第48話 つまらないゲーム
短いです
「秋夜、1人少なくても全力でいくぜ?」
「手ェ抜く余裕なんてないだろうよ!」
球技大会は数人が怪我をするというアクシデントも乗り越え、進行していく。
俺たち7人はB組と試合をするために、フィールド中央で礼をした後、それぞれのポジションに散らばる。
1人少ない状況で、相手であるB組は8人中6人がサッカー部。
今にも雨が降り出しそうな雲の下、俺は先ほどとは違い、ゴール前にキーパーとして構える。
事前に田上に鑑定してもらい、相手が《肉体強化》の状態でないことは分かっている。
それでも相手には光がいる。
誰よりも熱心に練習していて、努力し続けているあいつをなめてかかる訳には行かない。
「お前ら!北沢に優勝報告するぞ!」
「「「おう!」」」
ピー!
甲高い音に高揚した気分が頂点に達し、雲に覆われた空に向かって叫びたい衝動に駆られる。
その気持ちを抑え、抑え、抑えて、溢れるように呟く。
「正々堂々勝負だ。光」
〜〜〜
終わった。
試合が終わった。
結果は0対0、PK戦での勝利だ。
コートの周りを囲うように応援していたクラスメート、フィールドで、俺の方へ走ってくるチームメイトの喜びの声が他人事のように聞こえる。
試合終了を待っていたかのように降り出した雨から逃れるために、閉会式は体育館で行われるらしい。
みんなが一旦落ち着き、体育館に向かって行ってしまい、さらに大粒の雨に打たれてもなお、校庭に佇み続ける俺に声を掛けてきたのは光だった。
「秋夜ぁ!濡れるぞ!なんでこんなとこ立ってんだよ!というか少しは喜べよ!お前、俺のシュート止めまくりやがって!恨みでもあんのか?」
「いや、なんでもない。ちょっと何やってんだか分かんなくなっちまってな」
そう。
この球技大会、俺の最大の敵は光のはずだった。
だからちゃんとキーパーとして仕事をしようとしたし、実際0点に抑えた。
でも、俺の心に残ったのは勝利の喜びではなく、虚無感。
対戦ゲームで友達を倒すためにレベルアップしたのにその友達が大したことなかったような、さらに友達は3ヶ月もゲームにかけていたのに、俺が努力したのは3日間だったような……
いや、『ような』ではない。そのままその状況なんだ。
俺は光のシュートを止めきった。
しかし、何千、何万と打つことによって洗練されてきたであろうそのシュートは俺にとって余りにもぬるかった。
鳩のハットンの手伝いも、《ウィンド》も使うまでもなく簡単に止めることができた。
簡単すぎた。
「なんだよ、つまらなかったみたいな顔しやがって!お前ら勝ったんだろ!もっと喜べよ!俺たちが弱いみたいじゃん!」
そうだよ。お前が弱かったんだよ。
努力してたお前に、なんで何もしてない俺が勝っちまうんだよ。
本当に何なんだろう。
「ああああ!悪い!なんか嬉しすぎて実感できなかったわ!勝っちまって悪かったな光!」
もやもやした気持ちを心の奥にしまい込み、テンションを無理やり上げる。
「本当にそうだよ!完璧に止められたからな。俺もまだまだだ!滝、お前あんなに上手いんだ。またサッカー始めないか?」
このタイミングで『サッカー始めないか?』ってのはダメだろ。
俺はお前みたいに強くない。
だから逃げたんだ。
「ヤダね!サッカーやってても彼女できねーし!じゃあちょっと、表彰されてくるわ!」
「おい!待てよ!せっかく迎えに来てやったのに1人で行くなって!」
我慢できなかった。
努力も実らないし、バランスも崩壊したクソッタレな人生に虚しく、やるせなく、どうしようもない気持ちが胸の奥からこみ上げてきて、雨で隠せない雫が目からこぼれて、光から顔を隠すように背を向けて走り出した。
閉会式を終えた後、クラスメートにに祝福を受け、サッカーを選んだ皆んなと一緒に何故か引きつった笑みのトーリ様に感謝を伝えた。
「無理に笑わなくていいと思うぜ」
「ち、ちょっとお花を摘みに行きますわ」
感謝を伝えた後に何気なくトーリ様に言った一言でトーリ様は俺から逃げるように走っていく。
さっきの俺と同じような反応だ。
嬉し涙でもプライドの高いトーリ様には許せないのだろう。
俺がチートを使って勝ったという事実を知ったら泣くほど喜んでくれたトーリ様や、チームの奴ら、クラスメートはどう思うのだろう。
家に帰って少しでも気持ちを収めようと布団に叫び、貰ったなんの意味もない賞状を机の奥にしまった。
寝てしまえば落ち着くかもしれない。
球技大会がいつもの授業より早めに終わり、早く家に帰れた俺は、通り雨の音が止む前に意識を手放した。
ありがとうございます!