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第47話 決戦

長めです

ウォーミングアップをA組とB組の試合中に済ませ、俺たちはピッチに立った。


勝者は予想通りB組で、決勝の相手は光になるらしい。


俺たちの朝練は話題になっていたらしく、クラスの女子も他のクラスより多めに応援に来ている気がする。


「円陣組むぞ!」


気合を入れていこう。


「お前ら、今日までよく頑張ってきた!

お前らが頑張ってきたのはサッカー部に勝つためか?」


「「「違う!」」」


「そうだ、それは手段でしかない。

いくぞ!俺たちは絶対!」


「「「リア充になる!!」」」


「C、D組のサッカー参加者はコートに入ってください!」


気合を入れた俺たちはピッチの中央で整列する。

気合の入った俺たちにD組の茶髪野郎が話しかけてくる。


「お前ら球技大会のために朝練やってたんだろ?まじウケるよな」

「あの噂ガチだったの?その上さっきリア充が何ちゃらとか言ってたし?」

「可哀想だろ?こいつらは女引っ掛ける勇気もないチキンなんだよ」

「お前ら止めとけって、チキンが怒ると突いてくるぜ?」

「「「ハハハハハ!」」」


バカにしてやがる。

こいつらは確かにリア充かもしれないが俺たちの目指すリア充は断じてこんなのではない。


同じことを思ったのだろうトーリ様ファンの帰宅部が口を開く。


「舐めんなよ!お前らみたいな……」

「かまってやるな。心は熱く頭はクールに行こう。勝つのは俺たちだ」


俺が止めに入る前に陸上部の早田が止める。


「そうだ、早田の言うとおりだ負け犬の話なんて聞き流せばいい」


「「「……」」」


おいおい!笑えよ!仲間じゃん!


いや、笑い声が聞こえる?

中西か?


「ククク、どっちが負け犬かな?お前らが立てなくなるまで俺たちの力を見せてやるよ」


イタい!厨二病じゃん!俺のシャレを無視して厨二病ぶち込むとかイタすぎる!


サッカーで立てなくなるとかどんだけだよ!


「じゃあ試合始めます。気をつけ〜礼」


「「「お願いします」」」


丁度審判役のサッカー部のやつの声がかかり、俺は全力で笑いを堪えながら礼をする。


「試合を始めます!」


ピー!


笛の音とともに中西がボールを目指して駆け出す。


キックオフシュートか?


キックオフシュートはスタートからいきなりシュートを打つやつで、普通の試合ではまず入らないが、コートの小さい球技大会で、サッカー部が蹴ると言うのならまぁ悪い手ではないだろう。


「相手が良ければ……な?」


様子がおかしい。

中西の体はボールを高く飛ばすというよりは体を被せて低く早く打とうとしている。

アレでは最初の威力が出ても普通、ここまで届かない。


もしかしてあいつ……!


「みんな!伏せろ!」


俺の声に反応して、殆どの奴が伏せるものの、中西の正面の帰宅部だけはキョロキョロしている。


「伏せろって!帰宅部!」


叫ぶと同時に駆け出す。


「俺?てかちゃんと名前覚えろよ!北沢だよ!」


ズドン!


ボールを蹴る音とは思えない音で蹴られたボールが北沢に向かって直進する。


パシン!


ボールが当たったとは思えない音で北沢……を守った俺の体にボールが当たり、走っていた俺の勢いが衰え、ほんの少し痛みが走る。


痛い?


俺が止まると同時に体からボールが剥がれる(・・・・)


「おいおい大丈夫か?」


中西が声をかけてくる。


「問題ない」


「ククク、おいおい運がいいな!でもお前じゃねーよ破れちまったボールに言ってんだよ!」


そう、俺の足元には破れたボールがあるんだ。


「お前、何者だ」


ここは現代。

俺以外の人間がボールを蹴って破ったり、俺の体に少しでも物理的にダメージを与えるなんてあり得るのだろうか?

中西も何かしら持っている?


「ククク怖いか?怪我しないうちに止めとけよ」


「すいません!ボールの交換をします!少し待ってて!」


審判がボールを取りに行く間にチームを集める。


「お前ら。あいつのボールを見たな?あれは普通の奴に受けれるボールじゃねえ。お前らが受ければ確実に大怪我をすることになる。提案だ。この試合、下りないか?」


あいつらは危険だ。

俺一人で戦うなら何の問題もないが、こいつらがボールに当たれば何があるかわからない。


「「「下りないぜ」」」


「お前ら見ただろ?あんなの……」


「お前のボールの方が全然早いから」

「滝のボールは当たったら死ぬよ?大怪我する程度なら問題ない」


「お前ら……」


「やるよ。俺たちは今日のために練習してたんだ」


何を言っても聞きそうにない。


「チッ、わかった。絶対にボールに当たるな。相手のタックルに当たるな。死ぬ気で避けて点取ってこい!」


「「「「おう!」」」」


ポジションに戻り、準備する。


それにしてもあいつらは何なんだ?


「……《肉体強化》」


後ろから声がかかる。

驚いて振り向こうと……


「……前を見て。宇宙人。なんでだか分からないけど、魔法による《肉体強化》が相手にかかってる」


魔法?使える奴がいるってことか?


「……分からない。彼奴らの中に魔法を使える奴はいない」


まぁ誰が使ったかは重要じゃない。


「勝てるか?」


「……宇宙人なら」


試合再開と同時に再びボールが飛んでくる。

今度は全員伏せているので問題ない。


さっきとは違い、回転をかけてボールが破れないようにしたらしい。


俺はその蹴り方を身につけるのに結構な時間を掛けたんだが、そこは流石サッカー部といったところだろう。


しかし、俺には関係ない。


上がった視力で回転を見極め、吸収するように手を動かして完璧に止める。


「お前ら!行ってこい!」


前線に向かって軽くボールを投げる。


陸上部のやつがボールを収め、再び試合が始まった。


〜〜〜


残り時間は殆どないにも関わらず、点に動きはない。


こちらのゴールへのボールはもちろん俺が完璧に防ぐものの、前の奴らも相手のタックルも全て避けるとなると、殆どボールを前に運べないからだ。


「チクショウ!あいつ何者なんだよ!なんであんな格好をしてて入んねーんだ!」


中西からボールを受けた下っ端が無茶苦茶なフォームで打ち、それでもなお相当な力を持つ危険なロングシュートはゴールの上を過ぎる。


「まただ!ちゃんと抑えて蹴ってんのにどういう理屈だ!」


大したことではない。

ただの上昇気流だ。


《ウィンド》によってゴール前の一定エリアに強い上昇気流を起こし、ボールをそらしているのだ。


俺以外を全員攻めにする戦術はこの上昇気流にチームメイトを巻き込まないようにする意味もあったのだ。


俺がゴール前で俺が《ウィンド》をコントロールしているうちは絶対にゴールは入らない。


ちなみに《ウィンド》の風は俺の体から外側に向けてしか起こせないので、俺はゴール前に顔だけ横に向け、うつ伏せに寝そべっている。


「お前らのシュートなんて怖くねーんだよ!」


俺は立ち上がり、何度目になるかわからないが、前線にボールを送る。


しかし、これも何度目になるか分からないが、相手のタックルを受けることが出来ない前線の奴らはボールを失う。


そして試合開始直後以来初めて、中西がシュートフォームに入る。


「《ウィンド》」


俺は休日のお父さんのごとく寝そべり、ウィンドを発動する。


このまま試合が終われば、PK戦になるルールだ。

俺がゴールを完璧に守り、PKも蹴って点を取れば問題ない。

そろそろ時間だ。


正直油断した。


点は取られないと。

このまま試合が終わるだろうと。


そんな俺の耳に不自然な声が入る。


「俺たちの努力を無駄にしないために!ここで中途半端に終わるわけには行かねーんだよ!」


帰宅部だ。

そう、あいつが中西のシュートを止めようとスライディングをしているのだ。


「北口ぃ!やめろぉぉぉ!」


俺の気持ちが届いたのか、幸い、中西はすでに足を振り始めていて、このまま行けばスライディングは間に合わない。




しかし、このままは行かなかった。


中西は口元を歪ませると、軸足を帰宅部の方へ回転させる。


そして、足を振り抜いた。


「ぎゃぁぁぁ!」


ゴール前で寝転がっていた俺は即座に立ち上がり、帰宅部の元へと向かう。

俺以外の奴らもみんなが北沢の周りに集まる。


「痛い!痛い!クッソ痛いぜ!ハハハハハ!ダメだわ!自分勝手で悪いみんな!なんかチームのためにやりたかったんだけどよ!後は任すわ!勝ってくれ。あと滝、俺は北沢だよ……」


北沢は痛がり、思いを託し、今は目を閉じて唸っている。

小刻みに震えていて、顔色も悪い。


「保健の先生呼んでくる!」


審判のサッカー部が保健室の先生を呼んでくる間、俺たちは一人も喋れなかった。

ただ、北沢の唸り声と、隣の女子グランドの声が聞こえた。


保険の先生に指示され、担架で北沢を運び出す。


救急車を呼んだらしい。


俺たちがグラウンドに戻ってきたとき、D組の奴らは笑い声で迎えてくれた。


「見たか?『ぎゃぁぁぁ!』とか言ってのたうちまわってよ!」

「『ううん!あああ!アン!』とか唸っちゃってな!」

「おいおい、『アン!』だと別の声だろ!あいつが言ってもそそられねーよ!」


「「「ハハハハハ!」」」


体をはった北沢への嘲笑だ。


「おい!中西!お前わざと、わざと北沢を狙ったな!」


柔道部の奴が中西の胸ぐらを掴む。


「おいおい、わざとじゃねーよ!なんだ?柔道部が暴力か?」


「止めろ、柔道」


「名前覚えろよ、柔道じゃねえ永井だ。こいつがわざと北沢を……」


「止めろ!北沢は勝てって言ったんだ。仇はこの試合に勝つことでとるぞ」


渋々といった様子で永井があとに引く。


「おいおい?仲間やられてそれでいいのかよ?怖くなっちまったのか?」


中西が煽ってくるが、今の俺は虫の居所が悪い。戯言に付き合う余裕はない。


「審判、早く始めてくれ」


「はい、ド、ドロップボールから再開します両チーム代表者を」


「「俺がいく」」


皮肉にも、俺と中西の声が揃う。


奥の手、使うしかないな。


ドロップボールは特殊な理由でプレーが止まった際に、各チームの代表者2人の間で審判の手からボールを落とし、地面についた瞬間からプレーが始まるという、あまり見ない特殊なルールだ。


俺以外が行けば確実にもう1人やられる。


「それでは始めます!」


審判の手からボールがこぼれ、俺と中西の間の地面に向かう。


「おいおい、逃げなくていいのか?」


中西の戯言を聞き流し、俺は足を振り上げる。


そして地面にボールがついた瞬間、俺ではなく中西の足がボールを叩く。


そしてその直後、中西の足からボールが離れるより早く足を振るう。


ズドーン!


俺と中西の蹴り足がボール越しにぶつかり、ゴキ、と嫌な感触が足に伝わった。


「うぁぁぁぁぁ!」


響く中西の奇声も無視し、俺はボールを蹴りやすい位置に置き直すと同時に指を鳴らす。


パチン!


澄んだ音が空に響き、俺に対してディフェンスに来ようとしていた相手に大量の羽音が迫る。


そう、これが俺の奥の手。

そしてバンを要求してきた夜の来客者たち。


俺は相手ゴールに向けて、軽くボールを蹴り、元のポジションであるゴール前に戻るため、歩き出す。


「うぁぁぁ!」

「なんだよこれ!」

「どうなってんだ!」

「キショい!キショい!」


D組の選手は突然の襲撃者にパニックに陥り、動くことが出来ない。


パチン!


D組の選手を邪魔していた大量の()は飛び去り、フィールドには驚きを隠せない選手達と中西、ゴールに入ったボールだけが残る。


ピー!ピピー!


「滝ぃぃ⁈」

「お前何やったんだよ⁈」

「手品か⁈お前手品師だったのか⁈」

「ありえねぇぇぇ⁈」

「勝ったのか?」

「滝の最後のシュートが謎すぎて実感ねー!」


試合終了を告げるホイッスルが鳴り、2Cの奴らが俺の元へと駆け寄ってくる。


「審判!悪いが中西をなんとかしてやってくれ!」


「分かった!」


この後、今日2台目の救急車が呼ばれたことは言うまでもない。


この試合を終わらせたくて、長めになりました。

サッカーのルールや用語で分かりずらい点がありましたら感想等で指摘していただけるとありがたいです。


読んでいただきありがとうございます!

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