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 彼女は背中に蝶のような黒い翼があり、金の豪奢な仮面でわかりづらいが、目は白目の部分まで真っ黒。流れるような髪も艷やかな黒…。額からは二本の触覚が飛び出ている。黒いタイツのような服は豊満な胸と魅惑的な下半身を、必要最低限しか隠していない。高いヒールとムッチリした美脚を包む網タイツ…。スラムの大人な店でよくみるジョウオウサマって人に似てる…けど、その人よりひゃくばいも綺麗だ…だって…。


「…あら」


 なんていい香りなんだろう…!!頭の中が熱くなり、上手くモノを考えられない…。


「んふふふふ、可愛いワンちゃん…お鼻が効きすぎるのね♡」


 ごくり、と唾を飲み込む。


「…おおかみ…です…」


 何とか声を絞りだす。


「あら?ワンちゃんでいいわよね?だってアタシが言うんだもの…」

「ひゃい!!おれのころは犬畜生とれもおよびくだひゃい!」


 ついつい大人のお店からよく聞こえる言葉を叫んでしまう。


「…お、おい…?ロウどうした…?確かに綺麗なネェちゃんだが、お前そんなキツそうなやつが好きなのか…」


 ロッド困惑。


「んふふふふふふふふふ…」

「おい、お前ら、あまり遊ぶな、帰るぞ」

「はぁい。でもこの子可愛いわぁ♡…連れて帰りましょ、ねっ、ビートル」


 ズン、と、2mは有りそうな巨大な男がのっそりと顔をだす。彼は全身に鎧のような甲殻が生えていて、頭には一本の角が付いていた。しなだれ掛かる彼女を虫でも払うようにはねのけると、


「相変わらずお前は臭いな…あと、帰還用の魔法は三人までなの忘れたか?それより早く帰るぞ。ヘレリィック様のご命令だ」

「なっ!!臭いっですって!?ちょっと?!どういう…んぎゃっ!」

「やっべ!はよ帰んないと!ヘレリィック様に謹慎させられる!!つまり殺せなくなる!!」


 いつの間にか回復していたマンティスは、ちょっと!!何すんのよ!と騒ぐ彼女を問答無用で担ぎ上げると、スタコラさっさと逃げ出した。ビートルと言われた大男もそれに続く…。前に、ビートルは俺達の牢の鍵を開けた。


 今だ彼女の匂いに浸っている俺を憐れみの目で見下ろしたあと、番号の書かれた鍵を2つ投げ入れ、ロッドに声をかけた。


「出るかどうかはお前ら次第だ」


 まるで嵐のようだった…。呆然としていたロッドは、慌てて俺の顔をペチペチ叩いた。


「おい!!」

「…ん…はっ!!!い、今のは…」

「まったくデカイんだからしっかりしてくれよ…。で、この鍵、どうする?」


 恐らく、この首輪の鍵だと思うんだが…。そう言って、大きな鍵と小さな鍵を見せてくる。…番号が書かれているが、どっちがどっちのものかは見ればすぐにわかった。


「…勿論、使う」


 俺は、こんな所にずっと居るのは耐えられない。それに、三人の事が心配だ…。


「さっきの軍人は、応援を呼ぶって言っていた…もしかしたらすぐ捕まるかもしれない。それでもか?」

「…」


 少し迷ったけど、ロッドの目を見て力強く頷く。


「…あっ!でも、ロッドさんはどっちでも大丈夫っすよ!無理強いはしないんで!」

「勿論行くに決まってんだろ!…もうこれ以上仲間がどっかいくの見てるだけだなんて耐えられねぇし…」

「ロッドさん…」

「いや…俺が行ってなんの役にたつんだって話なんだけどな…」


 そう言って照れ臭そうに笑う。


「そんなことない!ロッドさんがいれば百人力っす!!俺が!!」

「へっへっへ…」


 嬉しそうに笑うロッドさん。俺とロッドは早速鍵で、首輪を外す…が。


「…」

「…」

「…そういやそんな気はしたんだよ!!!」


 ガックリと牢の床に膝を着く。

 首輪は取れたものの、今だ手足の拘束は外れない。2つは繋がっている為、結局牢からは動けないままだ。


「ビートルさぁん…なんてドジっ子…」

「お…おぅ…げ、元気だせ…」


 そう言って、親指を見せるロッド…ん?


「ロッ!ロッドさん!鎖!!」

「…っは!!」


 ロッドも言われるまで気づかなかったのか、手足をバタバタさせて慌てている…。ロッドさん曰く、舐められていたお陰で、首輪しか嵌められていなかったのだ。


「お、おりゃ…自由だ!!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねる姿に、懐かしいルイの姿がよぎる…。


「ロッドさん…小柄だし、ロッドさんだけなら脱獄できそう…俺は置い…」

「…ていけ。なんて言うなよ」


 ロッドは鋭い目でこちらを睨む。


「俺はどいつがその鎖の鍵を持ってるか知ってんだ!…何人も見送ってきたからな…。ここを出るときは必ずロウも一緒に、だ!!」

「…あ、ロッドさ…!!」


 鉄格子をくぐり抜けて、廊下を走っていくロッド…俺は彼を見送ることしかできなかった…。











 新入りの同室者に話したとおり、ロッドにはアテがあった。しかし廊下をひた走って角を曲がった直後、ロッドは何者かに首根っこを鷲掴みにされてしまった。軍人の手元にあるランタンに照らされる。

 久しぶりの灯りに眩しくて目を細めた。


「なんだ…コイツ…ここの魔人か…?」


(新入りよ…!!すまねぇ!!)


 ぷらーんぷらーん…と、その手に掴まれ揺れながら、ロッドは心の中で懺悔した。


「放っとけよ。どうせドサクサに紛れて逃げ出した鼠だ。大したことはできないだろ…それより、奴等を捕えるほうが重要だ」

「…それもそうだな」


(…おっ!このまま見逃してくれるか…?)


 ロッドはわずかに期待したが、それもすぐに打ち砕かれた。


「だけど、ここの魔人を捕まえたってのに、野放しにしたらサイン様怒るだろうな…仕方ない…ポッケにでもいれとくか…」

「…んなぁ!?」


 話の成り行きに驚愕する。必死にキーキー叫んで、両手を振り回しながら暴れた。


「なっ…こら、暴れんな…っいた!!」

「キー!よっしゃぁ!」


 運良く右手の爪で引っ掻く事ができた。俺の一番好きなことわざ、窮鼠猫を噛む!だ!どうだ!まいった…。


「…ギャアー!」

「くそっ!この野郎!ちょこまかと…」


 ズドンズドン!と遠慮なく降ってくる足を躱す。

 これだからデッカイ奴らは!!ちっこいのは全部踏み潰しちまえばいいと思ってやがる!


「俺は行かなきゃなんねぇんだ!!ロウの為に!!一緒にここを出る為に!!!」


 キーと威嚇しながら、自分を鼓舞するようにさけぶ。…そうだ、俺はやんなきゃいけねぇんだ…仲間に何も出来ないのはもう…。五年間俺は牢に閉じ込められていた。その間、五人の魔人を見送って来た。そいつらは、全員人間に殺意を抱えていて…誰も俺の話なんぞ真面目に聞いてくれなかった。ロウだけだ。ちっこいからって、馬鹿にせず、真面目に聞いてくれたのは…。


「…!おい!そっち行ったぞ…」

「…ロウ…?」


 軍人達の奥から声が聞こえた。


「ゆ…勇者様…」

「鼠、今、ロウ、言った?」


 軍人達を押しのけてやって来た少女に、思いっきり叫んだ。


「俺の名前は鼠じゃねぇ!鼠系魔人の、ロッド・チェシだ!!!」


 いつの間にか軍人からの攻撃が止んでいる…。

 少女はロッドに目線を合わせるように屈んだ。…それでもロッドは大分小さいが。


「チェシ、今、ロウ、言った?」

「…あぁ、言ったさ、それがなんだって言うんだ?」


 白い髪の少女は、ロッドを紫の目で強く見つめて言った。


「ボク、ロウ、助ける、チェシ、ロウへ、ボクを、案内、する」


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