表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/64

第5話 惚れ気

あれから、4日たった。金曜日。

今は数学の時間。

俺は今、目を光らせている。

いや、慣用句ではない。実際に発光しているらしい。


まずは、4日前の遅刻についてだが、


〜〜〜


俺が体育館に入った時、丁度俺の名前が呼ばれていた。


「滝、滝はいないか?いないな」


「います!いました!居続けました!」


「お前今の時間知ってるか?10秒遅刻ーーー!」


俺に無情な宣告をしながら振り向いた去年の担任の体育教師は、俺の方を見て言葉を止めた。


「お、お前、その格好どうした⁉︎」


言われて初めて自分の格好を見てみる。

腕がほぼ千切れた学ラン、アスファルトをぶち抜いた時に巻き上がったであろう砂煙りと礫によってボロボロになり、汚れた全身。

確かに何かあったようにしか見えない。

どうしよう、道を蹴りでぶっ壊したなんて言えない。


「すいません、言いたくありません」


「……そうか、戦ってたんだな。

……滝、お前ずっとそこに居たんだな?あー俺としたことが、生徒を見逃してしまうとは、失敬失敬、明日からは間違わないようにするよ」


体育教師は一瞬俺に向けて優しい笑みを向け、わざとらしい態度で言った。


いやいやいや、何を勘違いしたんですか⁉︎

何すかその「事情は分かったが職務上こうしないとな、ふっ」みたいなのは‼︎

俺が戦ってた相手は「遅刻」ですよ⁉︎

まぁ、ちょっと格好よかったし遅刻が無くなって嬉しいけどさ!


〜〜〜


と、まぁこんなとこか。


ちなみに途中見たデブは遅刻として朝会の間ずっと端っこで立たされていた。


それからは新しいクラスが発表され、俺は2年C組。光と結城は残念ながら隣のクラスで2年B組だった。

驚いたのはデブが同じクラスだったことか。


2日目以降は、妹が母を起こしたこともあり、遅刻することもなく生活出来た。

力も抑える事を意識していれば、そこそこ抑えられるようになった。

問題といえばある女子のことだろうか。


〜〜〜


1日目、彼女を見た時には鳥肌が立った。たまたまだった。

朝礼から帰ってきた俺は教室に入ろうとした時、彼女に当ってしまったのだ。


「あ、ごめん」


「よろしくてよ。次からは気をつけてちょうだい」


脳に沁み渡るような声、ハーフなのか1本1本がそれそのものが光を放つような金髪。もうね、一目惚れですよ。


クラスの男子は全員彼女に惚れていた。自己紹介では全員が彼女に注目した。中川財閥のお嬢様、中川なかがわ 桃李とうり


彼女には麻薬のような魅力があった。


しかし、彼女の周り常にファンがつきまとい、俺よりスペックが高い奴も多い。

普通なら俺は近づけないだろう。



……普通ならな。


しかし、俺にはチートがある。

《鑑定眼》は「思考」も読めるのだ、これで桃李様の思考を読み、桃李様の望みを桃李様がおっしゃられる前に叶えれば、桃李様も俺を見てくれるに違いない!

桃李様から距離を置き、


「鑑定」


《鑑定眼》を発動する。


***


名前 中川なかがわ 桃李とうり


年齢 15歳


種族 人間


職業 学生


思考 ふふふ、だいぶ下僕が増えてきたようね。邪魔だったあの子も排除できたし、これからは私がマドンナよ。それもこれも……


***


そこまで見て、俺はウィンドウを閉じる。


「ど、どういうことだ?」


あんな可憐でおしとやかな彼女があんなことを考えているなんて……






ーーーギャップ萌え‼︎


〜〜〜




そう、俺は桃李様に惚れてしまったのだ!


しかし、この3日俺は桃李様とろくに話せてもいない。

下僕扱いされているとも知らず、周りのファンがさらに増えていき、近づけなかったのだ。


そして今、数学の授業中、俺は素晴らしい作戦を思いついた。

《鑑定眼》?バカ言っちゃいけねぇ。あんな物不誠実じゃねーか。愛する桃李様に、そんな物使えるわけがない。


俺はどっかの天才高校生がノートを棄てる場面を思い出しながら言う。


「『何なんだよ』、この問題」


何てことはないただの愚痴、しかし、《鑑定眼》のキーワードだ。

そう、「鑑定」以外でも《鑑定眼》は使えるのだ。

その《鑑定眼》で見るのは隣の席。


***


名前 田上たがみ こう


年齢 16歳


種族 人間


思考 ーーー隣の人うるさい。ーーーずっとこっち見てる。怖い。


歴史 0歳……





ステータス


LV28

HP:94/94

MP:0/0

STR:67

VIT:94

INT:67

MIN:175

AGI:67


状態異常 ニキビ


***


ニキビって状態異常なんだ⁉︎

これは使えるかもしれない。


鑑定の途中、彼女は目があった時にビクッとしてからこっちを決して見なくなった。

少し気になるので俺はもう一度思考まで画面をスクロールさせる。


***


思考 ーーー隣の人うるさい。ーーーさっきからずっと見てる。怖い。ーーーもう見るのやめたかな。きゃっ、目が光ってる?ーーー……


***


俺は《鑑定眼》を切る。


新事実‼︎‼︎

《鑑定眼》中は目が光る‼︎

最悪だ。怖がらせてしまったかもしれない。


そもそも、何故俺が桃李様に対する作戦で隣の席の奴ー田上を見るのかというと、諺に起因する。


王を虜にしようと思わばまず馬を射よ


昔の人はいいことを言う。

俺の高貴な作戦を簡単に言うと、


『桃李様と仲のいい奴を惚れさせれば桃李様に近づけるんじゃね?』


ということだ。

この田上、長い前髪を下ろして前が見えてるのかも怪しく、ほとんど喋りもしないくせに、桃李様とは中学が同じらしく、桃李様と一緒に登校し、休み時間も時々話している。


そう、こいつこそ桃李様の馬!

顔を前髪で隠しているのはニキビだけでなく、顔も馬だからかもしれない。


とにかく、他の馬鹿な奴らとは違い、桃李様を落とすため、俺はこの田上を落とすことに決めたのだ‼︎


キーンコーンカーンコーン……


授業終了のチャイムが鳴り響いた。


明後日にはスキルも入れ替えられるし、来週中には田上こいつを落とすかな。

俺の楽しい高校生活のためにな。

はっはっはっは……。


俺の悪役風の笑い声が、脳内に響き続けていた。


〜〜〜


帰りの挨拶も終わり、校門で彼女を待つ。


誰かって?もちろん、田上である。


そう、俺が田上を落とすと決めたあの数学の時間から俺は田上に話しかけ続けた。


「前髪長いね」


とか、


「田上さんって無口だよね」


とか、他愛ない話だ。

目も合わせてもらえなかったけどな‼︎


まぁ、恐らく数学の時間、俺の目が光ってたのが原因だろう。

しかし、妹の高い無視スキルにたえ、長年ウザがられ続けてきた兄を舐めちゃいけねぇ。

諦めずに話し続け、お昼の時も図々しく隣に座り、話しかけた。

そして、ついに反応を得た‼︎


「俺の目が光ったのって実はコンタクトなんだ」


「……!……見せて」


「え?じゃ、じゃあ放課後に一緒に帰ってくんね?そ、そん時見せてやるよ」


突然の返答に驚くが、コミュ力の高さで切り返す。コミニュケーション力だからコミ力だな。


「…………。分かった」


随分長いこと考えたのち、返答があった。来た!




そして今、


俺はコンタクトがないことに気がついた。


しかも、田上は昇降口で靴を履き替えている。

ヤバい。どうしよう。



そんな、絶体絶命の俺の前に神が現れる。

いや、ジジイのことではない。同じクラスのデブだ。



何故かって?あいつは今、制服を着崩した明らかに不良っぽい奴ら5人に校舎裏に連れていかれようとしていたのだ‼︎

これはチャンス!


俺は田上の方に向かっていき、それを指差す。


「悪りぃ、あいつ助けに行きたいから、コンタクトはまた今度にしてくれ!」


完璧だ!これでコンタクトの件を有耶無耶にし、かつ俺の正義感に溢れるかっこいい姿を田上に見せることができた!


「やだ……今」


そう言いながら俺の袖を掴む。こんなオカルトちっくな見た目じゃなきゃかわいいのにな‼︎

というか、ずっと黙ってたのにコンタクトに反応したのも驚いたけどなんでこいつはコンタクトに執着すんだよ‼︎


その間にもデブは不良に絡まれながら校舎裏に連れて行かれる。

そして、校舎裏に入った‼︎今だ!


「やっぱごめん!来週絶対見せるから!間に合わなくなっちゃう!先帰ってくれ」


袖を掴む彼女の手を優しく払い、俺はこの4日で劇的に進歩した「速歩き」でデブが連れて行かれた校舎裏へ向かう。


ありがとうございます‼︎

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ