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 ピチチチ…どこからか鳥の鳴く声が聞こえた。


 俺は寝ぼけ眼を擦って、ソファから出た。


 毛布を直して持つと、寝室のドアをノックした。


「…ん」


 同じく眠そうに、のそのそと勇者が寝室から出てくる。


「…はよ…」

「おぉーはよー…!?」


 ビシッ!!


 彼女の布一枚羽織っただけのような格好に固まる。そんな俺を気にした様子もなく、ペタペタと素足のまま、固まった俺を素通りしてリビングに出る彼女に、思わず叫んだ。


「なっ!昨日言っただろ!」


 咄嗟に毛布で真っ赤になった顔を隠した。


「…?」


「頼むからちゃんと服着て!!」


 あれから…牢からでて3日経った。けどなんだかんだでまだここに居座っている。


 なんとか彼女を説き伏せたあと、食事室の扉を開ける。そこには既に使用人の方々がずらあっと整列していた。


 俺と勇者がリビングから出てきたのを認めると、廊下の扉が開き、静々と朝食の乗ったワゴンをメイドさんが運んできてくれる。


 いつものことながら、とても美味そうだ…。スラム育ちで、ここ五年はマトモな食事をほとんどしてなかった。その為最初は戸惑ったけど、すぐ慣れた。


「ロウ!おはよう!」

「ロッドさん!」


 朝食のワゴンの上に乗っかって、一足先に朝食のチーズを囓っていたロッドが、ぴょん、とテーブルの上に飛び乗った。その時もチーズを離さないものだから、ポロポロと食べかすが落ちるのを、メイドさん達が無表情で見つめる。


 ロッドさんと最初にあった時、ガリガリと言わないまでも、長い牢獄生活を思わせるほどには痩せていたのに、ここに来てからはすっかりお肌も髪も艶々で、自称三十代には、元々の無邪気さも相まってますます見えなくなってきた…勿論若くなってるってことな。


「あぁ!食べかす溢れてる!ロッドさんって、ほんとガキっすね!」


 憤慨して言うと、ロッドも同じく憤慨して


「失礼な!鼠魔人は人間の暦の8年でハタチなんだぞ!十三年生きた俺は立派な三十代だ!」

「!?えぇ!?」


 明かされる、衝撃の事実…ロッドさんと俺、一つしか変わらない…。


 なんだ、ガキみたいじゃなくて、ガキじゃん!ロッドさんのほうが一応歳上っすけど…。


 何だと?!そもそも鼠魔人の成人は人間の暦で六年…つまり十六歳で…これでも俺は…。


 ぎゃあぎゃあと朝っぱらから元気に喧嘩を始める俺達を尻目に、恐らく一番年下であろう彼女は、さっさと席に座っていた。


「…はぁ…ウマかった…」

「…」


 ロッドは返事も出来ないほどかきこんでいたので、居間のテーブルに顔を突っ込んだまま、何とか首を縦に振っていた。


 勇者は朝食を食べ終えると、どこからともなく現れる、俺らを案内してくれた軍人に連れ出されてしまう。俺らが彼女に会えるのは朝食、そして日が沈んでから日が昇るまでとなる。ここは聖なる国…宗教国家と名高いため、闇の領域の一部が溢れだすと言われる時間帯、夜の活動を禁止している。彼女は勇者なのでより夜の活動を控えているのだろう。


「…暇だなぁ…」

「…うん…」


 こうなると、俺らには何もやることが無い。動ける場所が限られているし、何より遊べるような物も、熱中できるような仕事も何もない。


「……なぁ、そういえば、それ何なんだ?」

「え?」

「それ、勇者さまから渡されてたやつ。なんでそんな必死になって直したんだ?」


 そう言って指さされたのが…魔人マンティスに背中から切られたとき、失くしたと思っていたフードだった。勇者が持っていてくれて、初日に渡された。血は洗ってくれたのか付いてなくて、綺麗に洗われていた。

それから2日間、慣れない裁縫をして、必死に背中の傷を繕った。その部分は明らかに初心者と分かる拙い縫い目だったが、それでも初めて繕ったものなので、俺にはそんなこと気にならないくらい満足だ…。


 まぁともかく、その、椅子に畳んで置いてある、必死に繕った、フードのことを指しているのだろう。


「…このフード、亡くなった俺の恩師に貰ったものなんだ」

「…そっか、大事なものなんだな…」

「…あぁ」


 俺が先生のことをどう思っているか伝わったのだろう。まるで自分のことのように、悲しそうな顔をしてくれた。


 なんだか微妙な空気になったので、話題を変える。


「…その恩師も魔人で、実はこのフード、ただのフードじゃないんよ?」

「魔人?ただのフードじゃない?」


 興味津々と言った様子で聞き返される。


 たっぷり興味を惹かせるよう勿体ぶって言った。


「…そう、実はこのフード、凄いんだ」

「…ごく…」

「恩師が言うにはなんとこれ、認識阻害の幻術がかかっているんだよ…」


 愕然と見つめるロッドに、ドヤ顔でへっへっへ…と、悪い顔をして笑う。


「げんじゅつ…?ってなんだ?」


 ガクーッ!!


 期待していたのとは違う反応に落胆したが、気を取り直して、説明した。


「魔物や魔人が使う魔法(マジック)、貴族や教会の使う奇術(ミラクル)…ってのとは別に、幻術(ファントム)っていう魔法より奇術より凄いのがあって、太古に失われてしまったって言われている…けど。稀に、こういう幻術のかかったアーティファクトと呼ばれるものが街に出回っていると都市伝説のように言われてて、先生はそれを調べる専門の人とも関わっているくらい、凄い人だったんだよ!」

「なんかよく分からないが凄そうだな!」


 漸くすごさが伝わったのか、目をキラキラとさせるロッドさんに向けて、ちっちっち、と指を振る。


「凄そうじゃなくて凄いんだ、これは、コツさえ掴めば、装着者の生気を吸って、別人を装うことができる。さらに…これはかなり疲れるんで奥の手なんだが、まるでそこに居ないかのように見せることもできるんだぜ!」


 自慢げに披露する。


「おーすげぇー!」

「あ、それ使っては、犯罪をしたことはないんでっせ?そういうの嫌がる人だったんで…まぁ、仲間にバレるのが嫌だからってのもあったけど…」

「なぁなぁ、使ってみせろよ!」

「まぁいいけど…」


 そう言って被る。


「…なんも変わんねぇぞ?」

「ちょっと待って…」


 ぐぐぐぐ…と、眉を寄せて念じる。俺はここに居ないように見える…俺はここに居ないように見える…。傍から見たら馬鹿みたいだろうが、しっかりイメージしないと長時間の使用は途中で効果が消えたり、短時間でも間違ったイメージで他人から見えてしまう。


「…?あれ」

「…」

「ロウ!!ロウ!?どこだ!?」


 解除…と、心の中で唱える。


「ロ…!?!???」


 困惑したように尻もちをつくロッドに、得意げに話す。


「これで今まで、俺が魔人じゃなくて普通の人間のように見せてきたからな、慣れたものだよ」

「…お、おぉ!すげぇ!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねるロッド。すると、何か思いついたのか手を叩いた。


「そうだ!!これさえあれば…」

「?」


 周りに誰か居るわけでも無いのに、声を潜めて言うロッド。


 ただでさえいつも聞き取りにくいので、少し身を屈めた。


「……どうだ?できるか?!」

「はぁ…まぁ、できるけど…」


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