第26話 我にこそ真実はある
温羅と対峙する桃也も直ぐに相手が温羅だと理解することが出来た。一度も会ったことは無いのにだ。その直感を裏付けるに十分な根拠は代々吉備津家の当主に受け継がれる額当てにある。額当ての真ん中に埋め込まれた赤い宝石の様なものがある。これが温羅の瞳のようだ。先程から薄く光を放っている。温羅もこの額当てを見て吉備津だと判断したのだろう。
「その額当てにある僕の瞳を返してくれないかな? それと君の一族に恨みはあるけどそれまで固執はしてない。今の僕の目的は天津国を改変させることが目的だからね。イザナギや造化三神は本当に信用出来るか、考えたことはあるかい?」
温羅は含みのある言い方をしているが桃也は全く気にする様子は無い。
「温羅。あなたが何を言おうと過去に行った独断的な行動が多くの人間を苦しめた事で俺の御先祖に粛清された。あなたの言う改変はこんな戦を起こさずとも出来るのでは? 再び禍事を起こすなら俺はあなたを打ち倒す!!」
「何を信じるのか……それが違えば争いもやむなし。知らぬことが罪とは考えないのだね。吉備津は今も昔も変わらないようで……やはり、君には消えてもらおうかな」
「俺は今、この時に苦しむ神徒や神族の皆を放っておくつもりは無い!!」
桃也は大剣を振りかざしながら突進していく。その速さは大柄な桃也からは想像がつかない程であった。瞬き一つのの間に温羅の眼前に滑り込んだ。
「っはぁぁぁぁっっ!!」
温羅を目掛け振りかぶった大剣を振り下ろす。地面に大剣がめり込んだ衝撃で地響きと砂埃が舞い上がる。桃也はそのままもう一歩踏み込み横一線に大剣を左から右へと薙ぎ払うように振り抜いた。ガツンと途中何かに当たりはしたがまるで意に介した様子はない。砂埃が晴れるとそこには温羅では無く十字槍を縦に構える褐色の肌をした男と深い蒼の髪をたなびかせる女がいる。一連の流れを見ていた式と八雲、八重は桃也の傍による。
「隊長!! 温羅以外は俺達が!」
式は桃也に向かい声を掛ける。
「式! あの男は任せて! 槍なら私が相手するわ! 」
気合い十分に八雲が相手を指名するが十字槍の男はつまらなそうに頭を振る。
「一筋縄じゃ行かないか……皆、悪いけど協力してもらえるかな?一人じゃあ厳しそうだ」
温羅がそう言うと十字槍は頷き、蒼髪の女性も笑顔で答える。もう一人、温羅の横にいつの間にかいた、背の小さい女の子も温羅見上げながら頷く。この三人が裏の部下のようだ。全員頭には角が生えている。十字槍の男は大きく雄々しく鋭い角を二本。蒼髪の女性は一本額に 小さく鋭い角を。温羅の横の女の子は額に小さな可愛い二つのポコッとした角がそれぞれ生えている。全員が鬼なのだ。桃也達と温羅達はそれぞれ自分の相手を値踏みしながら眺める。
「うん。うん。皆相手は決まったかな? ポニーテールのお嬢ちゃんは岩鬼とかな? 他の二人はどうするのかな? あ、僕はもちろん吉備津が相手だよ?」
「分かっている。頭領の相手は取らないさ。私の相手はそこの短髪の爽やかな彼がいいかな? ちょうど獲物も私の好みだしね?」
蒼髪の女性は式を指名する。
「式お兄ちゃん? 浮気はダメだからね? ちゃんとお付き合いは断ってよね? 私はそしたら奥にいる娘かな? 年とか変わらなそうだし! お友達に慣れたりして!?」
八重は楽しそうに式をからかいながらも自分の相手を指さしてウインクする。
「やめてよ……あなたよりずっと若い。十代後半のBBA。同僚にお兄ちゃんとか痛すぎ。あ、拒否反応で湿疹が出た。ほら、見てよ温羅」
温羅の横の女の子が八重の言葉に抑揚のない声で反応した。八重はあははと苦笑いをするが心は穏やかではない。深く腰を落とし短剣を逆手に持ち構える。
「八重。悪い。俺もちょっと引くわ。この状況で妹設定はキツいわ」
左足を一歩前に出し半身に構えた式は八重にダメ出しをする。
「もういい! 改変するなら妹キャラ至上主義以外認めない!ムキーーッ!! やってやるんだからっ!!」
温羅がゆっくりと手を挙げる。腕が垂直に上がりきると、号令を掛けた。
「さ、僕達の理想の為に……共に礎となろう」
各々散開して行く。その場には温羅と桃也が残った。
「邪魔は入らないようにしたよ? 僕って粋だと思わない? ねぇ? 吉備津。そうだ! 当主君の名前を聞いておこうか?」
「吉備津 桃也だ。温羅。ここであなたを断つ!!」
「ふふふ。頼もしいね。さぁ始めようか!!」
互いの刃が何合も重なる。速さも力も互いに譲らない。文字通り火花を散らしている。桃也が上から大剣を振り下ろせば温羅は下からその大剣の腹を擦り上げ剣筋をズラしながら打ち上げる。まるで予め動きを把握したかのように一手、また一手とまるで舞のように温羅は桃也の大剣を躱して行く。
「うん。うん。桃也君は凄いなぁ。僕もかなり当時よりは強くなったんだけどね。強さなら初代の吉備津彦を超えているよ! だけど残念。足りないなぁ。そろそろ僕の力を見せよう!」
そう言うと温羅は桃也から少し離れる。そして、眼帯を外した。そこには紅い瞳が輝いていた。
「隻眼だと思ってた? そうだよね。眼帯してるものね。でもこれはね、僕の神気を隠すものなの。ほら、今は感じるでしょ?」
温羅からは禍々しい程の重苦しい神気が紅い血煙の様に溢れ出る。神気は視認する事は出来ないのだが温羅はその濃さ故に神気が具現化する程である。それはまるで神族の内から作る神気そのものだ。
「これは! 温羅、あなたは神族なのか!?」
桃也はこれ以上は勝機が見えなくなると思い今のうちと温羅に切りかかる。だがその大剣は温羅に片手で防がれてしまう。温羅の手は先程まで人のそれであったが今は鋭い爪が伸び、皮膚は赤褐色に変化している。何より両側の側頭部より前方に向かい湾曲した鋭い角が生えていた。先程までの温羅とは全くの別人の様だ。桃也は掴まれた剣を引き剥がそうと必死になるが温羅の手から外せない。それどころか力は強くなり続けているのか僅かにひび割れが走る。
「こんな力……どうして!?」
流石の桃也も焦りを隠せない。桃也の様子を観察する様に眺めていた温羅が話しかける。
「驚いたかな? これが僕の力。この角こそが神気の源なんだよ。ハンデとして教えてあげる。もしこの角を落とせればまだ勝機はあるかもしれないよ? 」
温羅は桃也の剣を離し、仕切り直しだと言わんばかりに桃也に背を向け距離をとる。戦いの最中に相手に背を向けるなど愚行以外のなんでもないが温羅にとっては桃也がそう気にするほどではないだけだ。桃也もこれには精神的に屈辱を受けた。それ程までに力の差がある事を見せつけられたのだ。
「この角はね、神角と言ってより多くの神気を生み出せる。鬼の一族はその強さ故に天津国を追われたのだからね。イザナギによって一族は追放されたのさ。そんな事が起こらない為に僕は、禍津御霊は天津国に改変をするのさ」
「そんな話……!!」
「聞いたこともない?」
温羅が桃也の言葉に被せ答えを言う。
「残念だけどそれが僕の言った『何を信じるのか』という事だよ。吉備津彦は全てを知りながら僕から全てを奪っていった。憎かったよ。悔しかったよ。だから、力こそ至上の国を作ろうとも思った。けど違う。神々のあり方を変えなければいけないと思ったのさ……。あぁ。僕の話ばかりでごめんね。桃也君そろそろ休みたい頃だろ?」
温羅がそう言った次の瞬間、少し離れたはずの温羅が桃也の目の前にいた。そして、その右腕は桃也の胸を貫通していた。
「お疲れ様。もう休んでいいよ。天津国は僕ら禍津御霊が生まれ変わらせるから」
桃也は力なく温羅に倒れ掛かる。虚ろな瞳は光を失い貫かれて穴の空いた胸を見つめている。腕を引き抜いた温羅は声高らかに広場全体に響く声で勝鬨を挙げる。
「吉備津 桃也は我が手により永き眠りについた!! 残された君たちはどうする!? 禍津御霊による改変を望むか!? それとも不変の今を望むか!? 真なる天津国を願うなら争いをやめ、我らと共に永劫なる安らぎをこの手に!!」
温羅は自身の言葉に悦に浸る。今、我らに正義はありと。今は禍事としてもいずれは理解されようと。
――続く
桃也ーーーーーーっ!!∑(´゜ω゜`;)
黄泉国大ピンチ!!いきなりピンチーーっ!?|゜Д゜)))
どうなるのこれ?_(꒪ཀ꒪」∠)_←お前が考えろ




