第45話 決戦準備
主人公は2年C組、光と結城さんは2年B組です。
一部書き間違えていたので修正しました。
グウゥゥゥ……
腹の音で目がさめる。
外は暗くなっていて、『日曜日って短いな』と言おうとして、7日も過ごしたことを思い出して止めた。
階下に降りて行くと、テレビの音と、飯の匂い。
カレーだな!
ドアを開けて、食卓へ向かう。
日常に戻ってきた。
「あら、起きたの。彼女を一人で帰したダメ彼氏さん?」
「からかうなよ!別に彼女ってわけじゃ……」
「ウゥーウンッグ……ゴクン。彼女⁉︎こいつに⁉︎」
ジャガイモか何かを喉に詰まらせていたらしい鈴音が驚きの声を発する。
そんなに驚かなくてもいいだろ!
俺だって彼女の1人や2人……いや、いたことないけどね!
「だから違うって、驚きすぎだろ!やいたの?」
「は、はぁ?やいてなんかないから!あんたなんか相手にする変態がいるとは思え無いしね!」
「いや、変態とか言うなよ!」
「とにかく!あんたに彼女とかありえ無いから!」
「ほらほら鈴、やきもち焼かないの」
「やいてない!明日起こさないよ?」
「ごめんごめん!悪かったって!それなんだけど、明日は少し早めに起こしてくれないか?」
「はぁ、しょうがないわね」
あぶねー!いや拗ねられちゃ困るんだよ。
なんたって明日は球技大会の前日。
最後の朝練けん作戦会議がある。
「鈴ったらニヤニヤ笑っちゃって、お兄ちゃん大好きね」
「ちょっと母さん余計なこと言うなって!」
顔を真っ赤にした鈴音が立ち上がり、何も言わずに食器を流しに置く。
「もう知らない!自分で起きろ!」
バタン!
ドアが壊れそうな勢いで閉じられる。
明日、どうしよう……。
〜〜〜
遠くから音が聞こえる。
この心地よい微睡から俺を連れ出そうとする音。
耳につく高いベルの音。
起きなきゃいけないのかもしれない。
でもな、俺は思うんだ。
睡眠って何より尊いものだと。
例えどんな理由があっても人の睡眠を邪魔しちゃいけないと。
俺の手が音の発信源を探り、掴むと同時に無造作に握りつぶす。
止まったのは12個の内のたった1つ。
俺の安眠を邪魔する警報音は未だに鳴り続ける。
俺は安眠を諦めない!
人の睡眠は何より尊重されるべきだ!
「起きろ!馬鹿!」
全身に悪寒が走る。
主に下半身のジュニアの辺りに途轍もなく恐ろしい予感。
男性のシンボルの危機に全身の毛が逆立ち、細胞が目覚める。
「鈴音おはよう!起きてるよ!」
目の前にはエプロン姿の鈴音。
ベーコンの油がはねて服が汚れてから着るようになったらしいピンク色の可愛らしいエプロンだ。
最近は毎日見るようになっているが、可愛いの前に思うことがある。
怖い!
そう、彼女の足は数瞬前まで俺のジュニアがいた部分のマットレスを凹ませているのだ!
震えそうになる自分に言い聞かす。
鈴音は殺しに来たんじゃない、起こしてくれたんだ!
「二度寝するつもりだったでしょ!どんな力があったら目覚まし時計粉々に出来るのよ!」
「うん、ありがとう。でも、個人的には寝ている兄のシンボルを本気で踏み潰そうとしてくる妹の精神が知りたい」
「起こしてもらっといて文句?別に潰さないでフライパンで焼いてもよかったんだけど?」
確かに正論ではあるが、下半身がキューっとちっちゃくなる。
「いや、すいません!文句なんかないです!というか、死んじゃいます!」
「死ね!朝ご飯下!」
「はい!今すぐ!」
ああ、なんて出来のいい妹なんだろう。
この妹が《鑑定眼》とか手に入れたら思考を読まれて俺のジュニアは速攻で絶命するな。
そんなことを思いながら相変わらず美味しい朝ご飯をいただき、学校へ向かう。
〜〜〜
「滝!本当にちゃんと来たな!」
「絶対自分で言っておくれる奴だって言ってたとこだったのに!」
「あー、遅れてこいよ!遅れる方にかけてたんだぜ?」
「大穴きたー!」
「あら。負けちゃいましたわ」
「お前!トーリ様負けさせてんじゃねーよ!」
校庭に向かうと好き勝手な声が聞こえてくる。
トーリ様に関しては俺に責任全くないだろ!
運動部の部活が始まる前なので、もともとかなり早めの時間をさらに少し早めにしているので、結構早いはずなのだがテンションは上がっているようだ。
「来るに決まってんだろ!というか、何で来る方が大穴になってんだ!こらぁ!運命の日は明日だ!サッカー部に勝つぞ!」
「「「「おっしゃぁ!」」」」
みんなの気持ちは高まり、アップと、体操から始める。
練習については小中学校でサッカーをやっていた俺が考えた。
個人の特徴、希望を聞いて、ポジションを決め、初めはそのポジションごとで練習をする。
8人のチームにもかかわらず、フォワード志望が4人いたので、その全員をトップに配置するという鬼ポジションだが、全くもって問題ない。
そもそも我が4Cにディフェンダーはいないのだ。
いや、いらないのだ!
なぜかって?俺がキーパーだからだよ!
そう、そもそも俺はSTR以上にAGIが高い。
常人、というかこの世界の人間が蹴った球なら余裕で反応できるのだ。
むしろ、俺がドリブルをすると、STRで誰かを確実に病院送りにすることに気がついたのだ!
そんなわけで俺がキーパーのこのチームに負けはない!
勝つために、フォワードが4人、中盤が3人、後はキーパーというポジションは最適なのだ。
キックや、軽いジョギングで体をあっためるとフォーメーション練習に入る。
もちろん7人で攻めるのを俺が1人で守る練習だ。
「おら!」
柔道部のガタイのいい奴がかなり様になったフォームでシュートを打ってくる。
俺はボールを優しくキャッチし、7人の方に投げ返す。
「綺麗なフォームで打ててたぞ!」
次にボールを持ったのは桃李様教の帰宅部。
体は細いが、トーリ様への愛のおかげか、休み時間や放課後の一部でも練習していたようで、テクニックが付いてきたらしい。
俺が投げたボールを綺麗にトラップする。
俺は一瞬でボールに接近し、ディフェンダー役をする。
もちろん全力ではないものの、こういう時の俺の速度は明らかに人間の出せる限界を超えてると思うのだが、こいつらは慣れてきたらしく、驚きもせずに細かいタッチで俺を抜く。
もともとフォワードだったからディフェンスは苦手なんだよ!
「早田!」
パスを受けるのは初日からやる気のあった陸上部。
陸上らしくスピードを生かして走り回る。
陸上部は朝練があるにも関わらず、その前に練習をしているのだからすごい奴だ。
受けたボールを完璧にトラップし、無人のゴールにシュートする。
「おら!きまれ!」
「よっしゃナイッシュ!」
「やっと決まった!」
「あまーい‼︎」
俺は地面を蹴り、ボールを追い越すと、ゴールの前で余裕を持ってボールをキャッチする。
「マジかよ!」
「そんなのあり⁈」
「お前人間じゃねーだろ!」
「なんかもう反則だよな!」
口々に文句を言ってくるが問題ない。
俺は相手チームにはいない。
このメンバーならサッカー部にだって勝てる!
「いい攻めだったぞ!お前ら!この調子なら勝てるぜ!」
「一点も取らせてないくせによく言うよ!」
「大人げねーぞ!」
「大人じゃねーからな!」
はははと笑いあう俺たち。
本当にこれならサッカー部にも負けないと思う。
「陸上部が来たわ!グラウンドを開けなさい!」
トーリ様の声が聞こえる。
グラウンドの明け渡しの時間のようだ。
「「「「はーい!」」」」
やたら揃った返事をする彼らに若干いたいものを見るような眼差しを向けそうになるのをこらえ、トーリ様の元へ向かう。
「うちのシェフに作らせた蜂蜜レモンよ!ありがたく食べなさい!」
「「「「ありがとうございます!」」」」
トーリ様は俺の予想を裏切り、マネージャーとして働いてくれた。
周りの奴らはメロメロで最近はなんだか俺だけが取り残されてる気さえしてきた。
なんにしても、明日は問題なさそうだ。
そんなこんなで安心した俺は授業中しっかり睡眠をとり、明日の決戦に備える。
「……宇宙人!先生が叩いてる!」
声が聞こえた気がするが、睡眠は何より尊重されるべきだと思う。
評価が付いていて、テンション上がったので本日2話目投稿です。
我輩の辞書に書き溜めの文字はない!
夏休みって素晴らしい!
読んでいただきありがとうございます!