道場破り……1
休日の昼下がりの雑踏が、だらだらと倦怠な騒めきと共に移動していた。
総史郎は興味本位でその流れを逆らい歩き出した。
間もなく聞こえてきたのは、耳を劈く鋭いつばぜり合いの音。
「これは、見事な腕前ですね」
鋭い太刀筋の往行。聞くだけでわかる、両者の腕前。
人ごみを抜けて、たどり着いた先に、総史郎の目的のものがあった。
真剣で切り合う二人。
方や黒尽くめの衣装と、刃渡りだけで五尺はあろうかという長大な斬馬刀を軽々振り回す少女。
方やどこにでも居そうな営業マンの衣装を着た中年の男性。手には極ありふれた刃渡り二尺五寸ほどの長剣。
両者見事な足さばきで適度な間合いを取り合いつつ、一瞬の合間に鋭く切り合う。
「見事な腕前です」
少女が艶やかな朱唇から、冬の夜のような静かな声を紡いだ。
それと同時にふるわれた少女の斬馬刀の一撃が、男性の長剣の鎬を大きく削った。
「なッ!」
男性の絶句は、今度は横なぎに払われた斬馬刀の一撃にかき消された。刀身は根元から折れ、刃先は雑居ビルの壁面へと突き刺さった。
「あなたの負けです」
男性は柄を取り落し、歯を食いしばり悔しげな吐息を漏らす。
「……参ったッ!」
男性は両手を体の横に置き、深くお辞儀した。少女も斬馬刀を肩から下げた鞘に戻して深くお辞儀した。
「己の刃に、恥じぬように生きる事です。それがあなたの刃をさらに歩ませる事でしょう」
少女はそう言ってくるりと踵を返すと、その場を去った。男性はその場に膝をついたまま動かなかった。
いいものが見れた。総史郎は少しだけ高揚した気持ちをもって、その場を離れた。