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エピローグ

「ここに一つ、エネルギーを秘めた目玉がある。こいつをどうするか、選択肢は二つある。

 一つは、歴史を改竄し隠蔽された事実を露呈させて、お前は隻腕の人間として生きていくか。もう一つは、今のままを継続させて、五体満足で生きていくか。だが、記憶はいつまでも残っていく、さぁ、どっちだ?」

 どこだかわからない、五里霧中の空間の中、心地よい声が響いてくる。どうやら、問い掛けて来ているようだ。

 その質問内容を把握して、それが齎すメリットとデメリットを吟味し──迷わずに質問の答えを述べた。

「記憶が失われるのはやだよ。大事なものも忘れちゃうし。覚えていなくてもそんな辛い出来事を二回も経験するのは嫌だ。だから、辛い過去があったとしても、それを過去として僕は踏みしめていくよ」

「……カッコつけやがって」

 それは苦々しげに言い返してきた。

 こうして、全ての幕が完全に下りる。



 旧校舎の角から顔を覗かせて見ると、そこには背中を丸めて屈み込む佐慧の姿があった。

 気付かれないようにそっとその後ろに立つと、肩から手元を覗いてみる。土を弄くって、何かを埋めているらしい。

「……お墓、ですか?」

 遼太がそう声を掛けると、佐慧はゆっくりと振り向いて、驚いたような顔を作った。

「あら、佐貫君ご機嫌よう。そうねん、お墓……かな?」

 それから、恥ずかしそうに目を逸らす。

 遼太はそんな佐慧の横に立つと、座り込んでその墓とらしきものを観察してみた。

 恐らくは遺留品を埋めただけであろう地面の上に、細長く小さな石の板が刺さっている。酷く陳腐な墓だが、その飾り気の無さが、いかにも部長らしいというか。

「……今までのこと……忘れたいですか?」

 遼太はその墓を見据えたまま、訊ねてみる。

 思考時間であろう間は一瞬。

「……忘れるってのは、とっても残酷なことよん。大事な思い出なら、尚更。悲痛な出来事で失われたものを、憐れんで忘れたいと思うのは、そのことを大事にしている証拠。その悲しみで、人はまた一つ強くなっていく……って、ちょっと詩っぽくなっちゃったわねん」

「…………」

 遼太は右腕に視線を落とした。

 義手ではない。遼太の細胞で構成された、正真正銘生粋の、遼太の右腕。

 確かに、右腕が無くて見えてくる世界もあったかもしれない。どれだけの苦行が待ちわびていようと、それは必ず後に良い思い出として記憶に残る。

 だが、それはあくまで現在ではただの虚構に過ぎない。

 人間は今ある記憶に頼るしかない。だが、それを望んで捨てるなど、もってのほか。

「じゃぁ、私は帰るけど──」

「はい……」

「じゃあねん」

「さよなら……」

 佐慧の足音が遠ざかっていく。

 もう一度遼太はその墓に目を落とし、そこに刺さっている石の表面を凝視してみた。だが、何も文字らしきものは書かれていない。そこらへんにあった、石でも使ったのだろうか。

 それならそれで、また部長らしい。

 ふいに、背後で物音がした。

「あ……」

 いつも通りの癖で、パッと振り返ると、そこには旧校舎の陰から半身だけを見せている凛がいた。

 何故か遼太と視線がぶつかると、凛は旧校舎の陰に隠れようとしたが──すぐに、いそいそと遼太のもとへと寄ってきた。

 そんな不自然な行動を見せる凛に、下から見上げるようにして訊ねてみる。

「……何しに来たの?」

「え……な、何しにって……」

 途端に、しどろもどろになって、視線を泳がせる。そんな凛を見て、遼太は思わず鼻で少し笑ってしまった。

「ちょ……な、なんで笑うのっ!」

「だって、素直に言えばいいのにさ」

「なっ…………、べ、別にあんたに会いにきたってわけじゃないんだからねっ!」

 何故かムキになって言い返してくる凛を、遼太は不思議に思い、真正面から視線をぶつける。

「え? 部長の墓参りに来たんでしょ?」

「あ……そ、そうに決まってるでしょ……」

 そう遼太が言うと、凛は一気に声を小さくさせて、同意を示した。

 冬の頼りない日差しも一ヶ月経てば、温暖で快適を齎す日差しへと変わる。それと同じように、人だって強くなっていける。

 それが、過去を踏み台にして成り立っているのであれば、尚更思い出を大事にし、また今を楽しく過ごすべきだ。将来に希望をもつのも良い事だが、希望を持ちすぎず、今を見据えるのもまた大事。

 そして、それらの根幹となるのが、周囲の人との関係──信頼関係だ。

 遼太は隣に同じようにして膝を折り曲げて屈み込む凛の横顔を盗み見て、その髪から漏れるシャンプーの匂いに目を細める。

 宇宙から届く光は、今日も白く逞しい。



去年の十二月初頭から始めたこの物語は、今日三月初頭まで四ヶ月かけて長い連載にピリオドを打つことが出来ました!

どう考えても、この根性無しが達成できることではないのに……皆さん、サポート本当にありがとうございました!


ただ、まぁ、この物語の長さは異常ですね。

推定十七万字。文庫本400ページくらいでしょうか? このFc2小説でも二百ページを余裕で越しました; といわけで、このあとがきを読んでくれている方は本当に神様みたいな人です。なんか、時間を使わせてしまって、申し訳ないです><

途中からの急激な方針の変更により、姿勢の変化が酷かったんですが、大丈夫でしたでしょうか……。その辺りは反省しております。


そもそも、この物語は戦闘描写能力の上昇を目指して書き始めたものだったのです。

でも、途中からその設定の深さに自分で驚いてしまいまして──、どうせなら終わらせちまおう!というわけで、一気に加速!加速!

とりあえず、過去を振り返ることに悪いことは無いが、現実を見据えて、頑張っていけば、きっと素晴らしいものに出会える……という主張がどっかにあります。はい、スミマセン。人間同士の信頼、という面目に載せて謳ってるのでしょうか。

とりあえず、届いていればオッケーということで;

ちなみにエピローグは彼女にあのセリフを言わせたかったために存在します。

色々、回収しきれなかった伏線もありますが、それは想像でお任せします。グダグダですみません><


えぇ……最後に、この物語を読んで、このあとがきを読んでくれている方、否、活動する作家さんに応援と感謝を込めて──


ありがとうございましたぁっ!


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