第15話 浄化の姫君
黄泉国 商業区。ここは黄泉国の中でも神族、神徒が生活基盤としている1つの街である。いつも変わらない黄昏の空の下、大きな街は時間帯は関係無く、買い物客や娯楽を目的とした人々で賑わっている。神庭宮から真っ直ぐに伸びるメインストリートには多くの店が軒を並べ特に多くの集客がある。週末ともなると露店商も多く並び、さらに多くの人々で賑わう。メインストリートを中心に東側と西側にも広く商業区は広がるが、遠くへ行くほど店も人も怪しい雰囲気になる。一番離れた所ではスラム街の様に荒れている所もある。
そんな一部の荒くれ者の神族や神徒の住む場所に
一人の女性が周囲の人を気にする様子もなく歩いている。
タンクトップにショートパンツ姿。ショートカットに整った顔をした小麦色の肌の女性は何かを探すようにキョロキョロしながら歩く。周りにいる人たちは彼女の姿を見て目で追う。それもそのはずだ。いくら神区とは言え、ここはスラム街のような場所。女性一人、まして肌を晒して歩く事など「声をかけてください」とアピールしているようなものだ。
暫く女性がウロウロしているとひとりの男性が声をかけてきた。
「お嬢さん、なにかお探しですか? ここはあまり治安がいいとは言えない所。早く帰った方が身のためですよ」
薄着でウロウロする女性を見かねたのかこの区域に住む男性は老婆心で声をかける。すると、女性はニコッと元気に笑いかけた。
「おじさん! 忠告ありがとうね! だけどそうもいかないんだぁ。ここにはね、あたしの仲間になる奴がいるみたいなんだ。どうしても見つけないと行けないんだ。知ってるかな? 神族の女の子で年齢は十四歳ぐらいで病気がちなこだと思うんだけど……心当たりない?」
女性は心配してくれた事にお礼を言うと探し人についての情報を聞いた。男性は少し考えたが心当たりはないと首を横に振る。またお礼を言うと再びさらに奥へと向かい歩き出した。その後も女性は何人かに聞いてみるものの、みんな一様に首を横に振る。さしもの女性も溜息をつく。
「はぁぁぁ。見つからないなぁ。帰っちゃおうかな〜」
もう飽きたと言った感じで口先を尖らせ道の端で座り込む。そこにまたもや男性が寄ってきて声を掛ける。
「お姉さん、一人で何してるの? 暇ならいいとこ行って気持ちよくならない?」
これはこれは。ナンパですか?相手を見てから声掛けなさいよ……そう思う女性はスルーしようとしたがハッとする。気持ちよくなる……?即座に女性は対応を変える。
「気持ちよくなれるの?それは場所でなの? 遊びでなの?」
「もちろん遊び! こんなずっと夕やけの空で景色なんて変化ないし面白くないでしょ?お姉さん! だからいいものがあるんだよねぇ~」
―いいものがあるね。間違いなさそう―
女性は心の中でそう思うと本来の探し人を探すのを一旦、やめてこの男性に付いていくことにした。
男について行くとボロボロの建物に着いた。平屋だがそこそこ大きい箱型の建物だ。男に続き中に入るとそこには広いホールのようになっている。中には五十人ほどの人がいて意味なく叫ぶ人や虚ろな目でしゃがみ込む人など、麻薬中毒の様な人が多くいた。
「お姉さんはどうするの? ハイな方? ローな方? 今ならハイな方なら安くしとくよ? 仕入先が最近多く回してくれんだよ!」
ニコニコする男。それと裏腹に機嫌が悪い様子の女性は周囲を見渡し深呼吸をする。奥に見えるステージに向かい女性は歩き出す。
「お姉さん! どこ行くの? 今日のステージはまだだよ!?」
ステージを睨みつけながら歩く女性に少しあわてて声を掛けるが女性は左手をヒラヒラさせながら大丈夫と言って去っていく。
―五十人か。あたしの捕縛陣でも大丈夫だろ―
状況確認した女性は周囲の人をすり抜けステージ上に立った。それに何人かは気付き、なんだ?何かやるのか?とステージに注目する。マイクを手に取り女性は息を深く吸い込む。
「ハロー! 皆さん。いきなりごめんね! あたし、今から皆さんを拘束します!! 反論や抵抗は認めない。速やかに投降しなさい!」
どよめくホール内。ステージには暴言を吐きながら女性を引きずり下ろそうとする輩が数人群がるがどうやっても彼女に近づけない。
「無駄なことはしなくてもいいよ? あぁ。そうか、ごめん。自己紹介してないからそりゃテンパるよね!」
そう言うと今度はマイクを投げ捨ててから大きく息をすう。そして、
「神庭宮所属、死神隊二番隊隊長、空井 織姫だ!! この場にいる人をあたしの権限で拘束する。罪状は薬物投与及び無断提供。逃げるのは無理だよ建物全体に捕縛陣を仕掛けた。大人しくその場に待機しろ」
織姫の名を聞いて全員が大人しく支持に従う。三十分ほどで神庭宮からの増援が到着しその場にいた人を神庭宮に連れていった。
「空井さん、お疲れ様です! 大漁ですね……ここまで広がっていたのですか」
援護に来た職員が織姫に声をかけた。
「別の用事できたんだけどなぁ。最近増えてきた神気を増幅させる薬が裏街で流行ってるって噂があったから変なのに付いていけばこれだよ。参ったなぁ。こりゃ、本命は出直しかな?」
職員は人探しを手伝うように申し出てくれたが織姫は断った。一人の方が相手が怖がったりしないからと。それを聞いた職員は代わりに薬物の出どころの情報が出たら真っ先に伝えますと言って帰っていった。
その後も探し人を求め織姫はさらに奥へと歩いていった。その途中、ここら辺に長いこと住んでいる女性が居ることを聞いて今はその女性の所へと向かっている。そこは今にも潰れそうな外観の酒場だ。
「お店はやってるのかな?」
店につくと織姫は躊躇なく足を踏み入れる。中は狭く、カウンター席が五席ほどだ。カウンターの奥にこの地区には似合わない整った清楚な服装の女性がいた。
「あ、お客さんごめんね! ちょうど今からなの準備するわね!」
そう言って部屋の奥に行こうとする店主の女性を織姫は引き止めた。
「あ、待って! 貴方ならこの辺のことが詳しいと聞いてきたんだ。人を探してるの」
立ち止まり女性
は聞いてきた。
「その人はどんな人なの?」
「女の子で常に病気がちで年は十四歳ぐらい。この辺に住んでるって聞いたんだけど名前とか分からなくて」
女性は織姫を一瞥すると少し訝しげに聞き返す。
「その子になんの用があるの? 見たところお役人の様だけど?」
織姫の今の格好からそんな事を思う人はまずいないだろうが女性は職業柄なのか、織姫から何かを感じ取ったのだろう。これには織姫も参ったなぁと頭を掻く。
「役人……ではあるか。ちょっと訳ありでね。その子にの病気と言うのが気になってさ」
「病気?確かにあの子はいつも体が動かないと嘆いているけど普段の生活にはなんの影響もないわよ?」
女性は病気が気になると言った織姫の言葉を不思議に思う。役人が来るほどの流行病では無いと思ったからだ。
「そう。多分病気じゃない。だから来たんだ。放っておけばもしかしたら病気より酷いことになるかも知れない」
一体なんの話なのかと、またも訝しげに顔を曇らす女性。
「そう。あの子に危害を加える様ならと思ったけどそういう事じゃないみたいね。秋津は家で面倒見てるわ。もし、連れて行くなら理由を教えてくれないと許可できないから」
織姫は分かったと頷いた。それを見た女性は奥から秋津と言う女の子を呼んだ。
「はい。ママさん。呼びましたか?」
綺麗な日本人形の様な和服の女の子がトコトコと歩いてきた。
「秋津。このお姉さん、秋津に会いたくて来たんだってさ。お話してあげな?」
秋津は織姫を見てわぁ。可愛い!と言って顔をキラキラさせる。織姫もヒラヒラと手を振る。
「お姉さん、私に用事ってなぁに?」
織姫を興味津々に見ながら質問する秋津。
「そうだね。隠し事や遠回しな言い方はお姉さん苦手だからそのまま聞くね?この裏街で嫌な事が起こると体の調子が悪くなるんだって聞いたけど本当?」
「ちょっと!! あんたそれはどこで聞いたの!?」
女性はいきなり織姫に勢いよくカウンターを手で叩きながら会話に割り込む。
「それは、流石に言えない。だけどイザナミ様に誓って変な事はしてない」
織姫がそう言うと女性はイザナミに誓っての言葉に渋々だが納得した。
「秋津ちゃん。本当ならあって欲しい人。いや、神様がいるの。本当の事を教えて?」
秋津は下を向きながら考えたが幼いながらも覚悟した瞳で織姫に伝える。
「神様にあったらあの嫌な気持ちや苦しいの無くなる!?」
やはり、この子で間違いない。織姫は確認が取れると秋津におねがいをする。
「それはお姉さんも分からないんだ。だけど秋津ちゃんが少しでもお姉さんを信用してくれるならその神様にどうしてそうなるのか聞いてみよう?」
腕を組みながら女性は二人のやりとりを見ていた。そして、秋津に話しかける。
「秋津。迷っているならこの人に着いていきな。ここにいたんじゃ変わるものも変わらないよ?それにこんな役人のくせに下々の人間を騙せないような人なら平気だと思うよ?」
優しく笑いながら秋津の背中を押す。
「でも……お店が……」
心配そうに秋津が言うと女性はやれやれと言った顔をして答える。
「子供が心配するな! 秋津と暮らす時に言ったろ? 私はあんたの母親になるって! 子供が親の心配するなんて百年早い!」
織姫も安心して女性にお礼を言う。
「ありがとうございます! えぇと……」
「ナミ……よ」
織姫はもう一度お礼を言う。
「ナミさん! ありがとうございます!」
その後、織姫は秋津を連れて神庭宮に向かっていった。別れの際に秋津は何度も振り返り行ってきますとナミに手を振った。
「秋津……私のナミって名前ね。イザナミ様にあやかって付けられたの。だからその娘の名前をとって秋津にしたのよ。もう、遠くて聞こえないでしょうけどね。……名前で久々に思い出したわ。子供の頃にいなくなった弟はどこいったのかしらね。神剣を使えれば英雄になれるって出かけたきり。イザも元気だといいけど……」
そう言うとナミは青い長い髪の毛を揺らしみせへともどっていった。
――神庭宮 庭園内 東屋
「ふむ。間違いないの。この子は『穢れ』はもちろん。他者の悪意のこもった神気を吸い寄せ吸収して浄化するようじゃの」
八十禍津日神は秋津の能力を分析していた。同席しているのはイザナミ、織姫、クロの三人だ。
「神様、もう起きても平気ですか?」
肌襦袢姿の秋津が恥ずかしそうにモジモジしている。そこに織姫が着物を羽織らせる。八十禍津日神は大丈夫じゃとにこりと笑いかけ、その場の全員に説明を始める。
「秋津の力は無意識に発動するようでの。裏街でのいざこざなどで発生した悪意を吸い込んだまま消化不良状態になっていたようじゃな。それでも時間を置けば浄化が進み体調は元に戻る様だが……秋津よ。訓練して己を御せればその辛さは無くなる。どうする?ここの一員となり己を鍛えるか?」
「そしたらお給料貰えるの?それならママさんにも美味しいもの食べたり綺麗な洋服を着たりできるかな?」
全員が幼い秋津の言葉に無言になるが織姫は秋津に寄り添い言葉をかける。
「秋津ちゃん。出来るよ。それにナミさんだけじゃないよ。秋津ちゃんも一緒に美味しいもの食べたり、お洒落もできるよ」
頭を撫でながら優しく織姫は笑う。
「ヤソ様。お伺いしたいのですが、もしや秋津の力が完全にコントロール出来ればももは……」
イザナミは八十禍津日神の返答に一縷の望みを込めて問う。
「あぁ。完全にももの呪は浄化できるじゃろう」
イザナミは胸をなでおろす。これでももが救われると。クロも今日はその事が気掛かりで大人しくしていたが安心したのかその場に座り込んだ。
「イザナミ様ぁ~。良かったねぇ~。これで一先ず一個問題が減ったよぉ」
そうねとイザナミはクロに笑いかける。
「じゃあ、秋津ちゃんの入隊が決まったところでナミさんに報告に行こうね! 秋津ちゃん、一旦帰って準備しよう」
秋津は笑顔で返事をして八十禍津日神、イザナミ、クロに丁寧にお辞儀をして一人着替えに行った。
「それにしてもあの様な子が何故裏街に……イザナミよ。お主は何も感じぬか?」
八十禍津日神はイザナミに心当たりがあるだろうと思っていた。
「いいえ。今でこそ、どこか懐かしい気はしますが……彼女は神族ではありませんし。特には」
織姫もクロも八十禍津日神が何を言おうとしているのか分からず首を傾げる。
「そうじゃの……神徒なのだがアレは神族の、神の力でな。その神の名は『速秋津比売神』と言う。瀬織津姫の流した穢れを受け止め浄化する神じゃ」
三人とも驚く。神の力は神族にしか使えないからである。神族は己の中で神気を作るが神徒はそれが出来ないので神の力の一部、神通力を主な力とする。
「そうか。速秋津比売神の力は特殊で他者のから神気を取り込むのが前提の力だから神徒でもその力が宿っても平気なのか!」
織姫はハッとなり理屈は理解した。クロもイザナミもその事は納得していた様だ。
「そうじゃな。織姫は隊長として優秀だが頭もキレるのぉ。天は二物を与えずと言うが織姫は二つも三つももっているのぉ……特にこの胸とおし……」
「い、い、い、いやぁっ!! えっちぃぃぃぃ!!」
どごっ……鈍い音と共に八十禍津日神はスローモーションでその場に平伏す。
「い、イイネ。世界狙えるアルヨ……」
八十禍津日神はキャラも体も崩壊して意識を失う。
「クロ。秋津は八十禍津日神は浄化出来ないかしら?」
「無理なんじゃないですかぁ?だって穢れそのものですよぉ?秋津ちゃんが吸いきれずパンクしちゃいますよ?」
溜息をつく二人の横で織姫が自分を抱き締めるようにして座り込みブツブツ言っている。
「男怖い、男怖い、男怖い、男怖い、男怖い……」
そこに秋津が帰ってきた。
「お着替え終わったよ! あれ? 織姫ちゃん? あれ? 神様?」
秋津は不思議そうに二人を眺めて首を傾げる。
「こういうのなんて言うだっけ? ……カオス?」
イザナミとクロは秋津を見て苦笑いする。
織姫の意識が戻った後にももの抜けた事もあって秋津は第三部隊への配属が決まる。能力の特殊さもあり、クロが秋津の指導員となった。
――続く
いやぁネタ切れかと思われた所、新キャラ投入して回避( *˙ω˙*)و グッ!
てゆーかまだネタあるけども……とりあえず15話の内容は迷ったけどこんな形で出来ましたw




