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これが俺のM騎士道  作者: 上野衣谷
第三章「魔の影とドラゴンちゃん」
14/20

第14話

 ギルドとなっている酒場には、それはもう沢山の人が詰め掛けていた。その多くは、冒険者。俺たちがここに初めて着いた時にもそれなりの数の冒険者がいたにはいたが、今はそれどころではないようだ。

 彼らの目的は、報酬。周りの話を聞くに、どうやら、ドルムント王国はすぐに動かせない大規模な騎士団の代わりとして、辺境地域に多くいる冒険者──それも、周辺各国も含めたいくつかの国に、モンスターの討伐のためとして、本格的に、サイグネ周辺のモンスターの領域を叩くという計画を発令したようであった。


「思ったより早かったなぁ。僕の予想では、後数か月かかると思っていたのに」


 ノラの感想。これには俺も同意だ。最初秘密裏に、俺のような新入り冒険者に、それもギルド経由で声をかけていたとは思えない程の大規模な招集。


「もう国民にも隠してはおけない緊急事態だと判断したようですよ」


 俺たちにそう話しかけてきたのは、どうやらギルドの職員のようだった。


「お待たせしてすみません、ドロリス様。お待ちしていました。どうやら、無事息の合う仲間が見つかったようで何よりです」


 あ! 思い出したぞ、この人、俺とノラにドロリスを紹介した職員じゃないか。いや、うん、感謝はしているが。


「……お陰様で。だけれど、もう、お金儲けどころではなくなったんじゃない?」


 ドロリスが皮肉を込めて返答する。


「お、お金儲けだなんて、そんな! 私どもはこのサイグネの村の平和をいつも最優先して考えていますし……それに、今回のモンスターの攻撃をしのぎ切れたのも、当ギルドの力あってのことですよ」

「へえ」


 ドロリスが流すように返答するものだから、職員もいたたまれないような様子だ。


「あぁ、そうだ、それで、ですね──そうでした? そのー、アルマネの村は……」


 職員がへこへこしつつ尋ねる。かつて騎士団に所属していた俺としては、ここサイグネの防衛に関わることでもあるのだし、先に国の軍へと報告したいものではあったが……サイグネの防衛に冒険者の力が必要なのも確かだろう。連携しているかもしれないし、細かいことには口を出さないことにした。何より、これからのことについては、ドロリスが主体となってやるべきだとも思ったからだ。


「どうもこうも──予想通り、それも、多分、最悪。先の攻撃で、この村が持ちこたえたことにさえ、私は驚いてるよ……」


 ドロリスの口から出るのは重苦しい言葉。職員も、思わず息を飲む。俺も、結局、詳細については聞いていなかったため、ドロリスの話には注目せざるを得なかった。


「国の動きが早かったのは救いだ。でも、まだ足りない。冒険者だけでなく、王直属の騎士団をすぐにでもこちらへと寄越すべきだ。時が経てば腕を持った冒険者も集まるだろうし、ドルムント以外の国々も、脅威を悟ってこちらへと兵を派遣するかもしれない……しかし、それは──他の国が危機感を覚えるのは、少なくとも、ドルムントの国土が人の領域ではなくなってからの話だ」

「一体どういうことなんだ?」

「魔王。間違いない、魔王の復活……いくつもの証拠がある。私の観測術による魔力の観測、ドラゴンの暴走、いや、ドラゴンだけじゃない、数多くのモンスターの暴走。これが魔王という存在のやることでなくて、一体なんだという?」


 ドロリスの目は真剣に職員を捉えていた。俺もノラも、その気迫に少し驚く。いつも無表情にやんわりしているドロリスが、声を荒げ気味に語る姿は、彼女の人々を守らなければいけないという思いの強さを伺うには十分過ぎた。

 ドロリスは、普段はあんなだが、強さに伴った責任のようなものでも持っているのだろうかと俺は考えるが、その答えは、ドロリスのみぞ知る……。今の俺から見れば、少し格好良くも思えた。そんなことを思っていたからか、ドロリスを見過ぎていたのだろうか、ドロリスが怪訝そうな顔で俺へと視線を移していたため、俺はどうにも居心地悪く、ふと、次のようなことを口にしてしまった。


「よし、この村を守るために、俺たちも頑張ろう」


 ノラもドロリスも少し間を置く。そして、ドロリスが、何かを含んだような顔つきで、返答した。


「……そうだな」




 至急行われた作業は、村の外、激戦地帯となった一帯の清浄化作業である。何故か、それにはとても大きな理由がある。まず一つ、今となっては役に立つか分からないが、一般にある程度の種類のモンスターたちは、人の血の匂いに反応して攻撃をしてくる者がいる。さて、その目的が何なのかについては、明確な答えは未だ不明であるが、これまでの経験からしてどうやらそういう種がいるのは確からしいのである。それが一つ。

 もう一つは、疫病の蔓延を防ぐこと。サイグネの村は、このとてつもなく大きな戦闘が行われた後であるが、まだまだ誰もがこの地を諦めようとはしていなかった。よって、この地で病気が流行るなんてことになってしまえば、モンスターの侵攻どうこうではなくこの地を諦めなければならない。この清浄化作業というのは、言ってみれば、サイグネの村を続ける意志の表れなのだ。

 さて、それと並行して行われなければならなかったのは、土塁や防壁といった防御施設の修復。さらには、破壊されたバリスタなどの要塞兵器の修復も急がれた。村の内部に侵入される前に、すべての敵を食い止めていたということから見て、先の戦いは俺たち人間側の大勝利と言えるだろう。その勝利は、人間の持つ知能にこそある。侵略するのに比べて、防衛というのは楽なのだ。それも、敵はモンスター。人と違って兵糧攻めをしてくる訳でもなければ、何かを狙って意図的に火を付けてくるという訳でもない。無論、中には火力による攻撃をするモンスターはいれども、それはあくまで自身の前を塞ぐ者を排除しようとしての本能的な行為に過ぎない。

 単調なのだ、奴らの攻撃は。歴史的事実がそう物語っているし、だからこそ、辺境の地にある国力の低い国でも、単発的に起きるモンスターの侵攻を防ぐことが出来ているのだ。攻撃が単調であれば単調であるほど、防御施設というのはより有効に機能する。

 俺たちは、今、そんな防御施設の中央の奥、砦にいた。全面には土塁がなんとか、付け焼き刃ながら修復され、急ごしらえの迎撃用魔法が一部の冒険者たちによって設置されている。ゴブリン程度の下級のモンスターならば、一撃で木端みじんに出来るだろうが、上級のモンスターには大きなダメージを与えることは難しいだろう。何より心元ないのは、単発で終わってしまうことにあった。


「……それで、ドロリスは防御の要、ってか」

「僕は文句ないけどね、それでお金が結構入ってくる、みたいだし。守りきれたら、の話だけど」


 ノラは、やっぱりというべきか、流石というべきか、こういう時でもしっかりと金のことは気にしているようであった。少し前に、僕は変わった、とかなんとか言っていたような気もするが、それでも信念はあくまで貫き通すということだろうか……? なんだか頭が痛い話だ。やめやめ。


「私がいないと、魔王は倒せない。村を、国を守れない……。いいのよ、別に、無理して一緒にいなくて」


 その言葉は、多分、俺に好意を寄せていたドロリスの言葉とは思えない程に冷たい、気がした。


「そんなこと言うなよ。それに──ほら、国の騎士団も来てるじゃないか、こうして」


 見張りを行っているのは、王直属の騎士団──かつての俺の居場所だったところ。他地域の国防の任もあるため、全軍を回しているという訳ではないが、第二波、第三波のモンスターの侵攻に備えて三割くらいは集っているのではなかろうかといった数。聞くところによると、モンスターからの攻勢がなければ、準備を整え次第、アルマネの村を奪還するための作戦に出るとか、なんとか。そうなれば一番好ましい結果と言える。

 まだまだ防御施設の修復が完全に終わった訳ではない。出来ることなら、俺は、モンスターなんて攻めてきて欲しくないと思っていた。俺は、今、この時ばかりは、モンスターと戦いたくないと思っていた。平和がいい、とそう思っていたのだ。

 これは、きっと、変えようのない事実で、俺は、大切な何かを見つけたように──いや、もしかしたら、失くしてしまったかのように、ただ、ただ、平和を願うばかりであった。

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