プロローグ
今回は、学園ファンタジー(?)ということで、製作を開始しました。プロットも曖昧ですし、ちょっと前途多難ですが、完結まで行き着けるよう、どうか応援よろしくおねがいします!
それは突然訪れた。
佐貫遼太はいつも通り、学校から家への帰路を歩いていた。鞄を肩からぶら下げて学ランに灰色ベースの毛糸マフラー、手袋と防寒対策はバッチシである。そんな姿で彼は一人、寒々しい葉の無い木が植えられている歩道を、踏みしめるように歩いていた。
やがて前から、黒く無骨なコートを着た少女が歩いてきた。その華奢な少女とはそぐわないような、黒いコートを見て、遼太は首を傾げたが、声を掛けるでもなく隣を通り過ぎようとした。
だが。
「捕まえた……!」
彼女から見て左脇を通り抜けた刹那、右腕に衝撃が走った。痛みとは何かが違う、電撃的な衝動。それから断続的にその衝撃が起きた辺りで、痙攣がおき始めた。
突然の出来事に、遼太は驚き呆然とした。そして、すぐに我に返ると、その違和感が生じている右手を見下ろした──が。
そこに、右腕は存在しなかった。どくどくと無情にも鮮血がその切り口からあふれ出ている。
遼太は嘔吐を覚えた。それでも何とか理性を保ちつつ、元凶と思われるその少女の行方を追わんと後ろを振り向いた。少女はしてやったりといった表情で、遼太の右腕を掲げて人気の無い歩道を走っていた。
だが、そんなの流暢に追っていられるほど、遼太は屈強ではなかった。すぐに嘔吐と眩暈に負けてその場に蹲る。心臓が躍る音がいやにはっきりと聞こえる。
「── ……!」
出血量も眩暈も、遼太が人生で一度も体験したことの無いような酷さであったが、何故かその元凶となるべき痛みが全く感じられなかった。神経ごと削ぎ取られてしまったのだろうか。
だが、そんなことを考えていても、状況が快方に向かうわけでもなく、頭に掛かる霞みは濃さを増すだけである。
そんなとき、足跡が聞こえてきた。遼太は助けを乞うように顔を上げた。
そこには、ついしがた遼太の腕を奪った少女が佇んでいた。その表情には、なんとも言えぬ翳りが潜んでいるようだ。
「……あなた、もしかして<レッド>じゃないの?」
「れ……れっど……?」
鼠を捻り潰した時のような声で、遼太が応える。痛みは無いのだが、確実に下がっている自分の体温に死への恐怖を覚え、その不安が遼太の心の余裕を塗り潰しているのだ。
少女は困惑した表情を浮かべ、その手に握られている遼太の腕を見た。学ランの右腕部分がまだ纏わりついている。
少女は懐から、鋭いナイフの様な物を取り出すと、その学ランとその下のYシャツを削ぎ落とした。露になる遼太の肌色の右腕。
だが、そこに妙な光が浮かんでいた。白みを佩びた紫色の球体に見える。
「……何がどうなってるの?」
少女が呟く。だが、それを言いたいのは遼太だって同じ、というか、少しばかり説明してくれても、いや、それより先に僕を助けてくれ、と遼太は目まぐるしい思考を巡らせる。
「……ど、どうにかしてくれ……」
「え、あ、ごめんなさい」
少女はそう言うと、遼太の額を突いた。瞬く間に、遼太の意識が遠のいていく。
彼女は意識を失った遼太を一瞥すると、溜息をついた。
それからコートのポケットに手を伸ばし、携帯を取り、操作する。
「もしもし……うん、見つけた。でも違う、ただの人間だった……うん、とりあえず、治療をしてあげるけど……その前にちょっと気になることがあって……今からそっちに行くから。うん。じゃあね」
彼女は携帯を切ると、またコートのポケットにしまい、そして気を失っている遼太を見ると、少し遠い目になった。
「……」




