第41話 地下室
3時間弱くらい経っただろうか。
真っ暗で殺風景な地下室では時間の感覚がなくなる。
流石にほっときすぎじゃなかろうか?
ここまでとなると壊しても正当防衛で通るよね!
俺は《アイテムボックス》の整理を終えて、脱出方法を考え始める。
そう、ラノベもゲームも無い暗闇の中、俺は《アイテムボックス》の整理をして時間をつぶしていた。
あくまでイメージで、何の意味があるかも分からないが、頭の中で《アイテムボックス》に入っているものはひとまとめにしたり、逆に分割したりできるみたいだ。
整理の結果、俺の《アイテムボックス》に入っているのは、
***
世界中の魔素
約26250000000000000000MP(約二千六百二十五京MP) ×1
ドラゴンの胃液×1
緑竜の頭蓋骨×1
藻だらけの布×1
魔火種×1
小枝×276
枯葉×2529
水約2キロリットル×1
グレンジ×7
銭入れ×1
***
と、こんな感じになった。
小枝や枯葉が木の種類ごとに分かれていたのをひとまとめにしたのが主な作業で、あとは小枝と枯葉の水分だけを水の方に分けたくらいだ。
作業を終えた今はもっぱら中身がブドウのミカン、グレンジを食べている。
さて、脱出方法だが、
まず単に殴る。これが1番単純かな。
「どっこいしょっと」
声に合わせて立ち上がり、蒼い光の壁に近づく。
殴ってもいいけど、両手にグレンジを持ったままだし、蹴りでいっか。
助走をとって走り込み、右足を高く引き、左足も深く踏み込む。
上半身は手を大きく広げてバランスを取りながら逸らした体を元に戻す勢いも利用して……
ゴーン‼︎
「痛ってぇぇぇぇ!」
光の壁には波紋は広がるものの破れる気配はない。
てか、痛すぎる!
破れると思ってたんだもん!
しばらく悶絶して転げ回り、足をさすりながら座り直す。
まぁ、脱出方法は別に物理攻撃以外にもある。
ここは剣と魔法の世界なんだ!
「《ウィンド》!」
空気が移動し、壁に激突する。
壁には波紋が表れるが、やはり破れる気配は無い。
そして、暴風は俺をも襲う。
そう、俺は密閉された空間内で強風を引き起こし、空気を移動させたのだ!
「ギャァァァァ!」
俺の体は風が止むまで暴風によって上下左右あらゆる方向に飛ばされ、壁や床に叩きつけられた。
「気持ち悪い」
完全に酔った。
グレンジが口から出てきそうだ。
「大分暴れて疲労しているようだな」
酸っぱい胃酸の味を味わいたく無いがために、地面に這い蹲りながら息も絶え絶えになっている俺に声がかかる。
波のように襲う嘔吐感に耐えながら何とか顔を上げ、声の方を見れば、そこにいたのは筋肉隆々のダンディなおっさん。
顎髭がここまで似合う人物はなかなかい無いんじゃ無いかと思う。
多分こいつがギルドマスターだな。
彼の隣には受け付けのお姉さんの姿もある。
「はぁ、はぁ、説明をお願いします」
この人達は俺を意図を持って拘束したとしか考えられ無いが、俺には全くと言っていいほど冒険者ギルドに対して何かしたという覚えは無い。
「説明?まだばれて無いとでも思っているのか?ステータスプレートの偽装の件だよ!」
偽装?そんなことは断じてやってい無い。
そもそも、そんな器用なことが出来るスキルを持ってい無い。
「そんなことしてねーよ!証拠でもあんのか?」
「おいおい、本当にばれ無いと思ってたのかよ。
そもそもこんなステータス値の人間がいるわけがねーだろ。
現在人類最強の剣帝のレベルが1300!
人類史で最強と言われる勇者様のレベルが1500!
更に、魔王のレベルが2000、最強の魔物であるドラゴンの推定最高レベルは2500!
それなのにお前のレベルは3527。ありえねーだろ?」
これだけ実例を挙げられると流石に反論できねーな。
魔王もセーブポイント扱い出来るわけだ!
「ははは……」
つい、乾いた笑いが口から漏れる。
「それとな、決定的な証拠はお前の意識があることだ。
お前のMPは35。
その程度のMPなら1分もかからず気を失ってるはずなんだよ。
なんたってこの魔法陣は……」
「ギルドマスター、それ以上は言い過ぎかと」
なるほどな、ここまでヒント貰えば異世界転移に憧れてきた俺なら分かる。
俺のMPを使って結界を張ってやがるんだ。
確かに俺のMPは35だが、《アイテムボックス》の中には二千京以上のMPがある。
一部分でもそれを使えば、俺のバグステータスでも壊れ無い丈夫な結界の出来上がりってわけだ。
「大方隠蔽系の強力なスキルを持ってて調子に乗ったんだろうが、頭の方がちょっと悪かったな。
まぁ、能力の説明とか、その能力の弱点とかを話してくれれば……」
「そんなもの知らねーって!マジでそのレベルなの!」
「話すことはねーか。
まぁMP切れて結界切れる前に気を変えてくれや。
その結界がギルドや国家、人類全体を欺こうとしたお前の命を繋ぎ止めてるからな」
タチが悪い、口振りからして、こいつらはこの結界を解く方法を持ってねーんだ。
中の人間のMPが切れれば自動で無くなる結界。
逆に、それ以外の解除方法は無い。
俺にそれを壊せる戦力はなく、俺のMPは二千京越え。
俺がこのまま何もしなければ待っているのは餓死。
……どうしよ。
またもや高すぎる能力のせいで命の危機に瀕している俺の耳に慌ただしい足音が入る。
階段から現れたのはさっき見たメガネの受け付け。
「ギルドマスター!魔物です!大群が街に押し寄せています!」
「魔物の大群?んなこたーさっき聞いたよ。
上で呑んだくれてた奴らに臨時依頼出したのも、この詐欺師の尋問があんなに遅れた理由の1つだろ!
心配はいらねえよ。お前も知ってんだろ?あんなんでも最前線としての実力と、誇りはある」
「それが、彼らの戦線を越えてきているんです!」
「何?どういうことだ?」
「彼らは戦っていますがかなり押されています。向こうは今までで最大規模の大群と、魔人、魔王もいる可能性があるそうです!」
「魔王の総戦力ダァ?チッ、メンドクセー事しやがって!
どんくらい持ちそうだ?」
「彼らも全力を尽くしていますが、あと1時間は持たないかと……」
「ギルド職員で街の人の避難を、臨時依頼に参加していないE、Fランクの奴らも使え。
……俺は少しでも時間を稼ぐため、戦場に向かう」
酔いが一気に醒める。
グルングルンしてた頭がいつもより妙にクリアになるものの、思うように働かない。
おい、ちょっと待てよ。
魔王が攻めて来てんのか?
臨時依頼が出ただと?
……メイと田上は?
「おい!メガネの美人さん!さっき俺と受け付けにいた奴らは⁉︎あいつらは依頼に参加してるのか⁉︎」
「今も戦っているかと……
メイさんは真っ先に向かい、コウさんも私の制止を無視して行きましたから」
おい、ヤバイだろ!
さっきの話だと魔王のレベルは2000それに対するメイのレベルは800ちょっと。
田上に関しては30くらいだ。
俺が行かねーと!
「出してくれ!俺のレベルがあれば街は守れる!
俺のレベルは本物なんだよ!」
「悪いな。冗談を聞いてる場合じゃねぇみテェだ。
お前のレベルが3500ってんならよ、見せてみろよ。
もしお前がその結界を抜け出せたら認めてやるよ。
まぁ、その結界は絶対に壊せねえだろうがな。
詐欺師じゃ無いってんなら、自分の女を守りたいってんならなんとかしてそっから出やがれ!」
そう言ってギルドマスターは2人の受け付けを引き連れ去っていく。
「本当にすいません」
最初に会った受け付けのお姉さんの謝罪の残響が俺俺を閉じ込め、無力にしたこの部屋の静寂を妙に強くした。
ありがとうございます!