それは希望か絶望か
「ここが例のダンジョンね」
「そうね・・・」
やはりというかなんというか、案内されたそこは私がこの手で創ったダンジョンに間違いなかった。
「ねぇ、別の所にしない?」
とっても嫌という訳じゃないんだけどほら、あるじゃん?日常生活でも自分が作った物ってなんだか自分で使いたくないじゃん。要するにそういうこと。
「他の所?そんなのあったらこっちが教えてほしいわ」
「え?そんなのそこらへんに・・・」
「ないわよそんなの、だから新しくダンジョンができて大騒ぎになってるんじゃないの」
どうゆうこと?こんなファンタジーな世界のことだからダンジョンやら魑魅魍魎がうじゃうじゃいるものだとばかり思っていたけど・・・。そういえばこの世界に来て野生のモンスターなんて一回しか見かけてないな。
・・・もしかしてこの世界、ダンジョンやモンスターの類が極めて少ないとか?
だとすればこの現状にも納得いくけど・・・。
「ほら、変なこと言ってないでさっさと行くわよ」
「う、うん」
ララックに急かされたので、急遽思案の世界から意識を放し、私はダンジョンに足を踏み入れた。
・・・そしてしばらくして思った、私って、本当に弱いんだなぁ・・・。
「ううぅ・・・・・」
何故だか凄く重い身体を起こし、目を開けると。
「どこ?ここ」
目の前には女神のような風貌をした大きな像が建っていて、その奥には十字架のようなものが掲げられている。先ほどまでいたダンジョンとは似ても似つかない雰囲気だ。
「お目覚めになりましたか・・・」
声のする方へ振り替えると、神父服に身を包んだいかにもダンディーな感じを漂わせた初老の男性がいた。同じような顔立ちなのに何故どっかの校長とこうまで差があるのだろうか・・・。
「あの、私は一体・・・」
「ああ、君はあのダンジョンで死にかけてね」
「・・・え!?」
っていうかこの神父今人が死にかけたということを平気で言ったよね!?それでも神父なの!?
「君、何回死んだんだい?」
「え・・・一回もないですけど・・・」
普通にそうだろうそりゃ、なんでこんな当然のことを。
「そうか、まだ3回残ってるのか・・・」
「・・・は?」
っと、つい毒ずいてしまった・・・けど本当にこいつなにいってんの?
「あの・・・それってどうゆうことですか?」
「・・・本当にわからないのかい?」
「え、ええ・・・」
・・・なにか不味いことをしてしまったのだろうか・・・って神父が凄いこっちを凝視してるやばいやばい!
「・・・貴女は、人の命という物をどう捉えていますか?」
「・・・え?」
この状況からこの質問、私が何か地雷を踏んだことは確定的に明らか。となるとどうする・・・ここからうまくやり過ごす?・・・いや、この世界の知識がない以上それはできないし、もはやそれは手遅れだろう。だとすればここは正直に話してみるのが一番かな?
「一度失えばもう取返しがつかないものだと、私はそう思っています」
「そうか・・・」
今までの流れからしてこの世界と元の世界の命の重さというものが違っているのは確実だ。だが私は敢えてこう言ったのだ。
「ここもそうだったら良かったのにねぇ・・・」
そう神父は言葉をこぼした。本人もそのことに気付くと、不意に苦笑いを零した。
「ここはね、命が三つあるんだよ・・・」
「え・・・・・?」
神父の口から放たれた言葉を、まだ私はよく理解できずにいた。命が三つって、それって残機みたいな感じってこと!?
「・・・君には何か人には言えない事情があるみたいだね」
「・・・!」
やっば・・・どうしよう。
「そんなに強張らないでも、別にどうしようって訳じゃないよ」
「・・・」
「まぁ、こんなこと言ってもすぐには信じてくれないか・・・でも」
そこで言葉を切り、私に背を向け扉に向かって歩き出した。代わりに右手の人差し指をぴんと立ててたった一言。
「グスタフ神様は、いつでも貴女のような迷える子羊の味方ですよ」
そう言い去っていった。取り残された私は・・・。
「帰ろう」
いきなりダンジョンに連れてかれて死にかけたり、この世界についていろいろ知ったりと、今日一日でだいぶ私の身体は悲鳴を上げている。今は早く帰って、泥のように眠りたい。
意識も朧な状態でよろよろと寮に着き自分の部屋に入るなり、私はル〇ン三世の如くベッドにダイブした。嗚呼、これでやっとゆっくり寝・・・。
「残念だけどまだよ」
「・・・!?」
あれ、この声どこかで・・・。
そんな疑念を抱きつつ振り向くと・・・。
「あ、貴女は・・・!」
そこにはなんとビックリ私を此処へと飛ばした女神が立っていた。
「何よ、その微妙な顔、此処に来るのに色々苦労したんだからね」
「は、はぁ、何でまた」
「貴女があまりにもじれったいから、私がわざわざ面倒な手続きをしてこっちにきたのよ」
・・・なんか散々な言われようだが、こうやって疑問をぶつけられる者が来たのは嬉しい。この世界をしるということではこれ以上の者はいないだろう。
「貴女の訊きたいことは大体分かってるわ、要するにこの世界のこと全てでしょ」
「・・・・・・・」
私は黙って頷いた。
すると女神は静かにこの世界のことを語り始めた。
私が長い長い間戦い続ける、その広い広い戦場の戦況を。