第19話 荒神の慟哭
唐突に現れた木花咲耶姫命により秋津は難を逃れた。
「木花咲耶姫命か。絶世の美女と聞いていたが……そうか君が。確かに美しいね。ただ化粧は控えめな方が僕は好みだなぁ」
温羅は倒しそびれた秋津には興味を失い、今はサクヤの方に注意が向いている。この隙に秋津はもう一つある柄杓を使い、捕縛人を展開する。
藍はマガモノが厄災となる前に確実に無力化する為の策を練る。倫也戦力は申し分内がここは撃破より、捕獲したいところ。マガモノが各地に出没していることと穢れが関連しているのであればその術式を解く為にこのマガモノにされた神徒が必要になるからだ。
「何とかしてこの神徒を大人しくさせたいところだな。しかし秋津は遅い……。ん? あれは……!?」
藍は今、秋津の周りに先程までいなかった二人の人物を確認した。
「クソッタレめ! 白い軍服は禍津御霊か!! それともう一人は……神族の人?誰だ!?」
サクヤは温羅に捕縛陣をきつく締める。
温羅は堪らず苦痛に顔を歪ませる。
「ククク……素晴らしい力だね。さすが神族。しかし、まだこれぐらいじゃねぇ?」
「そう?このまま耐えられると思ってる?無理しない方がいいよ?」
温羅の足元から木や蔦が伸びて温羅を飲み込んでいく。メキメキと音を立てながら急速に成長しながら花を咲かせていく。
「ぬぅ……力が抜けていく!? これ以上は……木花咲耶姫命と言ったか。この温羅、感服しました! 今はこの身を引くことにしよう」
そう言うと温羅は姿を消した。残されたのは『穢れ』に染った神徒だけだ。力はそうでもないが特異な能力によって捉えるのに苦戦している倫也たちだ。
「あ~。オジサンはいなくなったけど厄介なのがまだいるんだぁ~。ちょーだるいんですけどぉ~」
サクヤは神徒と組み合う藍と倫也の方の様子を見て気だるそうに呟いた。そのままそちらへ近づいていく。
「さ、サクヤ様!? そちらはまだ……」
秋津はサクヤが交戦中の所に無防備に近づこうとしているのを止めようとした。
「あ、へーき、へーき! あーし、こう見えても神様だし? 」
そう言って右手を高くサクヤは振り上げる。先ほどと同じく、マガモノの足元から木や蔦が生い茂り、神徒を捕らえる。
藍は目の前でいきなり草木が生い茂るのを見て後に飛び退く。
「これは!? あの女の子が!? 誰なんだ?」
藍は状況を整理しようと頭をフル回転させるが、先ほどまで捕えられなかったマガモノをいとも簡単に捕らえた女性が何者なのか答えが出なかった。
「藍!! この植物は!? あの女の子は誰なんだ?」
「倫也。俺だってすべて分かるわけじゃないって。全く同じだよ。何でこいつをこうも簡単に捕らえた上に、いきなり出てきたあの女の子は全く知らない」
倫也は女の子の方に向かって声を掛ける。
「誰か分からないけど助かりました!ありがとうございます! 秋津も怪我はないか~?」
先ほどまで攻めあぐねていた割に倫也はあっけらかんとしている。
「も~。倫也君はぁ~!サクヤ様に助けてもらったのに何であんなに軽いかなぁ~!」
秋津は少しだけ膨れた顔をするが心配してくれた事が嬉しい様で顔を赤くしている。
「あれぇ?あんた、あの男の子にホの字なわけぇ? あーしがいい感じになる様にしてあげよっか?」
「へつ!? いーです!いーです! そもそも倫也君なんて超鈍感な人を好きなわけない…もん」
秋津は慌てて否定するも顔は真っ赤に染まっている。
「あんた可愛いね! 名前は?」
「秋津です! よろしくお願いします!サクヤ様」
「よろー! そいじゃ、彼らの所に行こうか!」
サクヤと秋津は倫也たちのところに行き、倫也たちに事情を説明する。
「それでは、サクヤ様はご自分の神域で『穢れ』を感じてここに来たわけですか。先ほどまでいた禍津御霊の温羅?ですか。彼は一体何者でしょうか?」
藍は秋津の見に起こったことを聞いて温羅事が気になる様だ。
「さぁねぇ~。でも、『吉備津の末裔がいたら』って事は吉備津のやつに聞いたらわかるんじゃない?」
「吉備津? ももがいたらなんか分かったのかな?藍、ももは意識が戻ってるならイザナミ様に聞いてもらうか……」
サクヤと情報交換を兼ねて色々話をするが新たな禍津御霊のメンバーが明らかになった事は大きかった。
「サクヤ様、この捕らえた神徒はどうやって?あの植物に秘密があるのですか?」
秋津は倫也たちの攻撃が全く通用しなかったのにいとも簡単に捕らえた事が不思議だった。
「それは植物たちが神気を吸っていたからだね! エモいっしょ!?」
なるほど。神気を吸い取る事で能力も封じたという事か。全員が納得したがサクヤがいなかったらと思うとあのままではやられていたのは自分たちだと推測できた。
「そーいえば、あっちんは『穢れ』を取り除けるんだっけ? その神徒の『穢れ』でやってみてよ!?」
「は、はい!やってみます!」
あっちん?藍と倫也は聞き慣れない秋津の呼び名に顔を見合わせる。気にも留めない秋津は直ぐに浄化をする。黒い霧のようなものを体に纏う神徒からみるみるそれは取り除かれていった。
「やっば!! マジ、ゴイスー何だけど!! あっちん、ヤバくね!?」
サクヤは秋津の肩をバシバシ叩きながら興奮気味に騒ぐ。
「藍……サクヤ様って神族だよな? それも美人で有名な……」
藍は十人十色と言って倫也の肩を叩いた。
その後、気を失ったままの神徒を黄泉国へと運ぶ事にして倫也たちは一度帰還することになった。
サクヤは再度、浅間大社の神域を見て回るとその場に残る事になった。
――禍津国
「やーれ、やれ。酷い目にあったよォ。禍津彦様が第三部隊のひよっこなら余裕って言うからさぁ。おかげで浅間大社は取りこぼしちゃったよ?」
相変わらず飄々とした態度の温羅は帰還後、禍津彦の所に愚痴を言いに来ていた。
「育たぬうちに芽を詰めと言っただけだろ? 藍はもちろんだが油断ならぬのは都築の方だ。やつが力をつける前に排除したい。」
禍津彦は前回の倫也との戦闘で底知れぬ可能性を感じていた。
「はいはい。分かりましたよ! 次はほかの連中も誘うよ。あ、それと変な力持った女の子がいたよ? 秋津と言ったかな?『穢れ』を消しちゃうみたいだよ?まだまだ他の男の子たちに比べてひよ子さんだけどね~」
秋津?聞き覚えがあるような……禍津彦は何か引っかかる様子だが、温羅の方を向き直り次の指示をする。
「次だが、今回のマガモノで天津国と繋がる神域にキズを残すことが出来た。その綻びから奴らの境界に禍津国をねじ込む。さぁ、我らが神とともにあるべき場所へ帰還しようか!!」
高らかな笑いと共に号令を出す禍津彦。ニヤリと笑いを浮かべる温羅は一礼すると禍津彦の前をあとにした。
――続く
遂に禍津国に大きな動きが!|゜Д゜)))
どうなる倫也たち!そして、クロとイザナミ様はどこに?
まさかのデート?(ヾノ´°ω°)ナイナイ




