始動
「暇だ・・・」
今私は自室のベットの上で暇を謳歌している。知らない世界に来て何も知らないのに暇なんてありえないでしょ、と思うだろうが実際にこうなってみろ、何からすればいいのかわからなくなってきっと私みたいになるに決まっている。
「悩んでてもしかたがない!」
この世界で生き抜くと決めたじゃないか!ならば行動あるのみだ。現時点では二つの案が私の脳裏に浮かんでいる。
一つ、自分の能力を試してみる。《不死》を試すには死ぬしかないのでやめておくとして、《ダンジョンクリエイト》というのは気になる。いくらあの女神といえど全く役に立たない能力を寄越してくるとは考えにくい。
二つ、この世界について知識を集める。まだ私はこの世界の情報が少なすぎる。そもそもその為に一週間をもらったのだ。どちらから先にしようか・・・。
「決めた!《ダンジョンクリエイト》からにしよう!」
敵を知り己を知ればうんたらかんたらということわざにもあるどうり、まずは自分を知らねば。・・・というのは建前で、本当は私自身もこの能力が気になる。
「そうと決まれば善は急げよ!」
今のテンションを変えたくなかったので、とるものもとらず私は足早に部屋を出た。
「いい加減にしてよ!!」
「と、取り敢えず落ち着いて・・・」
「これが落ち着いていられないわ!」
「もー勘弁してー!」
どうしてこうなった。
少し時間を遡って数分前・・・。
「さて、どこへ行こうかな・・・」
《ダンジョンクリエイト》がどんな能力なのかは知らないが、ダンジョンとやらを創る能力ということはわかる。下手すると学校内にダンジョンを創ってしまう恐れがある。それだけは避けたいのでどこか適当な所を探しているのだが・・・。
「あれ?出口ってどこだったけ?」
そういえばどっちな行けばいいんだこれ、なんとなく歩いてきたけど、もしかしてまた迷子になっちゃった?・・・ん?
「クソがっ!!なんなのよ!」
「・・・?」
かわいい声にあるまじき暴言のする方向に目を向けると、そこには絶世といってもいいぐらいの少女が、少女にあるまじき顔をして怒鳴り散らしている姿があった。地団駄を踏みながら歩くという器用な真似をしているため歩くたびに肩ほどまである金髪が揺れている。
「・・・!!」
あれ?急に止まった・・・っていうかめっちゃこっち見てる!なんか顔真っ青になってるし、え?私なにかしたの?
「あ、あなた・・・」
なんか声が震えてるし、ていうかこっち来てる!
「・・・・」
無言で私の前まで近づくと今度はしたを向き黙ってしまった。どうしよう・・・声かけた方がいいのかな・・・。
「あ、あの・・・」
「み、見たわね・・・」
「え?」
「さっき私が怒鳴ってたのを・・・」
「ああ、それですか・・・」
「やっぱり見てたのね!わかってると思うけど、このことを学校の人間に言ったらタダじゃおかないからね!!」
「え?どうゆうことですかそれ・・・?」
誰だっていらついて怒鳴ってしまうことだってあるだろう。あんな少女だって人間なんだから例外ではないはずだ。
少女の方を見ると口をぽかんと開けたまま固まっていた。・・・あれ、私なんか不味いことしたかな・・・?
「あ、貴女・・・」
「え?」
「私をからかってるんでしょ!!」
「ええええええっ!」
「私の弱み握ったからって・・・!」
「な、なんのことだか・・・」
「いい加減にしてよ!」
「と、取り敢えず落ち着いて・・・」
「これが落ち着いていられないわ!」
「もー勘弁してー!」
今に至る。
「こうなったら貴女を殺して私も・・・」
や、やばいぞこれは・・・学校で浮くとかそうゆう問題じゃない!死ぬ!だってこいつ目がマジだもん!
「あ、ララックさん!何してるんですか?」
「・・・!!!」
人が来たのを確認するとさらに顔を青くして私から離れた。なにがなんだかわからないけど助かったぁ・・・。
「あ、いえ少しこの人が訊きたいことがあるって・・・ね?」
そういい私に向けられた顔は魔王も卒倒するのではと思うほど恐ろしいものだった。もう君が人類を救ってよ、私は二度目の世界を満喫したいからさ。
「あ、はいそうです」
「ふーん、そうなんだ」
「そうです」
「っといけない!そろそろ補習が始まっちゃう!じゃあねララックさん」
「ええ、それじゃあ」
そういい残し私の命の恩人は去っていった。どこの誰だか知らないけど本当にありがとう!
「・・・貴女」
「は、はい!」
「今まで見たことないと思ってたけど、ひょっとして転校生か何か?」
「あ、はいそうです来週からこの学校に通うことになっている、エアリス・スチュワートです」
そういうとララックと言われた少女は大きくため息をついた。
「さっきは悪いことしたわね」
「いえいえ、そんなことは」
「でも、このことを他の人間に言ったらタダじゃおかないからね・・・」
「は、はい」
おお、怖い怖い入学したらこの子と関わるのはやめた方が良さそうだ。
「じゃあね」
「あ!ちょっと待ってください!」
「・・・何?」
「この学校の出入り口ってどこですか?」
なんとかあの迷宮から脱出することに成功した私はまた新たな問題に直面していた。
「どこにダンジョン創ろう・・・」
町中につくる訳にもいかないし、かといって町の近くの草原にやる訳にもいかない、となると・・・。
「やっぱあの森しかないか・・・」
以前私が殺されかけたあの森、あそこはけっこう入り組んでいたし村から近いし小さいダンジョン程度なら・・・っていうか森の時点でダンジョンではないかと思ったが、エアリスは考えるのをやめた。
「そうと決まればレッツゴー!」
だんだんと降りてきている太陽に背を向けて、急ぎ足で出発した。
「これはこれは!」
現在私のテンションはウナギ昇りだ。なぜなら・・・。
「こんな洞窟があったなんて!」
なにせ洞窟といったら、周りに被害が出にくいし、見つかりにくいし、ダンジョンっぽいしの3点セット!こんなところを見つけるなんてやっぱり何か持ってる。
「大きさも問題ないし、それなりに深そうだし・・・」
直径は5メートルぐらいあるし、ちょっと入った感じだとだいぶ深くて初めてのダンジョンにしてはうってつけだ。
「それじゃあ行ってみよう!特殊スキル発動!《ダンジョンクリエイト》!」
いま世界は動き始めた。少女の手によって、長い長い人類の新たな軌跡が幕を開けたのだ。彼女は知らないだろう。これから始まる激動の人生を。これから始まる激動の世界を。