第2話 脱出
「投稿しちゃったな〜、今回やっとチートするし、明日の投稿楽しみだな〜様子見てみよう!」
ブックマーク4件
ウォォォォ⁉︎
「投稿」
俺がドラゴンの胃液を《アイテムボックス》に収納してから30秒。
俺はドラゴンの中で洗濯されていた。
正確には、おそらく苦しんで転げ回っているドラゴンの腹の中で魔物の死骸と共に新しく分泌される胃液に消化されていた。
「痛い!」
さっきから顔や足の露出した所に胃液が当たって痛い。
そもそも、俺が胃液を収納したのは胃液の恐怖から逃れ、あわよくば「ドラゴンがお腹壊して吐きだすんじゃないか」という期待のためだ。
なのに、脱出どころかドラゴンの身体が危険を感じたのか胃液の分泌のスピードも、さっきより早い。
少しでも皮膚に当たる胃液を減らすため、丸まりながら転がっていた俺だが、とうとう胴体部分の皮装備も溶けてきたらしい。
なんとか抜け出す方法を考えないと、今度こそ死ぬな。
《アイテムボックス》は胃液がひとまとまりになってない以上、入れることもままならないし、何よりさっき一度失敗している。
《鑑定眼》もさっき一通り調べた上、打開策は思いつきそうにない。
《魔法抵抗》は無効化する魔法がないから論外。
《メテオ》は……もう、《メテオ》に頼るしかないのだろうか、まだ死にたくないし、そんな覚悟も出来てない。今 《メテオ》……
チクッ!
「メテオ!って、えぇぇぇぇぇ!」
ヤバい、俺が《メテオ》と死の覚悟について考えている途中で感じた、胃液によるひりひりとは違う痛みに驚き、つい「メテオ」って言葉にしちゃったよ!
「何なんだよ!」
言葉に反応したのか俺の前にウィンドウが現れる。
***
ジャイアントの足の棘
説明………
***
ジャイアントって巨人のことだよな⁉︎なんで足に棘ついてんだよ! というかどうでもいいよ! 確かに何なんだって言ったけどさ、いちいち反応するなよ!
《鑑定眼》の無駄性能は置いといて、未だにドラゴンは転がり続けているが、《メテオ》は発動してしまったのだろうか?
もしかしたら、発動していないかもしれない。
俺が魔法を使えてしまう唯一の可能性である《アイテムボックス》の中身を確認する。
***
世界中の魔素
約26250000000000000000MP(約二千六百二十五京MP) ×1
ドラゴンの胃液×1
***
「約ってなんだよ!」
そうだった、「約」でしか出てないんだった。
さっきまではこの数字の大きさにただ、「すげー」「チート⁈」としか思っていなかったが、二千京もあるのに、「約」の数字しか出なかったら、(よく覚えていないが)たかだか消費MP10や20の《メテオ》を使ったかどうかなんて分かるわけがないのだ。
俺を隠す布もだんだん減ってきてヒロインに対するテンプレの服溶かしみたいな状態になってきた俺は全身がひりひりして痛い。
因幡の白兎や、かちかち山の狸になった気分だ。
それにしても、これだけたっても隕石が落ちてこないってことは、俺は異世界に来たのに魔法も使えないってことか。はぁ。
というかそもそも死にかけてるんだったーはははー。
俺結構余裕だな。
ヒリヒリとかさっきジャイアントの足の棘がチクッとしたとことかがちょっと痛いだけだし、死ぬ実感湧かねーからかな。
もう、だいぶ時間たったし、《メテオ》は発動しなかったんだろうな。
ガツンッ
達観したような俺にまた何か衝撃があった。しかも今度は後頭部。反射的にそれを掴んだものの俺は何が当たったのかも分からないまま意識を手放した。
〜〜〜
「グルル」
「グラウ!」
そんな複数の鳴き声と共に、俺は目を覚ます。なんだか異世界に行く夢を見てた気がするな。
目を開けると星空が広がっている。
こんなに綺麗な星空は初めて見る。
「ふぇ⁉︎サブッ‼︎」
俺の格好はまさかの全裸。
周りを見渡すと、飼い主の顔を見てみたくなるような真っ赤な毛をした大型犬が俺に群がっている。
まぁ、全裸の状態で飼い主来ても困るんですけどね!
「ガルル!」
うっ、怖っ!
綺麗な星空と鮮やかすぎる赤の犬達に現実感を抱けずに寝ぼけ眼の俺は、全裸の寒さと犬達の目に宿る殺気?のようなもので目を覚まし、サッと立ち上がると流れるように身を翻し……
「助けて下さぁぁぁい!」
逃げ出した。
赤い犬達との距離はどんどん広がって行く。
あれ?俺ってこんなに足早かったっけ?というか、この草原どこ?
余裕が出た所でそんな疑問が不意に浮かび、それでも更に走って完全に振り切ってから足を止めた。息を整える。
落ち着いてから、思い出すまでは早かった。
結論を言おう。
俺は本当に異世界に来たらしい。
となると問題なのはどうして「生きているのか」だ。
分からないことは調べる。
ということで、前回役に立たなかった《鑑定眼》を使う。
「鑑定!」
***
名前 滝 秋夜
年齢 16歳
種族 人間
職業 学生
思考
あっ、思考とか忘れてたわ。全力スクロールしねーと……
歴史 0歳……………………
………………
…………
ステータス
LV53
HP:325/325
MP:5/5
STR:117
VIT:117
INT:169
MIN:65
AGI:169
スキル
《鑑定眼》LV.MAX
見たものの使用方法や状態、ステータスなどの情報が分かる。
《アイテムボックス》LV.MAX
何種類でもいくらでもものを入れることができる。生物は入れられない。重量制限無し。
《魔法抵抗》LV.MAX
自分の半径1メートル以内の指定した魔法を無効化する。所持者に死の危険がある場合無条件で無効化する。
《メテオ》LV.MAX MP15
火、土属性。巨大な隕石を落とす。
装備 緑竜の頭蓋骨
***
おお⁈MPが5になってる‼︎これで俺も立派な魔法少年だな!
そして、レベルが2倍以上になっている!
こんだけ大幅なレベルアップから見て、ドラゴンを倒したのは俺だろう。
俺が倒したのだとしても、俺の今までの人生で培ってきたレベルがドラゴン一体倒すだけでって……まぁ、ドラゴンだし、いっか。
そして『緑竜の頭蓋骨』俺が気を失ったのはこいつが後頭部に当たったからか。
というか、こんなに重いもん持って走ってた俺は馬鹿か?なんかイライラするな。
「おらっ!いて!」
イラついたので裸足の足で蹴ってやるが傷がつかないどころか俺のHPが減った。
黙ってアイテムボックスにしまう。
むかつく頭蓋骨のことは忘れて、考察に入る。
先ずどうやってドラゴンを倒したのだろう。
レベルが上がっている以上、吐き出されたとは考えにくいし、溶きかされたはずなのに無傷だし、実際どうやって倒したんだろう?
俺は珍しく真面目に考えてみる。全裸で。
考えられる要因は
《メテオ》
くらいだった。それしかない。そうだ。そうに決まっている。
「とりあえず、確認のために打ってみるか」
確認のためという名目のもと、魔法を打ってみたいという衝動に負けた俺は思い切り息を吸う。
「メテオぉぉぉぉ‼︎」
メテオ メテオ メテオ……。俺の気合のこもった声は山彦となって虚しくあたりに響き渡った。
なんで⁈《メテオ》が発生しない理由がわからない。いや、やはりアイテムボックス内のMPは使えないのかもしれない。
そうだ!MPを見ればいい!
今、俺を馬鹿だと思った奴は手を挙げなさい。
確かに《アイテムボックス》のMP表示はいい加減だが、「約」ということはメッチャ減らせば分かるということだ!
一京回ぐらい叫んでやるよ‼︎
俺は再び息を吸い込む。
「メテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオはぁ、はぁ」
息が苦しくなると、のけぞったり、意味もなく回ったりしながら、俺は続ける。
「メテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテヨメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオはぁ、はぁ、はぁメテオメテオメテオメテオメテオメテオメタオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオメテオ」
ゴォォ……
はぁ、はぁ、はぁちょっと待って……めっちゃ暑い。
ゴォォォォ……
うん、一京回とか無理だね。そもそも俺は一京という数がどれ位か知らない。国家予算くらい?
ゴォォォォ…………!
「さっきからうるさいな!」
疲れながらも考え事をしている俺をさっきから邪魔している音にイラつき、見上げると……
めちゃクチャでかい山が俺の方へ落ちて来ている。「逃げなきゃ」と思うも、もう遅い。
山は俺に直撃……
はせずに、山は1メートル程上で消えた。
俺に当たるより先に削れた地面にはクレーターのようなものが出来ている。
ゴォォ……
俺から1メートルほどのところで消える……。魔貫○殺砲、もといドラゴンブレスと同じ状況じゃないか。
つまり、《魔法抵抗》が発動したということ……。
ゴォォォォ……
うん、全部分かったよ。
まず、《メテオ》の特徴について。
《メテオ》の発動待機時間は長い。そして、《魔法抵抗》が自動発動したことから、ダメージは俺にも入る。
ゴォォォォォ……‼︎‼︎
次に、ドラゴンは《メテオ》でたおした。《メテオ》は土属性だけでなく、火属性も持っているから、ドラゴンの死体は残らず、燃え尽きたのだろう。俺のレベルアップした肉体で、あんなに早く息が切れたのもおそらく、《メテオ》で気温が上がってたからだ。俺の運動不足のせいではない。
ゴォォォォォォォォォ‼︎‼︎‼︎‼︎
最後に俺は《アイテムボックス》内の無尽蔵なMPを使って、わざわざ回りながら、色んな方向に、《メテオ》を詠唱した。
その心は……
ズッッッドドドドド……‼︎‼︎‼︎‼︎
俺の周りは砂煙りと灼熱に覆われた。灼熱で、HPは減るものの、どこかで聞いたようなレベルアップのファンファーレがバグのように聞こえ続ける俺のHPは、すぐに回復する。
どうでもいいことだが、レベルアップするとHPは回復するらしい。どうでもいいな。《魔法抵抗》を意識すると、そのHPも減らなくなった。
俺の憧れた異世界は、俺のチートによって破壊されていく。
もう、《メテオ》の熱は感じないはずなのに、俺の裸体を目から出た熱い何かが伝った。
そして、やかましい二つの音が収まると同時に、その視界が白く染まっていく。
そう、まるで光の暴力が俺の網膜を直接襲うように……。
ありがとうございます!
作者は欲を出しています。いつか感想がもらえる日を信じて、明日も投稿します。