第1話 *変われるキッカケ*
楽しんでもらえたら幸いです、統計学とか心理学とかそういった実在したデータの話とか そういう結果を踏まえつつ説得力ある小説に出来たらなと思っております。
目が覚めたのは、約2時間後だった。
窓から見える外の景色は、眩しいぐらいに太陽が照らしていた、いかにも田舎
と言わんばかりのほんの少しの道路と、沢山の畑と、そして所々に民家。
「都会住みたいなぁ…」
そんなボクは、宮崎県のそれなりの田舎のとある町で母親と母方の祖母と暮らしている。
「はぁ……」
結局、夢の続きは見れなかった。
でも、勇気づけられたのは確かである。
いつかあそこまではならなくとも、それなりの富と地位は手にしたい。
それがボクの目標ではあった。
でも結果はどうだろう?
今は、仕方なくコンビニのアルバイトをしている。
こんなんでいつか成功出来るんだろうか?
部屋にあるのは無数の啓発書。
それぞれの背表紙が視界に入る。
『7つの習慣で変わろう!』
『小遣い稼ぎ入門編』
『成功するメカニズム』
『駄目ならとっとと辞めちゃえ!』
『自分を見つける旅』
『失敗しない成功理論』
そんな本棚に手を伸ばし、
帯のついたひとつを取り出し表紙を眺める。
『駄目ならとっとと辞めちゃえ!』
その本の帯にはある魅力的な一言。
[100冊の啓発書読むよりこの1冊!]
本を数ページめくりながら、大きく書かれた文字を流し読みしながら、
その本の内容を頭の中に思い出す。
確かに良いことは書いてあったが、
結局ソレを活かせることは凡人には無理だということ。
いや……訂正しよう、ボクには無理だったということ。
小学校、そこそこ優秀。
中学校、やや落ちこぼれ。順位で言うと真ん中より少し後ろ。
高校、偏差値ギリギリの高校だったため更に落ちこぼれ。
専門学校、一部の科目ではクラスのトップの方。
しかし、逆もあった。
専門学校では卒業間近に気持ちに悩みが生じ、結果的に中退。
実はというと、高校半ばから軽度の鬱に悩まされていた。
感情の起伏が激しく、物事を流さないといけない時に
流せないボクの性格は、リアルはおろか、ネットですら
人付き合いがうまくいっていなかった。
マナーは人並み。
クリエイト分野ではそれなりの才能があるはず。
短所はそこがカバーする。
そう思ってはいたが、定職に就けていない今がある。
結局は全然駄目。
百人以上の趣味友やネット友達。
人として好きな人や尊敬できる人も様々出会ってきたが、
裏切られたというか、愛想尽かされたというか……。
気がつけば人並みに接してもらえなくなった。
そんな思い出の中で一番新しい記憶。
当時師匠と崇めていた趣味友の一人に
大事な提出物のチェックを頼んでいた時のことだ。
「オフ会の準備で忙しいから」と、
たった数分の作業さえ断られた。
二千文字未満の文章を見て意見を言って欲しい、
それだけのお願いだったのだが、その人は……
聞きいれてくれなかった。
なんて嫌な人だ……そう思い、
思わずため息が出そうになった時だった。
『そうやない!
感謝せぇー、感謝』
突如聞こえた声、凄く優しい声をしていた。
男の声っぽかった。
「はっ?誰?」
部屋を見渡すが声の主は見つからない。
『あんさんの気持ちは
痛いほど分かるで!だって……』
その後の言葉には流石にポカンとした。
『わしは、あんさん自身やから』
「へ……?……」
部屋は、シーンと音が聞こえそうなぐらい、一時的に静まり返った。
「いやいやいやいや! あり得ない、あり得ないから」
バカらしいと思った、心だか頭だかに直接入ってくる。
もしくは空耳を聞いているような感覚で
聞こえてくる声に返事をしていた。
『んじゃ言うで、その彼との知り合うキッカケは
SNSのファンメール的なものから、
何故ファンメールを送ろうかと思ったかは』
「え……」
言葉を言われると同時に沸々と思いだした。
『尊敬する人が尊敬する人……
じゃなかった尊敬する人の尊敬する……
あぁ……駄目やなぁ、まるっきり説明下手やもん。
やってられんなぁ』
「……はは……」
そう納得すると同時に虚無感がこみ上げてきた。
SNSで知り合った人が居て、
その紹介文関係でその人とコンタクトをとろうと思った。
その人は寛大な人で、
無名の自分にメールやチャットのやりとりをしてくれた。
「……はぁ……
(別にこの声の主が自分であろうとなかろうと
関係無い…ってかなんでその人は……)」
そして、負の感情に支配されそうになるが
見計らったように割って入る。
『まてまて、相手はんには感謝するんや!
えーと……せやなぁー…コレでどうや?』
「コレ?……」
何だろうと怪訝な顔になる。
何故感謝しないといけないのだ?
思い出すと憂鬱になる。 どちらかと言えば謝ってほしい。
そんな気持ちでいっぱいなのに、何故?
どう解釈して感謝に結び付けられるというのだ?
『【人づきあいはポイント】コレ教えてくれたの、
その師匠さんやろ?』
「ぁ……師匠さん……うん……」
その言葉に、寂しくなった。少しだけ
文字会話のやり取り※以後チャット
を思い出した。
師匠というのは一方的にボクが
その人を呼んでいた呼び名だった。
その人は本当に凄い人だった。
自分の1.5倍以上生きている人だなというのはあった。
当時ボクは、18歳。
ネットで知り合ったので本名も知らなければ、
実年齢も知らない。
ふと脳裏に浮かぶのは、メッセンジャーという
チャットソフトでの一対一の対話。
その人は言っていた。
以下、再現のチャットでのログ。
KD=その人の”仮”HN。
フクロウ=自分のHN。
(HN=ハンドルネーム ネット上の名前のこと。
ネットの住人にとっては第二の名前と言っても過言ではない。)
KD の発言:そうそう、フクロウ君一つ良いこと教えてあげる。
フクロウの発言:はい?良いこと……ですか?
KD の発言:そうそう、えっとね、
人付き合いはポイントってこと
フクロウの発言:ポ、ポイント……!?
KD の発言:うん。 一緒に居たり、楽しい会話を
する時やプレゼントをする時……
KD の発言:あ、この場合余りに過度なモノ与えると
逆効果やからね。(お返し面的意味とかで)
でまぁそのポイントは増え、
逆に、頼みごとをしたり、
困らせたりするとそれは減る。
フクロウの発言:ふむふむ……
KD の発言:そして、気をつけなきゃいけないのは、
そのポイントが-(マイナス)になった時
なんだけど。物凄く修復が難しくなる。
それを意識して付き合えば、少し人づきあいが
うまくなると思うよ。
フクロウの発言:分かりました。ありがとうございます。
流石、師匠分かりやすいですね。
KD の発言:じゃ、今日は、寝るね、また互いが暇なときに~♪
フクロウの発言:あ、はい、おやすみなさい。
そんな感じの1対1のチャット(文字対話)のやりとり。
『人付き合いはポイント』ということを教わった。
当時のボクは、いや、今の自分も
共感して、なるほどなぁ、とか、ありがたいと思った。
恋人とかそういう親しい仲でも
大抵上記の仕組みと合致している。
その師匠さんと自分は、ひょっとしたらその状態
(信頼ポイントが0以下状態)だったのかもしれない。
そんな状態になりかけていたのは
薄々分かってはいたが、認めてもらいたかった。
良い返事でも、悪い返事でも、答えがもらいたかった。
師匠の意見で頑張れそうな気がした。
そして、自分では、しつこくならないように間をあけて
何度か頼んでもその人の主催のオフ会が無事終わっても、
その人からは一言の返事もなかった。
しまいには無視されるようになっていた。
(それでも……)
『それでも?』
(嫌いになれないっかなぁ……)
『せかせかぁー、いいことやなぁー。 嫌いになれないかぁ……。
というか、元々その師匠さんのこと感謝しとるんやな。
まぁー、そんなあんさんは、案外簡単に人生成功した後、大物なれるんちゃう?』
「……うん、まぁ感謝はしてるけど」
駄目だ……流石自分自身?
思う事にすら勝手に会話に入ってくる。
(ん?今なんていった?簡単に……?)
言われたことが少し気にかかった。
「簡単に?……ボクもえーと……
夢で見たような会社の社長さんになれる!?」
『人に感謝する…
それは良いことやね……夢……?
あ、あれかぁ……。
なるほどなぁ……ンンッ、コホンッ』
咳払いをして話を続けた。
『ええか? ちょっと長ごうなるけど、はっきり言うで?』
「は、はい」
『この世界の恵まれた環境に産まれた以上、
科学的に無理なこと以外は、
何でも出来る。これは保障するで』
「恵まれた環境?」
『あ、えっとな、深い意味はないんやけどな。
教育受けとる、おまんま食べれる、
当たり前やけど、恵まれへん子供達に
比べとーたら当然幸せなことやん?』
「……お金持ちとか、そういうんじゃなくて?」
『アホか!! 罰当たりなこと言わん。
そもそも、銭あっても本当の幸せにはなれへんからな』
「え……」
『な、なんや、その疑いの眼差し』
「いや……お金を使えば幸せになれない?」
『銭じゃペットは飼えても、友達は買えんやろ。
ついでに、未成年がやると違法になる「援助交際」
…略して「援交」ってあるやろ?』
「あるね、自分が女性だtt……」
『わぁああああああーー!!
汚らわしいこと言うなや……はぁ……はぁ』
「な、なに!? 急に」
急に大声で止めに入ってきたからボクは驚いていた。
『え、ええか?「援交」した輩はほぼ例外なく、
後悔しとるんやで?
恵まれとる環境である以上、無限の可能性があるんや。
その可能性を潰すキッカケにもなるさかいな。
後悔してそれをバネに成功する輩もおるかもしれんけど…
…でも大概は心の傷取れんままやで?』
『下手しようモンなら、エイズや性病貰ろて、
えらい取り返しのつかんこともあるんや』
「……確かに……病気とかは嫌だね…
…不謹慎な発言ごめんなさい」
『わ、分かればええんよ。
後、性っちゅーモンも教えとくな』
「……はぁ……?」
『い、嫌な顔するなや。
あんさん、恋愛運ないさかい絶対覚えとかんと
あかんことやからな。
あ、後今さらやけど、わしからの教え、
かっこ、知識も含む、返しかっこは、
忘れんようメモ取ってな』
「はぁ……分かりました」
そう言われ、ボクは寝室から自分の部屋に移動する。
A5ぐらいの大きさの小さめのノートを広げ、
シャーペンを先っちょを当てた。
『おぉ、関心関心。
とりあえず、続けるさかいな。
学校で受けてる座学みたいな感覚で聞いてってな!
付き合って1ヶ月以内にエッチするような
カップルは長続きしないんや』
「はっ? えっ?な、何を言い出すの!?」
『ええから、ええから、解説するさかい、大事と思った所や、要点とか書いておき』
「はぁ……」
乗り気じゃないが、心の声は騒ぐとうるさかった。
だからボクは、ノートに記入し始めた。
『まず、エッチについてなんやが、
お互いのことよー知ってからやらんと、
早く冷めてしまうからな。
相手のこと大事思うなら、1ヶ月以上、
まぁ、2、3カ月は待つことやな、
そっちの方がロマンチックやし?』
「……」
『相手のことを大事思うならなおのこと
相手のことを理解せなあかん。
自分を理解してもらえるまで待つことが大事なんや』
「……本当かなぁ……」
『い、言うたな!?
じゃ、こういう結果で納得させてやろうやないか』
「ん? 何?」
『『出来ちゃった結婚したカップルのうち
およそ2組に1組は離婚をしている』どやっ!』
『どやっ!』といった先生の顔を想像する、端から見れば痛々しいかもしれないが
ちょっと愛くるしいかもしれない。
って……違う違う、今なんていった?2組に1組は離婚?
「……マジですか……」
『どうせやるなら、
結婚した後の初夜に一緒に空飛ぼ……』
「だぁああああーー!! ロマンチックかも
しれないけど、おっさんくさいこと言わない!
とりあえず、離婚の割合が高いと……なるほどなぁ……」
そう言えば、今の言葉、似たようなことを
どこかで聞いたことがある、どこだったかな?
『ところで、あんさん、統計データとか
あれば疑いっぽくても信じようと思わへん?』
「ん……おおよそ信じちゃうかな?
心理学に基づいてるならなおさら」
人づきあいが下手が故に、
ボクは啓発書の他に心理学も勉強していた。
といっても、その発端は通っていた専門学校がキッカケだったりもする。
人の心を読みたいという理由よりも、
人の悩みとかにうまく手を差し伸べればいいな
と思って勉強をしている。
『よし、じゃ、さっきのお金の話もついでに
言わしてもろうけど、宝くじで1000万円以上の
高額当選した人の10年後にアンケートを取って、
95%以上は宝くじなんて
買わなきゃ良かったなと後悔してるんやで』
言われたことを頭の中で想像して、それから反応する。
「へぇーー……え!なんで!?
当たった=得してるってことだよね?」
『そやねぇ、色んなことが起こるんやけど、
まず、金銭感覚が鈍ったりするわな。
逆に借金まみれになってしまう奴も少なくないらしいぞ。
まぁ、皆が皆そんなミスをしてしまう訳やない思うけど
急に昔の友達や仲が良い訳ではなかった。親族が近づいて来るってケースもあってな、
お金をせびられて、断ると、「ケチ」とか文句を言われ、
貸すと返ってけーへんかったり……
貸したもん返してもらえんって悪循環やん?
ま、詳しく知りとう思うんならwebに体験談とか
あるかもしれへんから見てみてみぃ』
「うーん、少し興味あるや。
そう言えば、金の貸し借りで縁が切れるって
言葉もあるよね」
『おー、それあったなー。
その言葉言使こうた方が伝わりやすかったかいな?
失態失態。はははっ』
そう言いつつも、相変わらず明るい
マイペースな調子で話しを続けている。
それから少し雑談は続いた。
にわかに信じがたいことも言われたが、
また改めて解説してくれると言ってくれた。
なんていうか、この人(声の主)はとっても面白い。
しょうもないことやためになること、
色んな事を話してくれる。
『とりあえず話を戻すなー?
恵まれた環境=飯食べれる、教育を受けとる、
それだけでも十分恵まれとるっちゅーことや!
後、今は昔より恵まれとるさかいな』
「え? 何が?」
『す、少しは自分で考えやぁ!』
「え……だって、貴方はボクの分身
みたいなものなんでしょ?」
『……あ、そか、わし、あんさん自身
ってあんさんに言うたなぁ
ってことはわしに聞くっちゅーことも
自分で考えるっちゅーことも同じこと
かもしれんへんな?』
「……?」
何を言っているのだろうと思った。
言ってることが変だ。何か隠してる?
そう考えようとしたが、所々感じるボクに似ている所
などを思うと…そんな訳ないかな?と思えた。
『えーと恵まれとるに関してやけど、
衣食住と、科学の発展の結晶の便利な道具やな。
スポーツ用具とか、商売道具とか、交通手段とか、
インターネットなどで得られる情報とかやな』
「……なるほど……」
当たり前だけど昔と比べると確かに恵まれていると思った。
『たとえ話になるんやけど、
現代に嫌気さして、
死にたい死にたいって嘆くやつがおったとして、
そいつと入れ替われるとしたなら、
昔の人は大金積んででも
入れ替わってくれと頼むやろうな』
「うーん……そう?…」
「せやろ?携帯とか、パソコンとかついでに言えば漫画や小説とか
ある意味そういうのがない生活って、一度便利や快適さを知った以上
多少なり依存してしまうやろう? ん……あんさんでいえば、パソコンで執筆とか」
「嗚呼、確かに…。
…自分は、最初小説は、手書きだったけど、といってもパソコン持ってなかったからだけど
パソコン使えるようになって、
パソコンでの文字入力がある程度早くなった時から、ずっと文章はパソコン使ってるね。」
『せやろ? それが故に、大金貰ろて入れ替われたとしてもやな、
1年も経たへんうちに、昔と替わったやつは、一度知ってしまった便利や快適さが原因で
現代が恋しくなるんやろうなぁ。
勿論、その時代で得るモンもあると思うで。
友達とか体験とかな。でもいつかは、現代におった
自分が懐かしゅーなって、いつか入れ替わったことを
後悔した日が来ると思うんよ。
大好きなテレビやゲームやアニメ、その他もろもろの環境、
昔と比べると恵まれとるもんや、だって、昔と比べると
金の使い道もその分増えてるさかいな』
「なるほど……」
本気で死にたいと思ったことは無いが、
生きているのが辛いと思ったことはボクにもあった。
しかし、息抜きとなる娯楽
(テレビやゲームやアニメ、小説や映画、漫画など)も
現代にはあった。
お金と引き換えに昔の人と入れ替わっても、
恐らく満たされない部分が出て逆にストレスになるんだろうな。
諦めに決着がつく日がくるかもだけど。
良い恋人とかが出来てとか
『そう言うたら都市伝説的意味で「兎は寂しいと死んじゃう」
って聞いたことあるかいな?』
「一応、でもトリビアの泉では、ガセ、つまり嘘って言ってたけど」
『いんや? 嘘やないで。
兎以外の動物にも言えることかもしれへんけど、
代表して兎を題材で話すで。
兎って草食やから食物連鎖の下の方のや。
そん代わり逃げ足は速いし、臆病やな』
「うん」
『せやから兎は、犬や猫と違ごうて、
懐くまで時間がかかるんよ』
「へぇ……」
『無理にスキンシップするとなストレスになってしまうよ。
せやから本当、2,3カ月かけて親しくなる感じでな?』
『でな、仲良くなれると一層愛着わくんやけど、
人に懐いた兎はなー、昔その逆がストレスやった事が
ストレスになってしまうよーなるんよ。分かるか?』
「うん? 遊んでもらえないことが当たり前だったけど、
遊んでもらうことが当たり前となり
逆に、遊んでもらえないことがストレスってこと?」
『そこでや、さっきの言葉『兎は寂しいと死んじゃう』や』
「懐いた兎に構わないってことだよね?」
『そやそや、そういう意味で出来た言葉やと
わし思うんよね「兎は寂しいと死んじゃう」は。
勿論慣れと、以前のスキンシップが
どんなもんやったかとかもあるやろうけどね?』
「えーっと?」
『スキンシップの時間が1時間か5分かみたいな
量的こととか……ぁ……また説明ぐだぐだに
なってきとるやん。えろうすんまへん』
「だ、大丈夫、言わんとせんことは伝わってるから続けて」
『さよか? ほな、続けるな。
心地ええ刺激覚えたり、した後に
それが出来ないっちゅーストレスって意味で…。
…えーとそやなぁ……
おっ、そうや!例えば煙草とかどうや?』
急に手をポンと叩いたかのような勢いで問われる。
「『どうや?』って言われても……」
『煙草知らへん人にとって
煙草吸わへんことは苦痛かいな?』
「んー、苦痛ではないね。」
『ほな、煙草吸とる人が
煙草を吸わへんのは苦痛かいな?』
「それは…自分は吸ったこと無いから分からないけど、
結構なストレスになるみたいだね。
禁煙って難しいらしいし…」
『兎にとってもそんな感じやな。
飼い主と遊ぶっちゅーことが楽しなってきとるのに、
急に遊んでもらえんようなったら……』
「それは、例えば、急にTVゲームを禁止になったとかって
意味でも近い?」
『うーん、どやろうな……まぁ、近い思うで。
TVゲームっちゅー楽しい時間、楽しい時間と知っとるのに
それ出来へんなら、ストレスに繋がりそうやろ?』
「なるほどなぁ……」
『まぁ、ゲームぐらいやたら他の娯楽
見つけるか慣れるかするやろうけど…。
でま、兎の話に戻すけど、ストレスなると
下痢とか消化不良おこして、死ぬっちゅーよりは
寿命が短こうなるみたいな感じやろね。
で結論的に「兎は寂しいと死んじゃう」間違いやないやろ?』
「人と遊ぶのが楽しい兎にとっちゃ
人と遊べないのがストレスかぁ……。
うん、なんとなくわかった。」
今言っていた内容を復唱して返事をした。
たまに説明がグダグダだけど総合的にこの人の話は面白い。
ふと……気づいたことがある。
何の話をしてここまで脱線したのだろう?
……
「あれぇ……」
思いだそうとするが、あれから20分以上経っている。
簡単に思いだせるはずが無かった。
『ん?どないした?質問かいな?
わしに答えられるモンなら答えるさかい』
頭を抱えるボクを不思議そうに見ているような声。
「う……ん」
思いつきそうにないのでとりあえず聞くことにした。
「えーっと……うまく言えないんだけど、
何の話してたっけ?」
『ん? 今は兎の話、
もしくはストレスの話をしとったけど?』
「いや……そのずっと前、何かが脱線して、
色々な話があってその話の一つが兎と
ストレスの話って訳で……」
『ん……少し待っててーな、話遡るさかい』
「遡る?……まぁ、待ってる」
そして、声は聞こえなくなった。
……
部屋には、物音や声が聞こえなくなった。
外は晴れている。雨音もない。
鳥の鳴き声なども無い。
不思議な感覚だ。
まるで世界にボクしかいない、または、時が止まっていて
ボクだけが動けているそんな世界を想像したら、
「っぷ」
ちょっとおもしろかった。
……
その数秒後どうしようもない小さな虚しさが
こみ上げたのは言うまでも無い。
あの声の主は、何故急に現れたんだろう?
もしかして幻聴だったのかな?
「おーい……帰ってきてる?」
『……』
返事は来ない。幻聴だったのかな?
そう思ったときだった。
数ページにわたり書き綴られた。
今まで自分が知らなかった雑学というか豆知識。
「ん……これも夢?」