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ベビーカー症候群-シンドローム-  作者: 淡行コマイ
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18.消え行く空間の中

「なっ!?」


シートが気が付いた頃には、そこに既に阿知の姿はなかった。


「どうやって逃げやがったッ!?シート!能力を解除しろッ!!」


そして少年の声によりベルトが解かれたその時!


「第一形態──、スピード!」

阿知が姿を現し、少年に蹴りを入れた!


「なっ、なんでッ....!?」

「第二形態──、ムーブ!」

そして続けて、光が少年の手からベルトを思い切り引く!


「触るなああああああああ」

するとそれはごとり、と鈍い音を鳴らした。


「ハッ!やっぱりな!父さんの言う通り!」

そこにあったのはベルトだけではなく、大きなチャイルドシートだった。


「....ッ!」

「キミは確か、交通事故でご両親を亡くしていた....もしかして、と思ってね....」

「だから....何がどう変わるんだよ....!?」

「ただのベルトではなく本体が付属するため....そう簡単には動けないはず....」

「こんだけ長く頑丈なベルトってことは、本体も相当重いだろォ?だからお前は拘束することばかりに専念して、あまり動かなかったんだよなァ?」

「だからッッ!!それで何が変わるんだよおおおおおッッ!!」


少年は発狂し、巨大なチャイルドシートを二人に向かって投げてきた!

まるで隕石のようなそれは、阿知達に襲い掛かる!


「「第一形態──、スピードッ!!」」


しかし二人は隕石の周りを囲み、超高速で走り抜けた!

黄色い閃光は段々と速さを増し、本体にヒビが入る!


「「行、けええええええええええええええええええええええ!!」」


二人の声が重なる。巨大なチャイルドシートは粉々になり、辺りに散らばった。


「う、そだろ....俺の....チャイルドシートが....ッ!!」

まるで雪のようにきらきらと光り、落ちて行く。


「....確かにキミにも、正義があるのかもしれない...」

「だけど、俺達はお前に勝った。それは事実だ」


シートは呆然としながら、散らばる破片を見つめる。

そしてそれの尖った部分を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。


「お前を....殺さないと....俺は、死ねねえ....!」

「アァ?テメェこの期に及んで何言って」

「光....待って....」


阿知は光の前に手を差し出し、そして少年に向けて一言、こう放った。


「刺して....くれ....」

「父さん!?」

「情けのつもりか....!!馬鹿に、しやがって....!!」

「僕は....キミを救えなかった....」


「う、わああああああああああああああああああああああああああ」


少年が叫ぶ。

光が驚愕の表情を見せ、阿知は目を閉じた。

そしてその脚に、鋭利な刃物が突き刺された──。


「「──第二形態、

      スペースッ!!」」


しかしその瞬間!風麻達が現れた!


「お前らッ!」

「ッ、風麻....!まだ、待ってくれ....!」


能力により、シートは亜空間によって引きずり込まれる。


「待たない!お前を、刺したんだぞ!」

「閉じろ!スペース!」


二が容赦なく亜空間を閉じたその時、小さな隙間から少年の顔が見えた。

そこには怒りや恨みの表情はなく、ただ、何もなかった。


「悪かった....助けて、やれなくて....」


消え行く空間の中、最後にひとつ、水滴が見えた。


こうして、少年は消えた。


阿知の血が着いた、チャイルドシートの欠片を握り締めたまま。

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