座に立ち上がった。
「……」
鋼は何事もなかったかのように装いながらも、顔を真っ赤にさせて服を叩いたり、きょろきょろとあたりを見回したりしている。少しずつ赤みが沈静化していった所を見計らい、総史郎は一言余計な事を言う。
「見なかったことにしてあげますよ」
にっこりと微笑むと、鋼の顔がもう一度カッと赤くなり力が抜けて突っ伏した。
数秒間そのまま鋼が戦慄いていたいたので、仕方なく総史郎は話を切り替える。
「で、その人はどこにいるんですか?」
ハンドルロックをかけながら聞くと、まだ少し紅い顔をした鋼がやっと顔を上げた。そこでやっと総史郎も降りる事ができた。
「詳しくは分かりません。ただ噂には聞きました」
なんて頼りのない情報源か。
総史郎は軽く溜息をついて歩き出した。それについていくように鋼も歩き出す。
「地道に聞き込みますか。おそらくそれが最短でしょう」
「そうですね」
この三六合区は都市といっていい。発展猛々しく、若者が集う街でもある。
背の高いビル群に、狭い空。アスファルトで固められた町並みに、この狭い国のどこにいたのかというほどの、人の群れ。総史朗の家からたった数キロメートルしか離れていないにも関わらず、まるで景色は変わっている。
そして流行が好きなこの国の民はみな、”流行のファッションと音楽”を装備している。この街はその流行の移り変わりが激しく、同時にここから流行が生まれているともいう。
「うるさい町ですね……」
鋼が何を思ったのか、感傷に浸っているような声で小さく口走る。それを聞き漏らしていなかった総史郎が肯く。
「ええ。これがこの国の最新の流行です」
鋼がふんと鼻を鳴らしてあたりを見回す。もう感傷は消えたらしい。
「こんな所に、本当に鋼が有るのでしょうか?」
「貴女が聞いてきたのでしょうが」
鋼がそうでした、と答える。
二人は完全に浮いていた。格好もそうだが、鋼は誰もが見惚れる顔を持つ。これで座漸も居たのなら、映画の撮影かと思うだろう。
だが誰もが遠巻きに見ているだけで、太刀を携えた二人には近寄らない。剣客に近寄らないのがこの国の一般人だ。近寄るのはバカと国外の観光客である。
「ねぇねぇ、彼女たちー! 暇なの? 遊ばない?」
と思っていたのだが頭の軽そうな、否大太刀が偽物だと思ったのか、男が一人総史郎と鋼の間に割り込み、馴れ馴れしく肩を組んできた。
その瞬間、総史郎は猛烈な吐き気と、全身に走った悪寒で、咄嗟に男を突き飛ばした。
ほぼ無意識に、本能な近いもので反応していた。
「近寄るな!」
手加減なしの当て身に、男は数歩分後ろにさがった。しかし腕で総史郎の反射攻撃を防いでいた。
「あ?」
その状況に男は威嚇の表情を作り、総史郎にもう一度歩み寄る。
「ンだテメェ?」
男は額に血管を浮かべて、腰のホルスターからナイフを抜いた。
「何様だ? なにカましてくれてんだよ?」
男のナイフは皮剥ぎナイフのようなだが、まるで悲鳴をデザインしたかのような形をしていてグロテスクだ。
「奇形、逆衛。貴方のような下衆にハガネは持ち腐れです」
刹那の間にして、鋼は大太刀、業賢を抜いていた。
辺りからは悲鳴が聞こえ、人が即座に散っていった。この国の一庶民はもう【果し合い法】に慣れている。
果し合い法。先代の国家最高権力者が定めた独自治安維持法。合意の者同士が戦い、最悪命を落とす果し合いを行う。それに伴い殺しの合法化が進み、更に銃火器以外の凶器の所持も合法化した。
この果し合いの中であれば、殺しも合法である。もし認めたのであれば、敗者の所有物全ての権利を奪う事も出来る。しかし死人に口無し、もし認めていなくても殺してしまえば、後は目撃者さえいなければ強奪や他殺も可能。それが抜け穴であり、法を作った者が望んだものだ。




