第31話 荒神 伊邪那美命
白い軍服の桃華は先頭にいた藍に発砲する。三発の弾丸を右肩、左側腹、左爪先それぞれに向けて。
右肩を避ければ左爪先を、かと言って咄嗟に利き腕で剣を抜けばその利き手を、逆の手なら右肩を、どう動いても一発は当たる所に撃ち込んできている。藍は一発ならと歯を食いしばり剣を抜きに行く。
ガツィィーーンッッ
一瞬早く何か大きい物が目の前に降ってきた。
「へぇぇ……倫也やるじゃん」
体を少し反らしながら桃華が呟く。
藍の前に大きな盾が突き刺さっていた。倫也が召喚したものだ。
「クロぉっ!ここは俺が止めるからみんな連れてさきいけぇっ!」
倫也がわざと大声を出す。
「そんな簡単にいかせっ!? ちっ……」
桃華は走り出す一向に弾丸の雨をと振り向くが止まらざるを得ない。
「足留めなら何とかなるもんだよ? ももちゃん」
倫也は弾丸ならぬ刃の弾幕を桃華の周りに並べる。
桃華はハンドガンを両手に構え倫也の左側部へとわまりこむように走り出す。倫也はその動きを追いつつクロ達が見えなくなるのを視界の端で確認すると刃の弾幕をしまい背中の天羽々斬を構え桃華に正対するように動き出す。
桃華は倫也の足元を狙い乱射する。間合いを簡単には詰めさせる気は無いようだ。倫也は後方へと飛びのき交わすが、追うように撃ち続ける桃華。互いの間合いは縮まらない。
このままなら時間は稼げそうだ。しかし、ももちゃんを無力化は出来ないな。それならと神気を倫也は足と目に収束する。そして一気に詰める!猛然と走り出す倫也に桃華は集中砲火を浴びせる。視力と機動力特化した倫也は全ての弾丸を見切り自分の間合いに動画を捉える!天羽々斬を今度は信じられない速さで右から左へと水平にふり抜く!堪らず桃華は倫也の足元へとダイブする。その際にナイフを自分のいた辺りへ一本突き刺す!
しまった!倫也は足を縫われると思ったが桃華の狙いは倫也ではなかった。
桃華は飛び込んだ勢いそのままに転がり受け身を取りながら天井を目がけ一本、ぐるりと倫也を中心に時計回りに回り込みもう一本床へ、更に回り込み止まった。そして自分の足元へもう一本ナイフを突き立てる。
『廻れ!封神陣ッ!』
桃華の声と共にナイフに囲まれた中心にいる倫也は神気を散らされ脱力し片膝をつく。
「ちょっ……ももちゃん冗談きっつ……」
桃華はゆっくり立ち上がると服を手で払ってから倫也の目の前に移動した。
「倫也くん、ももちゃん話があるのきいてくれる?」
小首をかしげる様は以前のももと同じだった。
―――禍津御霊 拠点三階層 昇降階段前
先程は倫也の独断ではあるが桃華を引き受けてくれたため残りのクロ、藍、秋津、イザナミは時間をかけずに進むことが出来た。
藍は落ち着かない様子でしばしば振り返りながらここまで来ていた。
「藍? なんで倫也が急にあんな行動に出たと思う〜?」
イザナミが少し意地悪な様子で藍に問う。しかし即答出来ないどころか答えに困る始末だ。溜息を吐きながらイザナミは藍の耳を引っ張る。
「よーく考えなさい!」
そう言われ頭に浮かんだのがこの階層に入る前の倫也との会話だ。藍は頭でわかっていても気持ちが言うことを聞かないなんて事がずっと続いている。その度に次こそはと気張るのだがどうにも上手くいっていない。
申し開きもない様子で言葉も出ない藍。下を向いていると額に何か当たり視線を上げるとイザナミの顔がすぐそこにあった。あまりの美しいさに藍は顔を赤らめながら飛び退き半歩下がる。
「全く。誰かさんの班は問題児が多いこと!」
クロがどこの班だろうねなんて言うものなのでイザナミが無言でクロを蹴り飛ばす。それを見て久しぶりに藍は笑った。
「私が来てから藍さん、初めて笑いましたね」
横で秋津がびっくりした顔をしている。藍は全く意識していなかっただろうが心から笑ったのはあの日以来この敵地の中が初めてだった。
「流石はイザナミ様だ。慈母神だもんね〜」
クロは聞こえないように呟いた。
「んでねぇ? 藍がそんなんだから倫也がももちゃんを足留めに入ったんだけどぉ。なんかももちゃん変だったよね〜呪いなんてあったのかな〜?」
そう言いながらクロは四階層へと歩き始めた。
『え?』
イザナミ、秋津、藍はどういう事? 一瞬止まる。
「あ、単純に今のももちゃん、呪いなんてあるように思えないだけ。天津国にいた時は確かに何かに縛られてるような気はしたけどぉ」
イザナミもそう言われてみれば桃華からはマガモノの類の気配は全くなかったように思う。なぜ……
改めて四人は四階層へと上がって行った。そこは広大な面積のガランドウになっていた。仕切りも何も無くただ広い空間になっている。一層目と大差ない作りだ。そしてそこには一人の白い狩衣を纏う男が立っていた。
「お待ちしておりましたよ。我らがイザナミ様」
「お前は禍津彦命!」
男の姿を視認すると間髪入れずに藍は風の神気を纏い飛び掛り双剣を突き立てる!
ぎぃぃぃぃーー……ンン……
余韻の残る金属音を残し刹那の静寂がその場を包む。
「くっくっくっ……あんたの相手は僕だと言ったろ? もう忘れてしまったのかい?」
大きい野太刀で藍の双剣を受けた少年は禍津彦命の前に立ちはだかる。
「禍魂っ!! 」
藍は邪魔をするなと鋭くこの少年を睨みつける。
「藍君。僕は君達を出迎えに来たんだ 。そう邪険にしないでくれよ」
そう言うと禍魂を呼ぶ。こちらへと一行に呼びかけ踵を返し、五階層へと案内をする。
「イザナミ様を迎えに? どういう事だ? クロ、俺が後ろに着く」
そう言って隊の殿を藍が、先頭をクロが歩き五階層へと進んで行った。
五階層へあがると正面に大きな扉が鎮座していた。その前を左右に別れ通路がある。通路は塔の外周に沿ってあるように見える。通路に囲われた塔の中心が玉座の間になっているようだ。
「この扉の向こうに、我らが禍津御霊の盟主たる主神がいらっしゃます。くれぐれも不敬なきようにお願い賜ります。」
禍津彦命はイザナミ一行に敬意を示し頭をたれ下がる。扉がゆっくりと軋む音をあげながら左右に開かれた。中へと進むと祭壇のように中央の最深部に階段がそびえる。その左脇に禍津姫こと魅桜が片膝をつき控えている。階段の手前で禍津彦命は足を止める。そして振り返りイザナミたちの方に直り声をかける。
「此度は禍津御霊御身への御尊顔を拝する旅、誠に大儀である」
そう言うとニヤリと口の端を吊り上げそうそう、供物をここへと左右の壁に配する部下に命じた。
一組の男女がイザナミたちの前に縛り上げられた状態で突き出された。その姿はどう見ても神族であるが顔が見えない。床に叩きつけられ意識を取り戻したのかその神族はおもむろに顔を上げた。
「ニニギ!? 木花咲耶姫!? 」
イザナミは神族の顔を確認するなり思わず声を上げた。
「い、イザナミ様ですか……? すいません力不足で……サクヤすら守れませんでした……」
ニニギが悔しそうに顔を歪めている。
「おやぁ? ご親戚ですかな? 禍津御霊御身を嗅ぎ回る輩なので捕らえて置いたのですが……いやはや、天津国の方だったのですか?」
わざとらしく言う禍津彦命は悦に浸る様に汚い目をサクヤに向けている。これにはイザナミも些か我慢ならない想いが芽生える。
『戯れもそこまでにせよ。禍津彦命よ。我をいつまで捨ておくつもりだ? 』
突然響く凛と通る声が頭上から鳴り響く。
「はっ。申し訳ございません。改めまして、御身の御尊顔を拝する事お許し頂きたく賜ります。皆の者、此方なる方こそ禍津御霊の主神、荒神 伊邪那美命様である!!」
―――続く
ラスボスキターー∠(゜Д゜)/イェーイ
でもね?まーだまだ終わらないよ?ほら鬼はどうしたのかな?(・゜д゜`≡・゜д゜`)




