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第58話 ジョーカー

遅くなりました


テッテレテッテッテー、毛皮ぁ!


俺は短剣の男ことサッシさんに衣服とまでは言え無いものの、腰巻として利用できる程度の装備を頂き、野人のような格好に進化した。


向こうは都合良く魔女ことシェイさんの《ブレイズウェーブ》によって衣服が焼けたと思ってくれたらしいのだ。


「本当にすまなかった。こんなところまで冒険者以外の人間がこんなところにいるなんて思ってなかったんだ。シューヤは無傷とは言うが、味方に致死性の魔法を当ててしまったんだ。街に戻れればそこで出来る限り……」


紳士だ。

魔物を退け、丁寧に俺に話しかけてくる。

一瞬、冒険者以外と言われたことで反応しかけたが、俺の冒険者登録は済んでいないので、今の俺は「俺たちの冒険は始まったばかりだ!」転じて「俺の冒険はまだ始まってない!」である。


「いや、無傷なのに服ももらいましたし、不用意に近づいた俺も悪かったんです。これ以上何かは必要ないです。それより周りの魔物を倒して街を守ることが先じゃないですか?」


こんなイケメンのサッシさんを騙して、腰巻を手に入れた思うと気が重いが、俺じゃなきゃ死んでもおかしくないし、何より魔物を裸で殺しながら突き進んできた事実を話すのはさらに気が重いので何か言うのは止めておいた。周りに魔物いるしね!


「そいつがあんなタイミングにいたのが悪いんでしょ」


裸だったことが原因か距離が遠い女性陣のうちの1人、シェイさんが俺から顔を背けながら言う。

身構えていれば、もっと言えば詠唱付きの炎の魔法という超厨二な光景に見とれていなければ、避けられたのは確かなので彼女の言うこともまた確かである。


「まぁまぁシェイちゃん素直になれないのねぇ」


おっとりした口調で場を和ませながら、メイスと言うような鈍器で魔物を殴り殺しているのが修道服のミリーさん。


「この辺の魔物は装甲が厚くて敵わんわ。ミリーは鈍器そんなものでよく殴り殺せるな」


先程から魔物を虫けらのように……いや、虫型の魔物だけど、叩き潰しているおっさんことドラフさんが全く敵わないようには見えない余裕の表情で尋ねる。


「私の場合ぃ、衝撃で内部を破壊しているからぁ、この程度の装甲は関係ないのぉ」


「はっはっは、全くわからんな!」


なんというか個性的なパーティーである。パーティー名は『ジョーカーズ』Aランクの中でも上位のパーティーらしい。

他の冒険者のパーティーは高い視力によって遠巻きにチラチラ見えただけだが、こんなに余裕のあるパーティーはない。


他のパーティーは敵の情報や、連携の声を掛け合っているというのに、このパーティーはずっとこの調子、時々シェイさんが炎をぶっ放す時以外は片手間で敵を倒すような雰囲気だ。

そんな雰囲気でミリーさんにサイドから迫る攻撃をドラフさんが防いだり、シェイさんが殺しきれなかった魔物にサッシさんが止めを刺したりと見事な連携を見せるのだから驚きだ。


「そういえばぁ、シューヤくんのぉ仲間はどうしたのぉ?1人でここまではさすがに来れないでしょぉ?」


「おいミリー、そんなことを聞く必要はないだろう」


そうか、ここは戦場。ここでボッチというのは死に別れみたいなことを連想させるのか。


「いや、気にしなくていいですよ。俺は仲間と一旦別れてるだけなんで」


うん、俺はボッチな訳ではない。

仲間がいて別れただけだ。


「はっはっは、1人でこの魔物の中を?戦場での冗談は覚悟して言え、ぼうず。それが最後の言葉になるかもしれんからな!」


俺は先程からシェイさんとともに中央で守られていて、戦闘には参加していない。故に俺のレベルを彼らが知らないから言ってくれたのだろう。ドラフさんの言葉は何か重い気がして心に留めようと決めた。


「あんたたち、良い報告と悪い報告がきたわどっちが聞きたい?」


先程から会話に参加せず、遠くのものに言葉を伝えるという魔法、《ウィンドレポート》から開発されたという魔道具、魔伝思までんしによって情報を得ていたシェイさんが報告をする。

携帯電話のような物らしいが、少し大きめのペンダントのような趣でかなり小さい。

通話中に紅く光るそれが美魔女の大きな胸の上にあるのだからかなりあざといと言える。

まぁ、実際は消費魔素量の関係で魔法を使うのが得意なシェイさんがつけるしかないだけらしいが……


「チッ、もったいぶるなよ。さっきよりかなり楽になったとはいえここは戦場だぞ」


楽になった理由はもちろん、シェイさんが戦闘に本格的に参加しだしたからだ。


サッシさんに怪しまれない範囲で聞いた話と、先程からの会話をまとめると、空気中の魔素量が下がっているために(俺のせい)その身体をまともに動かすことにさえ魔力を消費する大型の虫系の魔物や、飛行型の上位種が弱体化しているらしい。


難しい論理を置いとくと、飛べる魔物や、でかい魔物のために高火力を起こせる魔法使いの一部を温存させていたが、飛べなくなってたり、トロくなってたから使って良いよ〜ということらしい。


その確証を得た連絡を南側方面の責任者パーティーであるジョーカーズのシェイさんが受けたのだ。

最初の《ブレイズウェーブ》にはその事を全体に伝える意味もあったらしい。


ちなみに魔王軍の襲来は大きく北、東、南の3方向からで、俺が田上たちと別れたのが東側だ。


「つまんない奴。東側で魔王と眷属の魔人が新入りに倒された代わりに加勢として地中からジャイアントの大群が来たらしいわ。ギルドマスターが応援に行ったらしいけど、敵は五千近いらしいわ……」


新入りってのは俺らのことだろうけど、そんなことになってるのか。

こうなったらさっさとこの辺を片付けてそっちに行きたいな。

てか、ジャイアント地中から来るの⁈


「応援は?」


「まだに決まってるでしょ?ウェタン(ここ)はメガニカの最前線とはいうけど


「ハァ、もったいぶった割には大したことないな、割と長く居させてもらった街だ、防衛の後に復興の手伝いくらいはしてもいいだろ」


「え?諦めるんですか?」


復興の手伝い、と聞くとまるで。


「シューヤくん、その言い方はひどいよぉ。私達だって街を守りたいけどぉ、緊急で集まった戦闘可能な冒険者は千人ちょっとだったのにぃ、3方向からそれぞれ千体近い魔物が襲ってきてたんだよぉ?そこにさらに五千体ってのは守りきれないよぉ」


「残念ながらSランク昇格テストは先になりそうだな!」


「俺たちには南側ここを守るという責任とプライドがある。そもそもいくら敵が弱体化していると言ってもこっちもギリギリなんだ」


まあそうか、今の話を聞いた分では3倍の戦力差相手に街を守らねばならない訳だ。3倍の戦力があれば落城も出来るって言うしな。

ウェタンの街にも大きな外壁があったが、この数の5倍の魔物が押し寄せたらひとたまりもないだろう。


……でも、俺が居れば。


「サッシさん、確かにジョーカーズの皆さんと、南側の冒険者だけじゃ辛いかもしれませんが、俺も居ますよ?」


「あんたねぇ!話聞いてたの?五千体相手にどうにかなるとは思えないし、ここだって守んなきゃいけないの!あんたが魔王並みのレベルでも難しいのよ!」


魔王並みつまりレベル2000位か予想外に早く訪れた機会に先程のドラフさんの言葉を思い出し、覚悟をして返す。


「私のレベルは3000です」


正確には3500ちょっとだが、それはあまり関係ない。この語感が大事なのだ!

そんなことを思いながら周りを囲んで守ってくれているドラフさんたちを飛び越し、戦闘に参加する。


サッシさんの戦い方を見て思うところがあった俺の手には小石。


俺はもう戸惑わない。

人間相手では無理だが、必要な殺生には戸惑わない。

彼らは俺の居場所を襲ってきているし、俺は殺した奴らは食べるなりなんなり活用する。


ものを投げるのは人間の動作としては不自然な動きであるらしいが、俺のSTRをもってすれば関係ないだろう。

後ろに腕を大きく振りかぶり、肩を回して肘を伸ばし、手首をスナップさせ、段階的に加速させる。

加速の始めの段階で空気を叩く音が響き、ただの小石が、発砲された銃弾のように飛び出す。

地表を削りながら飛んでいく石は魔物は音がその耳を叩く前に、魔物に当たり、又は当たらずとも衝撃波によって身体の一部を奪う。


そして俺の前に1行の空白ができた。


「お、おい、そりゃなんのスキルだ?」


サッシさんの戸惑う声。


「サッシ、こいつが手に持っていたのは石だった。多分土魔法系の何かじゃない?」


「でもぉ、魔法の気配はぁしなかった気がしますよぉ?」


「ぼうず、お前、何をした?」




……や、り、す、ぎ、た。


ナイフを投げるという点からヒントを得たのだが、まさか魔物の体を貫通してここまでの範囲攻撃になるとは思わなかった。

魔物硬そうだし、本気で投げとこうと思ったのが失敗だった。


うん、サッシさんたちドン引きしてるな。……まあいっか。


俺の技(石投げただけだけど)に驚いたのか、はたまた空気を読んだのか周囲の魔物も動きを止める中で、同じく石を投げたフォロースルーの形で固まっていた俺は言い訳とか色々諦めて振り返る。


「俺、レベル3500なんです!」


辺りがざわつく中で、ドラフさんが真剣な表情で尋ねてくる。


「本当か?ぼうず。本当に膂力だけであれだけの威力を出したのだな?」


やっぱりまずいのだろうか。なんかジョーカーズの人たちの表情が思いつめた表情にも見えてくる。

こういう時は。


「はは、本当ですよ〜ついでに魔王倒したのも俺と仲間ですよ〜」


笑って誤魔化す!

突然、シリアスな雰囲気になったら笑って誤魔化すに限るな!


「考える時間をくれ」


サッシさん!そんな神妙に返さないでよ!なんかさっきまでの雰囲気が懐かしい。


しかし!笑った事で若干心に余裕ができたのは事実。

笑顔は世界を救うんだね!

余裕ができたついでに辺りを見回すとここはかなり異様な空間になっている。

他の戦場では戦いが続いているにも関わらず、俺たちを中心に少しの空間だけは魔物も動きを止めている。

もちろん、無警戒という事ではないようだが、戦闘音の代わりに聞こえるのは魔物の話し声……話し声?


「おい、マジかよ」

「いやだってそれだと魔王様より……」

「そうだよ人間でそんなのありえないよ」

「いやでもさっきの石投げたの見ただろ。魔法じゃなかったぞ……」

「魔王様も倒したって言ってたぞ」

「そういえばさっきから魔王様からの伝令はないよね」

「じゃあ本当に……」


ミスった。盛大にミスった。

《言語理解》によって俺の声は魔物にも理解ができるのだ。

俺が持っている情報を敵側に垂れ流しにしてたんじゃねーか!


「有名な冒険者なのか?」

「いや、ドラゴンの最上位よりもレベルが高い人間など聞いた事もない」

「でもぉ、シューヤさんからはぁ悪い感じはしませんよぉ?」


なんか気づいたらジョーカーズの人も話してるし、俺だけ置いてかれた感がすごい。

話している魔物に不意打ちというのもなんかやだし、適当に耳をすます。


「……ギルドに確認をとったわ。あいつは特殊な例らしくて、何にしても戦いが終わってからギルドマスターのおっさんがなんとかするらしいわよ」


「そうか、じゃあ味方でいいんだな」


ジョーカーズの方で話がついたみたいだ。


「えっと、話はつきましたか?」


「ああ、お前の話をひとまず信じようと思う。南側の戦いの手伝いをして欲しい」


なんとか信じてもらえたようで良かった。

一度ギルドに閉じ込められたし、不安な気持ちも笑ってごまかしていたのだ。


「分かりました。よろしくお願いします。えっと……魔物!お前ら殺すよ!」


良心の呵責と似たような気持ちだろう、話している魔物に宣戦布告を行う。

返答は期待していない、戦闘開始の合図のつもりだった言葉に思わぬ返答がくる。


「「見逃してください!!!」」



最近筆が進みません……

なんとか書きますのでスピードはご容赦下さい。

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