その身体に宿りしは
私はこの世界と元の世界は当然別のものだと思っていた。そうやってここまでやってきたし自分でも元の世界と区別できてたつもりだったんだけど・・・やっぱりできてなかったみたいで・・・。
それ程までにこの世界は私の常識を根底からひっくり返したのだ。
「まずこの世界の生死のことなんだけど、あの神父の言っていた通り三つあるのよ」
「あの、それってどうゆうことです?さっきもよく分からなかったんですけど」
「言葉通りの意味よ、死んでも生き返るのよ、しかも二回もね。まぁ貴女は〈不死〉の能力があるから関係ないけどね」
「・・・・・・」
唖然とした。死んでも生き返るというファンタジー世界にいかにもありそうなそんな設定。しかし実際それを突き付けられるといいようもない感情をふつふつと浮かんでくるのがわかった。
「ま、今すぐ慣れろってのも無理な話よね。焦らずこの世界に慣れていけばいいわ」
「そうですね」
私の今の心象を分かっていたのか女神は「さぁ」と手を叩き注意を向けさせた。
「ここまでの話は所詮前座よ。ここからが一番大事な、貴方の話」
「私の話?」
「ええそうよ、私もあの時は説明不足だったし、これを機に話しておくわ。次いつ会えるかわからないしね。」
そう言い彼女は右手を掲げるながら何か呪文のような言葉を口ずさんだ。次の瞬間彼女の右掌の上にディスプレイのような物が浮かんだ。その中には洞窟のような場所が映っていてスライムなどのモンスターがうじゃうじゃ沸いている。
「ここってもしかして・・・」
「その通り、貴女がその手で創ったダンジョンよ」
「やっぱり!」
「で、貴女にはこの能力の正しい使い方を知ってもらいたいの」
「・・・どうゆうこと?」
「それを説明するにはこの世界の説明に一回戻らないといけないわね」
そう言うと彼女は手元にあるディスプレイを消して話し始めた。
「この世界における人類は今窮地に陥っているの。というのも人類は魔族と対立してて今まで互角のところでなんとか乗り切ってたんだけど・・・ある事件が起こってその力関係が崩れちゃったのよ」
「事件って?」
「人類は代々魔族に対抗する為にグスタフ神、つまり私の加護を・・・」
「え!?」
「なにかおかしいこと言ったかしら?」
「あなた自分がグスタフ神だって・・・」
「そうだけど」
この女神があのグスタフ神・・・、ていうか教会にあった像と全然違うし・・・。神なんて実際どんな奴かなんて分からないねぇ・・・。
「・・・?まぁ良いわ、それより話を続けましょう」
「・・・そうですね」
彼女は気直しに咳払いを一つ二つ挟んで言葉を続けた。
「私の加護を与えるって言ったけど、実際私がこの世界に行く訳にもいかないしね、これに私の魔力を込めてこの世界の人類領に散りばめたのよ」
そう言い彼女は首にかけていた十字架を私に見せてきた。一見なんの変哲もない十字架だ、魔力が籠っているとはいえこれで魔族と互角に戦えるようになるものなのか・・・。
「でもこのある日、何者かによって盗まれた。一つも残らずね・・・。今も情報を集めているけど、さっぱり分からないの」
「え?でもそれならまた同じのを与えればいいんじゃないの?」
そんな私の言葉に彼女は分かり易く眉をひそめた。え?私不味いこと言った?
「いくら神でも魔力は有限なの。しかも私悲しいけど下級の神なのよねぇ・・・。人類が魔族と互角に戦える程の魔力を送ったり、貴女に能力をあげちゃったりでもうすっからかんって訳」
「それで能力を持ってる人間に人類を救ってもらおうと・・・」
恐らく彼女にとっては能力を与える人間なんて誰でも良かったのだろうし、私が今ここにいることだって偶然でしかないのだろう。しかし私は嫌悪など抱いていないし寧ろ彼女に感謝している。死とはまさに眠っているようなものだから意識はない、よって苦しみはない。しかしそれは同時に苦しみでもある。死んでみて分かったんだ、あの世はないって・・・、だから死の先には無しかない。そんな無から私は救われたのだ。例えそこに善意がなく、目的の為に利用される為だったとしても・・・!
だから私はこの世界で使命があるというならば絶対に遂行するつもりだ。
「・・・大体は分かりました、この世界のこと」
「いいえ、まだ問題はあるの」
「え?」
まだ問題が?この上どんな問題が・・・。
「貴女が前いた世界のRPGというゲームで例えると分かり易いのだけれど、普通勇者は最初弱い。ならばどうするか、答えはLVを上げる、どうやって?」
「え?そりゃあ敵を倒して経験値を稼ぐんじゃないの・・・?」
「そう、でもね・・・、この世界には居ないのよ、その敵ってやつが」
「・・・え!?」
敵が居ない・・・?じゃあLV上げができないってこと?
「正確に言うと弱くて序盤に倒すような敵はいないけど後半で出会うような強い敵はうじゃうじゃいるわよ」
余計たちが悪かった!!
「さて、ここまで言えばわかったとは思うけど・・・」
「もしかして・・・《ダンジョンクリエイト》の使い方って・・・」
「そういうこと。要するにこっちが手ごろなダンジョンを創って経験値を稼いでもらう。そうして魔族に対抗できるだけの戦力をつける!だから私としては自分は強くなろうとせずにただただダンジョンを創っていったほうが良いと思ってね。わざわざこれを言うために来たの。まあ、自分のやり方ってもんがあるでしょうから、結局は貴女の好きなようにやりなさい」
「分かりました。わざわざありがとうございます」
「どういたしましてってもう時間ねそれじゃあ頑張ってね!」
そう言い残すと彼女はまるで元からそこに誰も居なかったかのように跡形もなく消えてしまった。
そして残された私はと言うと・・・。
「寝よう」
今は唯、泥のように眠ろう。
たった一言、そう消え入るように呟き意識を手放した。
次は・・・・・少し遅くなります。すみませんと君