第50話 異なる異世界
「えっと、どういう状況なの?」
俺は鈴音の友達の髪をおさげにまとめ、ダサめのメガネをかけた現役JCに向かい合うように座り、質問する。
「えーとですね、信じてもらえるかはわからないんですが……まぁ、色々あったんですよ。ハハハハハ」
「ハハハハハ……で、その色々の内容を聞きたいんだけど、信じるから話してくれないかな」
突然笑って誤魔化そうとし始めた妹の友達に合わせて笑ってみるが、話し出しそうにないので真面目な顔で聞く。
俺の腕に女子が光を見るときのようなポーっとした表情でくっつくどう考えても異常な鈴音はほっておけない。
「はぁ、これから話すのは嘘のような本当の話です。……話さなきゃだめですか?」
「お願いします」
話を聞かない事にはこの状態の鈴音を治すすべも分からない。
「まず、前提条件として、私は電波系少女でも、重症厨二病患者でもありません」
「まぁ、本人がそう思ってないだけかも知れないけどな」
どうでもいい事だけど重症厨二病患者って書くとめっちゃ漢字多いな。
ふりがなつけたら厨二感出せる気がする。重症厨二病患者みたいな。
「すいませんが、思い込みでもない前提で聞いて欲しいです。
事の始まりはおそらく、私がある古書店で買ったゲーム《ブラコンクエスト》です」
「は?」
おい、《ブラコンクエスト》ってあれじゃん!
丁度1ヶ月半くらい前、俺が《異世界でチートしよう‼︎》を買った日、その日になんとなしに見たクソゲー臭プンプンの中古ソフト。
その名前を聞いてまず、疑問が浮かんだ。
「なんでそれ買ったの?」
「え、えっとそ、そこは聞かないでいただいて話を進めてもいいですか?」
「そうか、うん、ごめんな。話をしてくれ」
うん、人には知られたくない好みの1つや2つ、4つくらいはあるよな。
俺だって……これ以上は俺の膝を枕にし、幸せそうに寝息を立て始めた妹にブツが立って感づかれる危険があるので止めておこう。
こうして俺はいつも可愛い妹がなんでこんなにお兄ちゃん名利の可愛すぎる状態になってしまったかを聞く事になった。
〜〜〜
「アキバハラは雰囲気が違いました」
妹の友達、松井さんが話してくれたのは、中々に衝撃的で普通ならば信じられないような話だった。
なんでも少し前にちょっとした興味で買って、忘れていた《ブラコンクエスト》を昨日見つけ、今日遊ぶ事になっていた鈴音とやろうと持ってきたらしい。
説明の部分までは不自然に高い解像度で可愛げも何もないおじいさんが説明を行っていた事以外は何もおかしくなかったが、それを見終わると、突然光に包まれて目を開けたときには西部劇の舞台のような寂れた街にいたらしい。
混乱する2人の前に西部劇のカウボーイのような格好の男、トニーが現れ、
「世界中のお兄ちゃんに素直になれない女の子が暴走している。どこかにそれを助長している親玉がいるからそれを倒して欲しい」
といった内容を伝えたとか。
トニーは彼女らに『エンジェルガン』と使い方を2日かけて授け、2人を1人前まで育てると、『アキバハラ』というところに向かったらしい。
そこからは2人で『エンジェルガン』といういかにも日曜朝のヒロインが使っていそうな見た目の武器を使いこなし、襲いかかる幼稚園児から老婆まで、東洋人から欧米人まで、幅広い層の女性に兄への愛を自覚させる事で、世界中の、さまざまな街をクリアしていき、とうとう敵の親玉の街『アキバハラ』まできたらしい。
「雰囲気が違う?」
「はい。彼女たちは私達に向けて殺気……いや、歪な愛を向けて来るのですが、その密度、鋭さがそれまでのステージとは桁違いでした。
私たちは『エンジェルガン』の扱いに慣れ、調子に乗っていたせいで、余計に実力の差を感じてしまい、隙だらけになっていました。
そして、撃たれてしまったのです」
「撃たれた?相手は銃でも?」
「トニーが言うには『エンジェルガン』だそうです。白髪の女に撃たれました。
私たちがアキバハラの地に降りた瞬間でした。
雰囲気に気圧されていたがために気配を殺して戦うトニーと白髪の女に気づかず、鈴音ちゃんが撃たれた直後に白髪の女に逃げられたトニーが、鈴音ちゃんがその女に撃たれたという事を伝えてくれました。
そして、彼は続けて言ったのです。
『異世界に帰りたいか?』と。
鈴音ちゃんが撃たれて怖くなっていた私は迷わず頷きました」
「それで戻ってきて、俺の部屋に潜んだと」
今までの話、先ほども言ったが普通なら全くもって信じられない話だ。
「はい、私は止めたんですが、鈴音ちゃんが……」
「うん、まぁ部屋に入ってたのは別に良いよ、でさ、本当は何があったの?」
普通なら信じない……俺も信じないよ⁈
いや、厨二も厨二の超厨二じゃないですか!
というかストーリーがひどいでしょ!
脈絡も何もあったもんじゃない!
厨二全盛期だった俺も似たような話を光に静かに聞いてもらったことがあったからこそ黙って聞いてたけど、なんかもう、ダメでしょ!
松井さんは、俺の言葉に質問の意図が分からないような顔を一瞬だけすると、ダサめのメガネの奥から少し悲しそうな目を向けてくる。
「……そ、そうですよね!何言ってんだかわかりませんでしたよね!頭おかしいやつだと思いましたよね!すいません。さ、最後にゲームだけ見てもらっても……」
え、え?な、泣いてる?
俯いてしまってからは表情が伺えないが、鼻をすする声が聞こえる。
「み、見るよ見る見る!なんなら俺がクリアするから!ね、泣かないで!」
「でも……」
「良いから良いから」
俺は素早く立ち上がり、自分のD○から久しぶりに『異世界でチートしよう!』を抜き、『ブラコンクエスト』を入れると電源を入れる。
スタート画面は妙に背景が綺麗でまるで写真のようだ。
『続きから』を選ぶと現れたのはリアル白ひげ白髪ジジイ……。
ゲームは普通のゲームならあり得ない理由でスタート出来ない。
「松井さん、信じるよ。2週間後、うちに来てくれる?妹のことは俺が決着つけるから」
「え……はい!私も微力ながら協力させていただきます!」
ダサメガネの奥から少し赤くなり、輝いた目を向ける松井さんを俺が立つと同時に目覚めてしまった妹とともに送り届ける。
はぁ、2週間後までその世界に行けないのはあのジジイの趣味らしい。
ありがとうございます‼︎