とりあえずのプロローグ
幽霊だとか妖怪だとかを信じなくなったのはいつからだろうか。少なくとも小学生の時の私は時々テレビで見る心霊番組を怖いもの見たさで見た時は間違いなく怖い夢を見ていたし、トイレに行く時は必ず親の名前を叫んでいた。特にきっかけがあるわけでもなく私の中で霊はいないもので、仮にあるとしても生涯見ることはないものだと思っていた。
そう…あの日までは…。
町外れにある街灯のない路地。近くに墓地もあることからその近辺は怖いもの知らずな学生どもの人気の肝試しスポットだった。
高校二年の夏休み。私は見知った仲間たちとその路地に集まっていた。
遡ること五日前…。
「なぁなぁ!今週の日曜暇か?」
彼は先ほど言った仲間のうちの一人で、いつも突拍子も無いことを言う上、さらに仕切りたがるそこそこの困ったちゃんだ。ただ、人柄というよりいつも気の抜けた表情と無邪気かつ天然なその性格ゆえ誰もどこか憎めない。ちなみに身長は異常に高い。周りからはトーテムポールちゃん。縮めてトールと呼ばれている。本名は権左衛門というなかなかパンチの効いた名前であったために、入学して一月はトールの話題でクラス中お祭り騒ぎだった。
「日曜だったら十四時から暇だよ?」
トールの紹介が長引いたため自己紹介は簡潔に済まそう。
私は稲田 源太。仲間内ではゲンマイと呼ばれている。理由は苗字と名前を見ればお察しである。以上。
「そっか!良かった〜。ゴンちゃんは?」
「んー。その日は三組のミキちゃんとデートだけどキャンセルする予定だし空いてるよ。」
「お前また別の女に手ぇ出したのかよ…もう三股くらいしてんじゃねぇの?」
「甘いなゲンマイ。八股だ!」
「八股!?かけすぎだろ!オロチみてぇになってんじゃねぇか!」
このゴンちゃんと呼ばれる女ったらしはまぁ分かってるだろうがイケメンである。過去に女関係のトラウマがあるせいで浮気になんの罪悪感も抱かない病にかかってしまっているが、それを除けば性格の良い完璧なイケメンである。ちなみにゴンちゃんと呼ばれているのはいたってシンプルで、小学校の時にキタキツネのゴンを読んだ時に教師が引くほどの号泣を晒してしまい、以降未だにゴンちゃんと呼ばれている。
「まぁよく分からないけどみんな暇みたいだしみんなで肝試しいかない?」
「肝試し?トールの事だからどうせ昨日やってた心霊番組に感化されたんだろ?分かりやすいのう」
「あれ?もしかしてゲンマイちゃんビビってるの?」
「………………あん?」
「仕方ないもんねー、お子ちゃまだもんねー、小学生の修学旅行のナイトハイクも嫌がりに嫌がった挙句咽び泣きながら先生と行ってたもんねぇ。」
前言撤回。こいつは内面ブサイクの畜生だ。
「おめぇこそおれんちに泊まったとき十分に一回のペースでお化けいるかどうかを聞いてきたじゃねぇか!」
「あぁん?あれから幾程の月日が流れたと思ってんだ腐れゲンマイこらぁ!それを言うなら七年前のなぁ……」
「それを言うなら九年前にあった……」
こんな感じで売り言葉に買い言葉の言い合いは決着付かぬまま三時間に及び、気がついた時にはトールは帰っていた。
そして置き手紙には「十六時駅前集合!」とだけ書かれていた。しばし手紙とのにらめっこを続けたあと、ゴンと一緒に帰った。