その少女の名は・・・
「・・・え?」
私は今絶句した。辺りの状況とかそうゆうんじゃなくて、自分に私は絶句していたのだ。
何を言っているのかわからないだろうが、今この私自身が一番驚いている。
実は私、この世界に来て自分の身体を見たことがなかったのだ。だから絶句するほど驚いていたのだ。つまり、何が言いたいのかというと!
「めっちゃ可愛い・・・」
人形みたいに整った顔立ちに、綺麗な黒髪ロングヘア―に紅くて少しキリッとした感じのつり目。こんなの10人中7、8人ぐらいは振り返るんじゃないかな?ちなみに前世のことは何一つ覚えていない、もちろん顔も。
転生だけじゃなくてこんな容姿もつけてくれたなんて、あの女神もいいとこあるじゃない!やったぁぁーー!
そんなことはどうでもいい。
どうしよう・・・。なんか知らない間にこの学校に入学させられてしまった。そりゃあ、この世界のことを学べるし、生きる場所くれるっていうのは非常にうれしいのだけれど。
「私、この世界のこと本当に何も知らないのよね・・・」
知らない学校で浮き、孤立し、そして自殺!ダンジョンタワーと転生少女完!!
「ってなるかぁ!」
とにかく入学することになってしまったものは仕方がない。取り敢えず当面の目標はこの学校に馴染むこと。そしてこの世界が今どうなっているのか、人類がどうなっているのかを知ることだ。
「そう考えるとこの学校への入学はラッキーだったかもね」
いつまでも悶々としていても仕方がないので切り替えていく。
そうだよ、よく見てみればいいところじゃないか、ここは。こんな素性のわからない私の部屋なのに生活に必要なものは揃ってるし、学費は免除ときたもんだ。というか何故そこまでよくしてくれるのかはこの際どうでもいい。とにかくこの学校で生き抜いてやる!
コンコンッとふいに扉から甲高い音が響いた。
「失礼します」
出てきたのは先ほどの怪しいおっさんではなく執事服のようなものを着た初老の男性。もしかしなくても入学関係の話だろう。
「ついてきてください」
そう言うと踵を返して男性は歩きだした。私も言われるがままついて行く。
もう私は吹っ切れたぞ、何でも来い!
「やっと来たかい嬢ちゃん」
そこにはやはりあの似合わないハイカラな服にみを包んだあのおっさんがいた。なんだあの真っ赤でぶかぶかな服・・・決めた、これからあいつのあだ名はダルマだ。
「わかっているとは思うが、嬢ちゃんを呼び出した理由は、入学の件だ」
「わかってます」
ここまでは予想通りだ。さてここからどうなるか・・・正直いっていまのままではいくらなんでも条件が良すぎる、なにか追加条件があると見るのが妥当だろう。はてさて、なにがくることやら・・・。
「ならば話は早い」
そう言ってニコリと少々ウザい微笑みをかけると一旦言葉を区切って話し始めた。
「まず、入学の時期だけどいつがいいかね」
思いもよらない質問だった。そんなことなどとっくに決められていると思っていたのに。
「今すぐでも別に構いませんが、できれば一週間ほど時間をくれるとうれしいです」
なるべく入学の前にこの世界の知識を知っておきたい。そうでもしなければ本当にこの学校で浮くことになってしまう。
「うむ、わかった」
・・・・・・。え?
「それだけ・・・ですか?」
「それだけだが・・・」
てっきりこの後何かあると思っていたのだけれど・・・え、まじで?
「なにか条件とかは・・・」
「そんなものはない。強いていうなら・・・」
「強いていうなら?」
私は息を飲んでダルマの言葉を待った。
「この学校で楽しく生活することだ」
私はその発言に言葉を失った。
「そういえば」
呆然としたまま退室しようとした私をダルマが呼び止めた。
「嬢ちゃんの名前をまだどうするかきめてなかったな」
あっ・・・そういえばそうだ、名前などそれこそコミュニケーションに必須ではないか。それが私にはまだないのだ。どうするか・・・。
「儂が決めてもいいかね、嬢ちゃんの名前」
「・・・え?」
ダルマが私の名前を付ける・・・?別に人に名前をつけてもらうのはいいのだけれど、大丈夫かなぁ・・・変な名前を付けられたりしないだろうか。
「むむ、また失礼なことを考えおったな」
あらら、また心を読まれてしまった。このダルマには読心術でも備わっているのだろうか。
「まあええわい。実は会った時からちょいと考えておってな、もう決まっておるんじゃ。あ、由来はどうか聞かないでくれ」
会った時から入学させること決めて名前すら考えていたとは・・・。にしても名前なのに由来を訊くなとは・・・まぁ良いだろう。
「嬢ちゃんの名はエアリス、エアリス・スチュワート」
「エアリス・スチュワート・・・」
私に付けられた新しい名を口でなぞる。由来も意味も知らない、だけれど、この名前は悪くない・・・そう私は思うのだった。