第37話 旅夜
なんだ?ずいぶん木がでかいな。
木だけじゃない、滑り台も、ブランコもやたらとでかい。
いや、俺がちっちゃくなってる?
そういえば昔見たことがあるような光景だ。
そうだ。俺が引っ越す前の前の家、小6で引っ越した家の近くだ。
別に父が転勤の多い仕事とかいう訳じゃないのに2回も引っ越してんだよな。
「……どうしたの?」
後ろから声がかかり振り返る。
そこには俺より少し背が高い少年?少女?がいる。
髪は短く、いつも帽子をかぶっていて、細い手足を紺色の長袖長ズボンで隠したその子とはこのころよく遊んでた気がする。
よく考えてみれば名前も知らないし、年も知らないこの子となんで遊び始めたんだろう?
「別に何かを見てたんじゃないよ。何かして遊ぼうよ」
勝手に口が動く。記憶だからか。
「……何がしたい?」
「うーん…… 」
確か負けたくなかったんだよな。
この子相手では本当に何をやっても負けてた。
何を聞いても答えてくれたし、頭も良かったと思う。
サッカーをやってたし、足には自信があったのに、鬼ごっこでも負けた時は尊敬した。
走るのは早くないけど、タッチしようとするとすごい綺麗に避けられたのだ。
そうして考えている間に音楽が流れ始めた。
白い文字盤が鮮やかなオレンジ色に染まる時計から流れるなんだか寂しくて大嫌いだった音楽。
「ごめんね『ーーー』そろそろ帰らないと」
そう、この子はこの音楽が流れ始めるといなくなってしまう。
一部聞きとれなかった。
多分俺のことを呼んでたんだと思うけど、なんて呼ばれてたのか思い出せない。
変な呼ばれ方だった気がするな。
「……バイバイ」
鮮やかなオレンジ色の太陽に照らされて紺色の背中は真っ黒に見えた。
〜〜〜
「ちょっとぉ!どれだけ寝てるんですか!お料理冷めちゃいますよ!」
メイの声に料理ではなく、目がさめる。
「ふはぁあ、どんくらい寝てた?」
「……料理してる間ずっと30分くらい」
思ったより寝て無いな結構長く夢を見ていた気がするんだけどな。
俺の鼻を魚の香ばしい香りがくすぐり、いつの間にか真っ暗になってしまった世界の中で焚き火に照らされる料理が目に入る。
「……2匹塩焼きにしたから食べちゃって」
「みんなで食べましょう!」
俺たち3人は焚き火の周りを取り囲み、それぞれ魚を手に取る。
「「「いただきます!」」」
俺たちが生きるために命を落とした魚に感謝の気持ちを込めて叫ぶ。
一口、熱々の身が、程よい塩加減で口の中に広がり甘味さえ感じる。
美味い。
時々口の中に骨が刺さりながらも、一気に一匹食べた。
「本当にうまいな。もう一匹もらうぞ!」
「どうぞどうぞ」
田上が作っただろうにメイは調子がいいな。
「いただきます!」
一口、焼け過ぎて軽く水分の飛んだ身が濃い塩味と共に口に入る。
あれ?
さらに後から発がん性を疑うレベルの苦味が俺の口を支配する。
表は変わら無いが、裏を見てみればかなり焦げているらしい。
「田上、ちょっとしっ……塩っ気を強めにしたの?」
失敗、と言いかけて言葉を止める。
俺の第六感が全力で警鐘を鳴らし、脳細胞が情報を整理する。
2人でのコソコソ話、なぜかメイがどうぞといったこと、そしてキラキラ期待したような目で自分の皿に目もくれずにこちらを見つめるメイ。
これは!もしや!
「実は!シューヤさん!それ私が作ったんですよ!」
はい!キター!
あぶねーマジで。失敗とか言ってたら思っきし地雷じゃん!
「これ、メイが作ったのか。
海底でも火を使う料理ってあるのか?」
「魔道具で海の水ごと温めて、茹でることならありますけど、火を使うのは初めてです!」
「初めてでこれはすごいよ」
実際、初めてだったらちゃんと焼けるだけすごいと思う。
俺がやったら形が残ら無い自信がある。
「そんなにうまくできてますか?じゃあ私も改めて、いただきます!」
メイは照れたように頬を赤く染め、クニャクニャしながら魚に手を伸ばす。
そして一口。
「うっ、水ください、なんかすごく苦くないですか?」
「ちょっとだけな!」
俺がアイテムボックスからコップに水を入れている間にメイは魚の裏側を見てしまった。
目が大きく開かれ、それをこちらに向ける。
「も、もしかしてシューヤさんのも?」
「えっと、ちょっとだけな」
「ごめんなさい!私が食べます!」
「いや、もう食べたよ。努力の味がして美味しかった」
メイと話しながらも食べ続けていたのだ。
「本当にごめんなさい!」
「……メイは今日から特訓」
食事を食べ終わった俺たちは野宿の準備を始める。
今日はさっき寝てしまった分俺が見張りをやろうと思っていたのだが、2人の勢いに負け、寝転がってしまった。
仰向けになって星を見る前には既に俺の意識は飛び始めていた。
〜〜〜
旅が始まって4日目の朝、とうとう目的の町、ウェタンが見えてきた。
周りの者を威嚇するような高い壁に囲われ、壁の周りに既に人々がいる。
確か魔物の素材を輸出することで有名な町だった気がする。
長旅で疲れたし、まともな宿にたどりつけるのはいいな。
大きなクマを目の下に作ったメイと、今日になってからはいただきます以来言葉も発していない田上を背負いながら俺は長蛇の列に並んだ。
ありがとうございます!