決意
昨日、あの女神が色々説明してきたことに関して私はただ悩むばかりで結論を出せずにいた。ようやく私に与えられた人類の救世主にあるまじき能力の謎は解けたものの・・・。
「はぁ・・・」
今は唯ため息をつくぐらいしかできなかった。
「・・・学校行こう」
そして私は考えるのをやめた。
「てめぇ!ぶち殺させれてぇのか!」
「だから話を聞いてってばー!」
逃げ足、又は火事場の馬鹿力とは凄まじいもので、先ほどまで怠くて仕方なかった身体のどこにこんな力があったのかと思える速度で廊下を疾走する。
今更だが私は追いかけられている。それはもう後ろにいる私と同じくらいの歳であろう少年はまるで私を殺めんばかりに目を血走らせている。
どうしてこうなったのか、実は私も良くわからない。だけどこの事態を切り抜けるにはまず考えなければと思い再び先ほどの出来事を振り返る。
「はぁー・・・怠いよー」
とにかく昨日は色々あった所為で身体が言うことを聞かない。いっそのこと学校を休もうかと思ったが、転校して次の日に休むということをなんとなくやりたくなかったのでこうしてわざわざ学校に向かっている訳だが・・・。
「おい」
昨日はあのまま寝ちゃったけど・・・これからどうしよう・・・。
「おい」
いつまでも考えるのを後回しにしてても仕方がないし、いつかは真剣に考えなきゃいけない時が来るし・・・。
「おい!いつまでも無視しやがって!今ここでやるか!?」
「え!?す、すみません!少し考えてて!」
び、びっくりした!心臓飛び出るかと思った・・・。というかこの人誰?ってうわっ!凄いこっち睨んでる!私何にもやってないでしょ!というかこの状況・・・なんかデジャヴを感じる・・・。
「・・・まあ良い、俺の名はジェット・バックス。エアリス・スチュワート、俺と勝負しろ!」
「・・・はい?」
え、勝負?どういうことなの・・・。もう昨日といい今日といい私の思考回路はショート寸前だよ・・・。
「おい、何か返事をしろ」
「えーと・・・なんでまた勝負を私に?」
「転校生である貴様の実力を見極めたいからだ」
「・・・どういうこと?」
素直に疑問で返したけど、これはどうやら失敗らしい。彼の方に顔を向けると、眉間の皺を更に寄せて益々不機嫌そうな表情へと変わっていた。
「貴様、さてはこの俺を挑発しているようだな?・・・良い度胸だ」
そう言い彼は右手に握りこぶしを作り始めた。え、ちょっと待って・・・。
「ぶっ倒してやる!覚悟しやがれ!」
そう言い勢い良くこちらへ飛びかかってくる、私がとれる行動は・・・」
「三十六計逃げるに如かず!」
戦略的撤退あるのみ!このまま戦っても私の実力じゃ到底敵わないだろうしね。
「待ちやがれ!」
って速い!やばいやばい!
「待ってお願い!話を聞いて!」
「うるせぇ!ここまで来て!てめぇ!ぶち殺されてぇのか!」
「だから話を聞いてってばー!」
さっぱりわからん。
え、私何にも悪いことしてないでしょ、ララックの時みたいに秘密知っちゃったとかじゃないし・・・ってやばいやばい!距離が詰まってきてる!
「お願い話を聞いて!ほら、この通り私に敵意はないよ!」
イチかバチか振り返り両腕を広げてみるが・・・。
「殺すッ!」
ああ・・・・・。
「何をやっているお前ら!」
突然の大声にさしものジェットの足を止める。だ、誰だか知らないけど助かっ・・・ってこの声・・・エドワー・・・。
「エアリス、ジェット!エネルギーがあるのは大変良いことだ!ただ、廊下を走り回り暴れまわるのはちょっとやりすぎだなぁ・・・」
やっぱりぃぃぃ!
「二人とも校舎十五週!走り終わるまで俺がついててやるから安心しろ!」
「「はい!」」
「これからはあんな事するんじゃあないぞ、もしやったらこの倍は覚悟しとけ!」
まさか本当に十五週走らされるとわ・・・やばい、倒れそう。
「返事は!」
「「は、はい・・・」」
「よろしい」
そう言いエドワード先生はようやく去っていった。ふう・・・これでようやく落ち着け・・・。
「おい」
っていやぁぁぁぁぁぁぁ!そういえばまだこいつがいたぁぁぁ!
「は、はい・・・」
「いや・・・悪かったな」
「・・・・!?」
え!?私の耳が確かだったら、こいつが謝った?
「じゃあな、だが忘れるなよ?必ず決着をつけてやるからな」
そう言い残し彼は急ぎ足で去っていった。残された私はというと、唯天を仰ぎ呆然とするしかなかった・・・。
部屋に戻り、いつもならこのまま眠りに落ちるところだが、今夜はそうゆう訳にもいかなかった。
「これからどうしよう・・・」
今人類は危機に陥っているのだ、一刻も早く行動を起こさなくてはくてはならない。私にできることはダンジョンを創ることしかできない。だが、ダンジョンを創っていくということは、人を殺め続けることと同義なのだ。それを考えた時、私のこの足が鈍ったのだ。いや、でも・・・。
「私がやらないと・・・」
この時私は、犠牲を払っても進むと、そう決心した。
それからの行動は速かった。速やかに学校を抜け出し、新たなダンジョンの元となる場所を探した。
「ここは・・・」
眼前に在るは街はずれのとっても小さな山。だが例え小さくとも、その雄々しく大地に屹立する様はダンジョンにするに相応しい。
「決めた」
ここが第二のダンジョンだ。前回とは違う、もう迷いはない。私は例え犠牲を払ってでも世界を救って見せる。
必ず、絶対に。