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ベビーカー症候群-シンドローム-  作者: 淡行コマイ
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3.ベビーカーはただの道具だとでも思ってた?

──息子は、何処へ消えた?

夜安は少年に掴みかかり、叫んだ。


「っざけんな!俺はあーたを何処へやったかって聞いてんだよ!」

「さっきベビーカーがあの男をぶっ飛ばしたのを見ただろ?」

「....何ワケ分かんねえ事言ってんだよ!あーたは何処だ!?」

「だから俺だって。分かんねえの?」


真っ黒な服を身に纏った姿。目線を少し上に向ければ、そこには少し赤みがかった茶色の髪。

死んだ妻譲りの、茶色の髪だ。


「....嘘、だろ」


確かにベビーカーがあの不審者を吹き飛ばした光景をこの目で見た。

暑さによる幻覚だと思いたいが、確かにこの目で見たのだ。


「....ベビーカーはただの道具だとでも思ってた?」

「は....」

「もしそう思ってんならね、父ちゃん。コレはそんなんじゃない。俺達子供を運ぶ為だけのモノなんかじゃ、ない。なあ父ちゃん。この意味、分かる?」


少年は夜安の目を真っ直ぐに見つめる。

漫画や映画に出てくる登場人物は凄い。すぐに状況を理解し、判断出来る。

自分には、そんなことは無理だ。

まるで他人事の様に、夜安は地面に滴り落ちる自分の汗を眺めていた。


(なんだよお前....オムツして、飯食って、寝かしつけして、いつも一緒に過ごしてきたお前が....突然、こんなデカくなったって?何言ってんだよ。分かんねえよ。)


「ベビーカーは俺達の、そして父ちゃんの命を守る為に存在するんだよ。

俺は父ちゃんを助けるために”ベビーカーシンドローム”を発動させたんだ。」


少年がそう言った瞬間のと同時に、背後から甲高く、嫌な声が聞こえてきた。

視線を戻せば、男は物凄い勢いでこちらに向かって走って来ている。

朝日は身体を光らせた。オーラは赤く、輝きを放つ。


「は....」

「いつまで腑抜けてんだよ?あんたが能力を発動しねえと、俺達死ぬよ?」


死ぬ──。その言葉の意味を夜安は誰よりも理解していた。


「俺は....今度こそ、家族を守れるのか...?」

「守れるさ。あんたが闘うのなら」


男はすぐそこまで来ている。心臓の音がうるさい。妻の記憶が蘇り、目の前の少年は笑う。

先程までの困惑は無かった。朝日の目を見て、拳を握り締めた。

何故だろうか、今は怖くない。


「さあ父ちゃん、アンタの出番だ!」


何処か楽しそうな息子の顔を見て、夜安の意識が鮮明になる。

呼吸も落ち着いた、汗も引いた、蝉の声はもう聞こえない。


(朝日を、守る!)


ただそれだけを考えベビーカーの持ち手に手を置き、全力で男に向かって走り出した。

足を踏み出したその瞬間、まるでバイクや車を思わせるような加速を感じた。


「イイね!最高に速え!」


朝日は楽しそうに敵を指差しながら飛び、叫ぶ!


「行くぞ父ちゃん!」


「「──第二形態!

        ローテ!」」


ベビーカーを持ったまま全速力で回転──。

ローテーションしながら走り、そのまま物凄いスピードで男に向かって進み始めた。

あり得ない速さでベビーカーは回り続け、段々と渦を巻く。

風を、木々を、砂を、全て巻き込んだ!


激しく回るベビーカーに吹き飛ばされないように叫ぶ!


「そのまま、消えろ────ッ!!」


例えるとそれは勢いのついたフリスビーの様に地面を走りながら回転した。


「ウ、ァア────ッ!!」


そしてそのまま、勢いをつけて男に突撃した。


「こ、ロぉ、?」

「あぁああ”ぁ────ッ!!」


聞いたことのないような鈍く、ごりい”っとした音が耳に響いた。


「ゴボォ、?コ、ろ、?」


男の口の中から大量の血が吐き出される。

それでも構わず、更に回転を速くし男の身体全体を巻き込む。

血の海の中で横たわる妻の姿が脳裏をよぎった。


「ああああああああああああああああああ────!!」


夜安は滲む視界の中ひたすら回転を続けた。

同時に男は再び遠くへと飛ばされ、地面に投げ飛ばされる。


(──俺は、今度こそ守れたのだろうか。)


数度だけ体を動かし、数秒後。まるで砂の様に一瞬にしてその場から消え去った。

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