道場破り……12
「貴様ら、覚えとけよッ!」
まだ顔の赤い嘆外座漸が貸してやった布団に包まって、道場の隅で叫んでいる。狂犬の遠吠えから一変、負け犬の遠吠えへと変貌した。
思い出してまだ笑っている総史郎と、無表情を取り繕うように勤める赤い顔の鋼は、近づくと噛み付かれるので座漸からは離れている。
あの後。座漸は声を上げて泣き出してしまい、総史郎は慌てて脱げてしまった着流しを着せてやったのだが、その直後に総史郎にべそをかきながら切りかかったりと大変な騒ぎになった。
やっと静かになった道場破り二号は、貸してやった浴衣を着ている。着流しは襟が切れてしまったのだ。
「忘れることが、逆にできそうにないですが」
思い出してもう一度くすくすと笑う総史郎に、赤面した座漸が半べそで叫ぶ。
「忘れろ! 一刻も早く忘れ去れ!」
「どっちですか?」
眉根を寄せて総史郎が問うと、座漸は布団に顔を埋めてもう一度叫ぶ。
「うるさい!」
「そうだ。これは預かっておきますよ。未成年者の飲酒は禁止です」
座漸のひょうたんを手で軽く掲げて見せると、座漸は舌打ちして顔をそらす。
「勝手にしやがれ」
そして座漸は、ここはおれの領土だ。ちかんよんじゃねえぞ。と叫びながら布団に包まって、道場の隅で眠りだした。
さて自分も寝るかと立ち上がり、見た目も性格も冷静な道場破り一号を見ると、なんと器用なことか。彼女は正座のまま寝ていた。
やれやれと総史郎は鋼にも布団をかけてやり、夜中に二人が目を覚まして戦争を始めないようにと、道場で一晩を明かした。