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「ほ…ほんとにやるのか…?」

「勿論!」


 やる気まんまんのロッドを頭に乗っけてフードを被る。俺は居ないように見える…俺は…念じながら呼吸を整えて、目の前にあるベルをチリンチリン、と鳴らした。


 暫くして、ギィ…と開く扉。


「はい…なんでしょ…う?」


 メイドが顔をだして、部屋を見回す。しかし誰もいないのに首を捻って、メイドが鍵を閉める…前に、外へと滑り出る。そう、いつもは鍵が閉まっていて勝手に出れないのだ。


(何とか成功したが…)


 ゆったりお上品に歩いてるように見えるのに、足早に動くメイドに、音をたてないよう必死に着いていく。あんなに長いスカートを着ているのに、訓練された素早い動きで、複雑に入り組んだ廊下を迷いなく歩いていく。途中色んな部屋に入ったり、何か物を運んだりしていた。


 …と、曲がり角を彼女が曲がった。


「…っ!」

「…ん?」

「どうした?」

「いや、今何か当たったような…」


(…あっぶね…)


「何言ってんだ。何もいないぞ」


 俺にぶつかった使用人は首をひねりながら、そのままそこで話しだした。内容は仕事に関してらしいが、彼らの会話も聞こえないぐらい、俺はテンパっていた。


(早くどっか行ってくれ…!)


 あまりにも近いため、動いたらバレる。


「じゃあ、そういう事で、」

「おぉー分かった」


 彼が歩くときに、肩がぶつかりそうになったので、必要最低限の動きで避ける。


 驚いて声が出ないようにしっかりと口を塞いでいた手を、彼らがどっか行ったのを見届けてから解いた。このフードの効果は、姿を無くす訳ではなく、ましてや透明にしているわけでもない。


 ただ、『誰も認識できないように、あるいはそのように認識するのを妨げたり、改ざんする』だけだ。それは視覚情報に留まるので、耳や鼻、五感の鋭い動物、魔物、魔族、魔人なんかにはすぐにバレてしまうことだろう。それでも人間には凄まじい効果を齎すのだ。


 というか、今のでメイドを見失ってしまった…。


 こんなに歩いたんじゃ、もとの部屋もどこか分からない…。少し部屋を抜け出して、『勇者が意図的に隠している情報を知りたかった』だけなのに、これじゃあ失踪だと勘違いされる。


 焦りながら色んな角を曲がってみるが、曲がれば曲がるほど、ここがどこか分からなくなってくる。とうとう日が暮れだした。


(やべ…見失った…どしよ、ロッドさん…)

(お、俺に言われても…)


 廊下の隅でコソコソと話す。


「ねぇ」


(いざとなったら正体を明かすか…?)


「ねぇってば」


(いやでも、いくら勇者と親しい?からって俺のことをどれくらいの人が知ってるんだろう…)


「神と違って妾は2つ以上待たないぞ。いい加減こっちを向け、愚かな狼よ」


 頭で考えるより先に、押し殺された声音に、背筋がざわついた。


 ーーーポン、と肩に誰かの手がかかった。


 咄嗟に振り払いながら飛びず去って、後ろを向く。

 

「ーーーっ!?!?」

「ーーーはじめまして、私はゾンネ。こんにちは、貴方がロウ?」


(なんで…俺の名前を…?!というか見え…?!)


 金髪に赤い目の少女は、楽しそうに鈴を転がしたような声で嗤った。


「なぁんだ、面白そうかなって思って声をかけたのに、これじゃあ怯えて話にならないわ。狼なのは見た目だけかしら?臆病な羊ちゃん?」


 カールした肩までの金髪を弄びながら微笑みを浮かべる彼女に、俺は言いしれぬ不安を感じていた。

 見かけは10代にも届かないくらいの少女なのに、どこか老成した空気だ。


(さっきのは…なんだ?マンティスみたいな分かりやすい殺気とは違って、なんだかこうもっと…)


 陰気で、気持ちの悪い…。


「せぇっかく貴方が気になってるルイちゃんに関してのお話、持ってきてあげたのに、聞きたくないのぉ?」

「?!…なんでルイの事を!?ルイに何かしたのか!?」

「黙れ愚かな狼よ、質問したのは妾の方ぞ」

「ひっ…」


 幼い少女に睨みつけられただけだ…頭ではわかっているのに、体が防御の姿勢をとる。彼女はそれを見てにっこり嗤った。


「さあ、臆病な羊ちゃん、聞かないの?聞くの?どっちかしら」

「ル…ルイは…ルイは無事なのか…?」

「あら、そんなことでいいの?勿論無事よ、私があんな光る原石を、屑石に埋もれさせとくわけないじゃない。彼は今、私の保護下にいるわ」


 聞いてないが、彼の居場所まで臭わされる。


「ルイは…今どこに」

「ほら、あの子」


 つい、と、目に痛いほど真っ赤に塗られた爪が、俺の後ろを指した。振り返ると、一人のメイドがちょうど角を曲がってこちらに向かっていた。


「彼女はルイの部屋につけた使用人よ。ルイが嫌がるから、一人しか付けられなかったけど、そういえばもうすぐ夕食の時間ね」

「…っそれはどうい…」


 もう一度振り向いたとき、彼女ーーーゾンネは、最初からそこにいなかったかのように忽然と消えていた。


「なっ…どこに…」

「…あら?今誰か…」

「…っ!」


 咄嗟に口を噤む。…先程のメイドが直ぐ近くまで来ていた。

 暫くキョロキョロと見渡して、勘違いだと思ったのか、また歩き出した。


(…ロッドさん、俺、彼女に暫く付きます)

(…分かった)


 声を潜めた言葉に、何かを察してか、ロッドは言葉少なく、了承してくれた。早速歩き出したメイドに、足音忍ばせて着いていく。


 これじゃあ謎の少女、ゾンネの思惑通りな気もする…が、ルイが無事と聞いた今、どうしても、ルイと一度会って話がしたかった。


 今度は絶対に見失わないように、曲がり角ではメイドの近くにできるだけ寄った。メイドは芳しい香りのする部屋に立ち寄ると、ワゴンを押して出てきた。


(あの銀のドームの下にはいつも料理が入ってるし、いよいよルイに夕食を持っていくんだろう…)


 やっと可愛い弟分と会えるので、楽しみ…とも何とも言えないけど、緊張しながらメイドに着いていく。


(ルイは…ルイは俺のことをどう思っているんだろう…。俺が魔人なのを隠していたのは、悪いと思っている。ルイは魔人に対して嫌悪を抱いていた…理由は分からないけど、きっと、俺のことをよく思っていないはず…許してもらわなくてもいい。ただ、俺が謝りたい)


 ギィ…と目の前の扉が開く。金の髪の少年…紛れもなく、俺の知っているルイが、俺の知らない高価な服に身を包んで、同じく高価な椅子に腰掛けて、こちらを見ていた…。


 しかしおかしい。


 ルイはどんな時も笑顔を絶やさない、人懐っこい性格の少年だ…険しい顔は、どんなことがあっても、自分の感情を置いてきたかのように見せなかったのに。

 カツカツ…と、メイドの方にやって来る。


「ル…ルイ様?」

「…」


 メイドも戸惑った様子で彼に語りかける。ルイはそんなメイドを素通りして、メイドの後ろの俺の右腕を…思いっきり捻った。


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